Febri TALK 2022.08.10 │ 12:00

梅原翔太 アニメーションプロデューサー

②深夜アニメにハマるきっかけ
『宇宙のステルヴィア』

CloverWorksのアニメーションプロデューサーとして、『ワンダーエッグ・プライオリティ』や『その着せ替え人形は恋をする』といった話題作を次々と手がけている梅原翔太。若き敏腕プロデューサーである彼が、アニメ業界へと飛び込む要因となったアニメ3作品についてのインタビュー。ふたつ目の作品は、深夜アニメに興味を持つきっかけとなった『宇宙のステルヴィア』。

取材・文/岡本大介

追い抜かれた人たちの描写にシンパシー

――放送が2003年ですから、梅原さんは当時高校生ですね。
梅原 そうです。それまで深夜アニメは見たことがなかったんですけど、この作品をきっかけに、いろいろな深夜アニメを見るようになりました。同時期に『LAST EXILE』や『プラネテス』『舞-HiME』『BECK』なども見ていたと思います。それまで見ていたいわゆる子供向けアニメとは違って、ストーリーや世界観も複雑ですし、キャラクターの内面が深掘りされている作品が多く、そんな雰囲気が好きで一気にハマっていきました。

――『宇宙のステルヴィア』に関してはどんなところが魅力的だと感じましたか?
梅原 主人公を取り巻く人間関係の描かれ方に強烈に惹かれました。主人公(片瀬志麻)がパイロットになるために宇宙学校に入学するところから始まるんですけど、最初は自分に自信がなくて、まわりからも出遅れるんです。でも、だんだんと才能が覚醒していって、他の生徒たちをどんどんと追い越していくんですよね。それだけならよくある少年マンガのような展開なんですけど、『宇宙のステルヴィア』は主人公に追い抜かれていくキャラクターたちの心情をかなり丁寧に描いていて。僕自身、日々バスケ部で頑張りながらも追い抜かされる立場の人間だったので(笑)、余計にシンパシーを感じたんだと思います。たとえば、バスケマンガでも、僕は『あひるの空』がすごく好きなんですよ。

――たしかに『あひるの空』は挫折して部活から離れていくキャラクターがたくさん描かれています。
梅原 当時の僕は、自分のことを「主人公になれなかった側の人間」だと思っていたんですね。だからといってあきらめるわけではなく、変わらずに頑張っていたんですけど、どこかでそういう気持ちはあって。だからこそ『宇宙のステルヴィア』がすごく響いたんです。

誰ひとり置き去りにしない監督の優しさを感じた

――天才と謳(うた)われていた学園No. 1の生徒ですら、主人公の才能に嫉妬したり、負けてふさぎ込んでしまったりしますよね。
梅原 そうなんですよね。それがすごく生々しくてリアリティを感じました。キャラクターデザインはうのまことさんで、ビジュアルは肉感的で萌え絵に近いデザインなんですよね。その可愛らしい絵柄と心情描写のギャップも好きでした。あともうひとつ好きなところというか、驚いたのが、中盤からのストーリー展開です。僕はてっきりSFやロボットの形を借りた学園ドラマだと思っていたのですが、突如「未確認飛行物体」という宇宙人のような存在が出現して、雰囲気が一気に変わるんですよね。それまでわりとのほほんとした感じで見ていたんですけど、「え? そういう話なの?」と(笑)。中盤で世界観をさらに広げる仕掛けや構成が見事で、翻弄(ほんろう)されつつも楽しかったですね。

――未確認飛行物体については、正体や目的など、ほとんど何もわからないまま終わりましたよね。
梅原 そうなんですよ。作中の謎や続編の有無があまりに気になったので、何か手がかりがないかと思い、初めてアニメイトに行って、クリエイターのインタビュー記事が載っているアニメ雑誌を読むようになったんです。そうしたら、どうも大人の事情で続編は作らないらしいという情報が載っていて、「そういうこともあるんだ」と大人の世界を垣間見たりして。当時は監督やアニメーターの方の名前を意識してアニメを見ていたわけではなかったんですけど、その一件以来、そういう裏話や制作秘話にも興味が湧いてきて、クリエイターのインタビュー記事を読むのが大好きになりました。

――その頃からアニメ業界に入りたいという気持ちが芽生えてきたのですか?
梅原 そこまで明確に思ったわけではなかったんですけど、作り手や業界への興味が大きくなったのはたしかだと思います。たとえば、『BECK』の音楽がカッコいいなと思い、調べてみたら音楽プロデューサーがヒダカトオルさんという方で、そこから彼のバンド(BEAT CRUSADERS)の楽曲を遡(さかのぼ)って聞くようになったりもしました。

――『宇宙のステルヴィア』はSF設定やロボットアクションも本格的ですが、そちらはいかがでしたか?
梅原 僕はSFやメカはほとんど興味がなくて、じつは『機動戦士ガンダム』もほぼ見たことがないんです。なので、ストーリー展開は気になりましたけど、SF描写だったりメカそのものに萌えた記憶はないですね。どんな形であれ、やっぱり人間が織りなす群像劇が好きなんだと思います。それでいうと『宇宙のステルヴィア』は生徒たちだけでなく、教官や家族といった大人たちもたくさん登場するのですが、あらゆる世代や立場の人たちが信頼しあい、力を合わせていく雰囲気が好きですね。先ほど言ったような暗い感情も描きつつ、最終的には誰ひとり置き去りにしないところは佐藤竜雄監督の優しさが滲(にじ)み出ていて、そこが素敵だと思います。endmark

KATARIBE Profile

梅原翔太

梅原翔太

アニメーションプロデューサー

うめはらしょうた 神奈川県出身。大学卒業後に動画工房に入社。その後、A-1 Picturesに移籍し、現在はCloverWorksに所属。制作進行として数々の作品を担当したのち、2016年に『三者三葉』でアニメーションプロデューサーを務める。主なプロデューサー担当作品は『ワンダーエッグ・プライオリティ』『その着せ替え人形は恋をする』『ぼっち・ざ・ろっく!』(2022年10月放送開始)など。