Febri TALK 2022.08.12 │ 12:00

梅原翔太 アニメーションプロデューサー

③作画の力に圧倒された 『とらドラ!』

CloverWorksのアニメーションプロデューサーとして、『ワンダーエッグ・プライオリティ』や『その着せ替え人形は恋をする』といった話題作を次々と手がけている梅原翔太。若き敏腕プロデューサーである彼が、アニメ業界へと飛び込む要因となったアニメ3作品についてのインタビュー。最後の作品は大学時代に触れ、アニメ業界を志す直接のきっかけとなった『とらドラ!』。

取材・文/岡本大介

こんなグループの中で青春を送りたかった

――『とらドラ!』は大学時代に見たんですね。
梅原 そうです。すでに深夜アニメにどっぷりハマっていて、この頃にはクリエイターの名前を追うようになっていました。『とらドラ!』の少し前に放送された『true tears』が大好きで脚本家の岡田麿里さんの名前を知り、その流れで『とらドラ!』を見たんだと思います。そうしたら第1話からすごく面白くて、一気にハマりました。

――主人公たち5人の群像劇が主軸の作品ですが、どんなところにハマりましたか?
梅原 全員の恋愛の矢印がズレまくっていて、好きな人には振り向いてもらえないけど、誰かからは好意をもたれているみたいな、どうにもうまくいかないんですよ。もう「人間関係の極み」みたいな話なのですが、でも、人生ってわりとそういうものなのかなという気もしたんです。僕自身も好きな人に振り向いてもらえた経験はなかったですし、でも別の誰かからは好きになっていただけたことはあるんです。そういうことがずっと続いた時期があって「そうだよね、なかなかうまくはいかないよね」と思いながら見ていました。普通の青春ドラマって、紆余曲折はありながらもだいたいのことが思い通りに進んでいくじゃないですか。でも、『とらドラ!』って最後の最後までずっとこんがらがったまま進んでいくんです。そういうタイプの作品はあまり経験したことがなかったので、新鮮でしたね。

――好きなキャラクターは誰ですか?
梅原 川嶋亜美です。表の顔と裏の顔を持ちつつ、でも根っこの部分は良い子で、僕は亜美と竜児がくっついてくれないかなと願っていました。まあ、でもキャラクターはみんな魅力的ですね。辛いことも多く描かれますけど「こんなグループの中で青春を送りたかったな」って、どこかうらやましい気持ちもありました。

『とらドラ!』はいつも心のどこかにあるお手本

――とくに印象深いシーンはありますか?
梅原 逢坂大河と狩野すみれの喧嘩のシーンです(第16話「踏み出す一歩」)。大河が木刀を持ってすみれの教室へ入り「殴り込みじゃあ!」って名乗りをあげて突っ込んでいくのですが、この喧嘩のシーンで泣いちゃったんですよね。もちろん、ストーリーもお芝居もいいのですが、ここは明らかに作画の力に泣かされました。『とらドラ!』ってここぞというシーンでは作画表現がガラリと変わる作品で、この喧嘩シーンもそのひとつなんです。だから見る人によっては違和感を感じるかもしれないですけど、僕の場合はそれが心に響いたんですね。作画の圧倒的なパワーに泣かされるという体験はこれが初めてで、当時は将来のことを考えている時期だったんですけど、気持ちが大きくアニメ業界に傾くきっかけになりました。

――それまではどんな業界を目指していたんですか?
梅原 子供の頃から妄想したり物語を作るのが大好きだったので、当時は映画やテレビの脚本家になれたらいいなと思い、大学でもシナリオを勉強していました。『とらドラ!』も、岡田麿里さんの脚本術を学ぶためにオンエアを脚本に起こして分析していました。もちろん、その世界でご飯を食べていくのは容易ではないとは知りつつも、とにかく満員電車に乗りたくなくて、どうにかサラリーマンを回避できないかと抗(あらが)っていて(笑)。

――脚本家志望はそのままでも、気持ちはアニメ業界に傾いていったんですね。
梅原 そうです。振り返ってみれば子供の頃から当たり前のようにアニメに触れていて、大人になるにつれて友達がどんどんとアニメ離れをしていくなかでも、僕だけはずっとアニメを見続けてきたことに気づいたんです。あまりに身近な存在だったので意識していなかったんですけど、『とらドラ!』の作画に泣かされたことで「アニメってすごいんだな」とあらためて感じて。ただ、現実にはシナリオライターを募集しているアニメスタジオはほとんどなく、他に脚本家になるルートやツテもなかったため、結果的には制作進行として動画工房に入社することになりました。

――今はアニメプロデューサーとして活躍していますが、『とらドラ!』の影響はありますか?
梅原 やっぱり僕自身は群像劇が好きなので、『とらドラ!』はいつも心のどこかにお手本としてありますね。パキッとわかりやすい喜怒哀楽ではなく、より複雑で曖昧な心情をどう表現すべきかというのはいつも考えています。とはいえ、僕は監督でも脚本家でもアニメーターでもないですから、できることといえばカットをチェックして違和感を感じたらそれを報告することくらいですが、それでもやらないよりはいいと思ってやっています。

――プロデューサーが直接カットをチェックをするのは珍しいですね。
梅原 人の目は多いほうがいいですから。それにどんなプロであっても人間ですから、時として妥協したり、見逃すこともあります。僕のような凡人が作品のクオリティアップに貢献するには、人が気にしないことを気にして、人生と時間を費やすしか方法はないのかなと。それに、これまでに僕が心を揺さぶられてきた作品も、きっと誰かがそういう気持ちで支えていたんじゃないかと思っているんです。endmark

KATARIBE Profile

梅原翔太

梅原翔太

アニメーションプロデューサー

うめはらしょうた 神奈川県出身。大学卒業後に動画工房に入社。その後、A-1 Picturesに移籍し、現在はCloverWorksに所属。制作進行として数々の作品を担当したのち、2016年に『三者三葉』でアニメーションプロデューサーを務める。主なプロデューサー担当作品は『ワンダーエッグ・プライオリティ』『その着せ替え人形は恋をする』『ぼっち・ざ・ろっく!』(2022年10月放送開始)など。