Febri TALK 2022.08.08 │ 12:00

梅原翔太 アニメーションプロデューサー

①自分も特別な存在になりたかった
『デジモン』シリーズ

CloverWorksのアニメーションプロデューサーとして、『ワンダーエッグ・プライオリティ』や『その着せ替え人形は恋をする』といった話題作を次々と手がけている梅原翔太。若き敏腕プロデューサーである彼が、アニメ業界へと飛び込む要因となったアニメ3作品についてのインタビュー。最初の作品は、青春の思い出である『デジモン』シリーズ。

取材・文/岡本大介

『デジモン』を見てから 部活に出かけた青春時代

――TVアニメ第1作の『デジモンアドベンチャー』は1999年の放送です。リアルタイムで見ていたんですね。
梅原 はい。当時は中学生だったと思いますが、4作目の『フロンティア』までは毎週欠かさずに楽しんでいました。初期の4作品、いわゆる「デジモン四部作」は日曜の朝に放送されていたので、これを見てから部活の練習に出かけるというのが習慣でした。なので、どこが好きかという以前に「青春時代とともにあった作品」という印象が強くて、それで今回選びました。

――もともとアニメは好きだったのですか?
梅原 そうですね。同時期の作品だと『ポケットモンスター』や『犬夜叉』『カスミン』なども好きでしたし、それよりも前だとジブリ作品はどれも大好きです。

――『デジモン』シリーズでとくに印象に残っているシーンやエピソードはありますか?
梅原 リアルタイムでも視聴していたのですが、いまだに無印(『デジモンアドベンチャー』)の最終話はハッキリとおぼえています。パートナーデジモンたちとの別れのシーンで、パルモンが「ミミー!」って泣きながら走ってきて途中でコケるんです。すると列車から顔を出していた太刀川ミミの帽子が宙に舞って、その瞬間に主題歌の「Butter-Fly」が流れるんです。あの一連のシーンがすごく印象的で、よくモノマネをして友達に見せていました(笑)。

――最終回にふさわしい感動的なシーンでしたね。
梅原 バトルや友情のシーンもいいんですけど、個人的には別れの要素というか、ちょっと悲しかったりと悲哀を感じるところが好きだったかもしれないです。あとは、たまに流れる一風変わったエピソードも印象深いです。とくによくおぼえているのは『デジモンアドベンチャー02』の第13話「ダゴモンの呼び声」ですね。

――八神ヒカリが不思議な世界に迷い込むお話ですね。
梅原 とにかく全編にわたって不気味な雰囲気で、いろいろと謎めいた現象が起きるのですが、結局なにも理解できないまま終わって。ずっと「なにこれ?」ってモヤモヤしていました(笑)。当時はネットもなかったので調べられなかったのですが、大人になって調べてみたら、このエピソードはクトゥルフ神話がベースになっていて、その後『デジモンテイマーズ』のシリーズ構成を務めることになる小中千昭さんが脚本を手がけたものだということを知りました。そういえば『デジモンテイマーズ』もそれまでの2作品に比べて鬱々とした雰囲気があってすごく印象的だったので、そのときに初めて合点がいったというか「なるほど」って思いましたね。

思春期だからこそ全力で楽しめた

――印象に残っているキャラクターやデジモンについてはいかがですか?
梅原 あえて1組を選ぶなら高石タケルとパタモンのコンビです。タケルは最年少で泣き虫な子供で、パタモンもそれに合わせて最初はすごく弱いんです。でも、それが作中で進化するとすごく強いエンジェモンになって、そのチートっぷりやギャップが好きなんですよね。

――現代まで続く長いシリーズですが、「デジモン四部作」以外も追いかけているのですか?
梅原 細田守監督の劇場版(『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』)は見ましたね。中学生や高校生だった当時だから最高に楽しめたというのもあると思います。学生時代はバスケ部で、それなりに真面目に取り組んでいたのですが、それでも思うように成果が出なかったんですね。頑張っても報われないということにしんどさをけっこう感じていて、そんなときに「選ばれし子供たち」が活躍するストーリーというのが救いになったというか、その時間だけは日常を忘れることができた気がするんです。今思うと、僕もある日突然「選ばれし子供たち」になれるかもしれないっていう淡い期待もあったのかもしれないですね(笑)。思春期だったからこそ全力で楽しめた作品です。

――この作品がプロデューサーという仕事に生かされている部分はありますか?
梅原 深夜アニメの場合、本編映像を優先させてオープニングやエンディングを削ったり、あるいは本編映像と重ねて流すことってあるじゃないですか。それはそれで作品への没入感だったり余韻という意味で効果はあるんですけど、僕が参加する作品に関してはできる限りオープニングとエンディングはしっかりと流したいと思っているんです。主題歌というのは作品世界と現実を行き来する、いい意味でのスイッチだと考えていて、それは『デジモン』シリーズの影響が大きいですね。僕自身が学生時代、日曜日の朝に主人公たちと一緒に冒険をして、エンディングを境にして気持ちを切り替えて部活の練習に出かけていた体験があるので、今でもその感覚は大切にしています。endmark

KATARIBE Profile

梅原翔太

梅原翔太

アニメーションプロデューサー

うめはらしょうた 神奈川県出身。大学卒業後に動画工房に入社。その後、A-1 Picturesに移籍し、現在はCloverWorksに所属。制作進行として数々の作品を担当したのち、2016年に『三者三葉』でアニメーションプロデューサーを務める。主なプロデューサー担当作品は『ワンダーエッグ・プライオリティ』『その着せ替え人形は恋をする』『ぼっち・ざ・ろっく!』(2022年10月放送開始)など。