Febri TALK 2022.12.16 │ 12:00

あおきえい アニメーション監督

③想像力を刺激された
『ガンヘッド』

『Re:CREATORS』など数々の人気アニメを手がけてきた監督・あおきえいのルーツに迫るインタビュー連載。最終回で取り上げるのは、まさかの実写作品。近年、急速に再評価が進むこの作品に、公開前からの「古参勢」であるあおきは、何を見てきたのだろうか。

取材・文/前田 久

「何か新しくて面白いものを見た」という興奮があった

――最後のセレクトは『ガンヘッド』。Febri TALKでは珍しい実写作品です。
あおき 自分が影響を受けた作品を選ぶうえで、どうしても外せなかったんです。劇場公開当時、僕は高校2年生。それまではいわゆる「アニオタ」として育ってきた人間だったので、実写は有名なものくらいしか見ていませんでした。

――あおき監督といえば映画好きのイメージがあったので意外です。特撮も通らずですか?
あおき 有名どころをつまみ食い程度ですね。メタルヒーローシリーズは好きでしたけど、特撮というジャンルそのものにはそんなにハマってはいませんでした。『ガンヘッド』は『月刊ニュータイプ』でよく取り上げられていたし、麻宮騎亜先生がコミックを連載していたり、会川昇(現:會川昇)さんの小説版が角川スニーカー文庫から出ていたりもして、アニメ寄りの宣伝をたくさんしていたんですよね。実写作品だけどアニメファンにも存在が周知されていて、だから自分も、メカデザインが河森正治さんなこともあって、劇場公開よりずっと前から期待していました。あまりよくないことですけど、試写に何度も応募して、劇場公開前にすでに3回くらい見ていたんですよ(笑)。

――スゴい。この作品の、何にそこまで惹きつけられたのでしょう?
あおき 見終えた瞬間、「何か新しくて面白いものを見た」という興奮があったんですよね。ストーリーは言葉足らずというか、そんなに難しい話ではないはずなのに、よくわからない。そもそも画面も暗くて、何をやっているのかもよくわからない。当時の試写室はそこまで設備がよくなかったこともあって、真っ暗な中で音だけ響いている印象だったのに、それでも満足感がすごくあったんです。作品のいろいろな要素が、いいところをかすっているんだけれども届かない部分がたくさんある……みたいな。「きっとこのシーンは、こういうことがやりたかったのだろうけれども、いろいろな制約でこうなっているんですよね?」と、こちらが想像力を働かせてしまうような作品だったのが大きかったんだと思います。

――具体的にはどういうところですか?
あおき たとえば、苦労していろいろな場所でロケをしているのはわかる。わかるんだけど、そうやって撮られた映像が「カイロン5」という巨大な建造物の中の風景だとは感じられないんですよね。特撮にしても頑張ってはいるけれども、ミニチュア撮影の雰囲気が出てしまっていて、出てくるロボットが8メートルあるようにはどうしても見えない。特撮監督は東宝特撮の巨匠・川北紘一さんで、特撮ファン的にはいろいろと意見がある作品なのはわかっています。わかっているんですけど、失礼な言い方になってしまいますが、決していい出来ではないと僕は思います。少なくとも、狙っているものには見えないんですよね。でも、やりたいことはわかる……と。

うれしい反面、古参のファンとして気持ちの行き場がない(笑)

――まさに想像力を掻き立てられる。
あおき やはり僕としては、原田眞人(まさと)監督のアメリカナイズされた乾いた演出が自分の好みと合致した感覚がありました。セリフがおしゃれなんですよね。「銃で遊ぶな。ツキが落ちるぞ」とか「死ぬときはスタンディングモードで」とか、超カッコいい。戦闘中であっても、どこか軽くて抜けている。そういった感じを、それまでの自分は体験してこなかったので気持ちよかったんだろうな、と今考えると思います。

――なるほど。
あおき あと、ビデオで発売されてからも擦り切れるくらい見たんですが、そこで編集の素晴らしさもわかりました。編集に関しては、純粋に今見ても素晴らしいと思います。担当されたのは黒岩義民さんで、岡本喜八監督の作品も手がけられている、当時でもベテランの編集の方です。リズムの作り方、尺間やカットの寄り引きの選出の仕方だとかが、とても心地よい。

――自分の作品で、ここから具体的な影響を受けているものはありますか?
あおき ufotable制作の『コヨーテ ラグタイムショー』で、アンジェリカ・バーンズという捜査官がカロリーメイトを食べるシーンがあるんですが、それは『ガンヘッド』のブルックリンがにんじんスティックを食べるシーンのパロディというか、オマージュでした。シガレットケースを開けると、にんじんじゃなくてカロリーメイトみたいな固形食が入っている。当時は誰にも気づかれなかったですね(笑)。まだ『ガンヘッド』がDVDにもなっていなくて、気軽に見られる環境じゃなかったこともあると思いますが……ホント、急に身近な作品になりましたよね。Blu-rayも出たし、それを記念して池袋で特別上映があれば、大勢の人が駆けつける。「マニアックな人気のある作品」としてすっかり認知されるようになった。公開当時はいろいろなところでボロカスに書かれていたし、周囲にもこの作品ならではの新しさや面白さをわかってくれる人が誰もいなくて悔しかったのに。ファンはどこから出てきたんだろうか。「バブルの残り香を感じる、超大作なダメ作品」の代表格だったはずが、カルト作品として評価されるようになってうれしい反面、ずっとファンとして迫害されていたような自分の気持ちの行き場がないですよ(笑)。

――痛し痒しですね。
あおき ともあれ、『ガンヘッド』をもし見ていなかったら、実写への目覚めはもうちょっと遅かったはずなんです。自分の中の新しい扉を開いてくれた。この作品で実写映画の面白さにハマって、アニメからはしばらく遠ざかるんです。だから繰り返しになりますが「影響を受けた作品」というテーマで話すと、絶対に外せない作品なんですよ。以前、「『ガンヘッド』は権利関係がいろいろと複雑で、そこがはっきりしていないからDVDが出せない」と聞いたことがあるんです。でも、Blu-rayまで出せた今なら、はっきりしているはずですよね。権利の問題がクリアできているなら、リメイクできないかなあ。誰に言ったらいいんだろう? 僕、リメイクしていいなら喜んでやりますよ! ……と、この場でアピールしておきます(笑)。endmark

KATARIBE Profile

あおきえい

あおきえい

アニメーション監督

1973年生まれ。東京都出身。アニメーション監督。AICでキャリアをスタートし、現在は株式会社トロイカ取締役。これまで手がけた主な監督作に『劇場版 空の境界「俯瞰風景」』『放浪息子』『Fate/Zero』『アルドノア・ゼロ』『Re:CREATORS』『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』など。(Photo/後藤武浩)