Febri TALK 2022.12.12 │ 12:00

あおきえい アニメーション監督

①「青春の挫折」を知った
『メガゾーン23』

『アルドノア・ゼロ』『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』など、数々の話題作を手がけてきたアニメーション監督・あおきえい。そのルーツに迫る全3回のインタビュー連載の初回は、OVA黎明期の伝説的なヒット作を語る。衝撃のラストから受けた影響とは?

取材・文/前田 久

たまたま見直して気づいた「知らないシーン」

――あおき監督の1本目のセレクトは『メガゾーン23』。1985年発表のOVAです。
あおき OVAの黎明期、すごく盛り上がっていた時期に発表された作品ですよね。

――監督は1973年生まれで、発売直後だと中学生になるかならないかですよね。その年齢で見るには内容も刺激的ですし、そもそもビデオを手に取るのも大変だったのでは?
あおき 最初は兄貴がレンタルしてきたのを、一緒に見たんです。ただ、何度か借りてきたはずなんですけど、いつも全部は見せてくれないんですよ。毎回、「今日はここまで」みたいに区切って、別の日に続きから見せてくれる。おそらくベッドシーンを見せないように配慮していたんでしょうね(笑)。

――この作品の話をするとなると、有名なそのシーンの話題は絶対出るだろうと思っていたのですが、意外なかたちで出てきました(笑)。
あおき だから、この作品にベッドシーンがあるのを知ったのは、ちょっとあとだったんです。何かのタイミングでたまたま見直してみたら「知らないシーンがある!」と(笑)。びっくりでしたね。あそこは難しい設定の説明シーンでもあったので、飛ばすと話がつながらない。子供心にも違和感はあったものの、「そういうものなんだろう」と自分を納得させていたんですけど、ちゃんと説明があったとは……みたいな。

――ビデオを見る前から作品のことは知っていたんですか?
あおき もともと「ロボットもの」が好きだったんですよ。日曜は外にいても、14時からの『超時空要塞マクロス』の放送に間に合うように一生懸命家に帰るような子供でした。『メガゾーン23』にキャラクターデザインで参加されている美樹本晴彦さんや平野俊弘(現:俊貴)さんは『マクロス』への参加で名前がすでに売れていて、僕も当然おふたりのことは知っていましたし、監督が同じ石黒昇さんということもわかっていました。それ以外のスタッフさんはじつはかなり違うのですが、そんな情報もあって作品全体から『マクロス』っぽい雰囲気を感じて、同じような「SFロボットもの」だろうと思って楽しみにしていたんです。

――実際に見た感想はどうだったんでしょう?
あおき 荒牧伸志さんがデザインされた主役メカのガーランドは、期待通りにすごくカッコよかったし、作品の内容も当時から面白く感じていましたね。今でこそ珍しいものではないですが、「じつは全部作られた世界」という設定……要は『マトリックス』と同じような話を、もう少しフィジカルにやっている。

主人公が負けてしまうラストシーンは、かなりの衝撃だった

――『マトリックス』は電脳空間ですが、『メガゾーン23』は宇宙船の中にまるっと架空の世界が物理的に作り上げられていますよね。
あおき その設定がすごく面白かったし、それを使って語られるストーリーにも大満足でした。とくに主人公が負けてしまうラストシーンは、かなりの衝撃でした。なんでもない人がロボットという力を手に入れて、裏にある陰謀に気づいて戦うストーリーだから、当然主人公はその力を使って陰謀に勝つと当時は思っていたんです。ところが、敵役のB.D.と対決してもまったく歯が立たず、それどころか、ろくに相手にもされない。そして主人公はすごすごと、もといた虚構の渋谷に帰ってしまう。こんなラストを迎える物語が存在することを、そのときに初めて知ったんですよ。

――人生初のバッドエンド体験だった?
あおき そうなりますね。でも、バッドエンド……負ける物語ですが陰鬱な感じはしなくて、それが不思議でした。ボロボロになった主人公が杖をついて、誰もいない朝の渋谷を歩いている。挿入歌がかかったところで杖を投げ捨て、自分の足で歩き出す……そのラストシーンの一連の流れを超カッコよく感じたんですよ。物語の要素としてポジティブな部分はほとんどないのに、印象は爽やかで、新しい物語を見た気がしました。

――なるほど。
あおき 主人公が、ストーリーの鍵を握るバーチャルアイドルの時祭(ときまつり)イヴに「なぜ宇宙船の中の作られた世界の時代設定を二十世紀の終わりにしたのか?」と問いかけると、彼女が「その時代が人々にとっていちばん平和な時代だったから」と回答するシーンにもグッときたんですよね。セリフの内容もいいし、イヴが一瞬きょとんとした顔になったのちに微笑んでセリフを言うのもめちゃめちゃよくて。この作品って「ロボットもの」だけど、「青春もの」でもあるんですよね。二十世紀の終わり……作品発表当時の、今、自分たちが生きている時代を肯定して、最終的に挫折するけれども、そこからもう一度、主人公が立ち上がろうとするところで終わる。当時はここまで分析できませんでしたが、今考えると当時、まさに思春期を迎えつつあった自分が、「青春の挫折」というテーマに惹かれたんだろうなと思います。

――2022年の今から振り返ると、80年代が「いちばん幸せだった時代」というのが、また味わい深い気もします。
あおき 超バブルの頃ですもんね。余談ですけど僕がAICに所属していた頃、じつは『メガゾーン23』のリメイク企画が、何度も出ては消えていったんです。監督として手を挙げたこともあったんですが、かなわなかったのは残念でした。あのラストシーンを再現したかった……そんな思いが、自分の監督作にちょっとずつ反映されているように思います。

――たしかに、あおき監督の作品で手放しのハッピーエンドを迎えるものはほぼないような……。
あおき ですよね(笑)。勝つことにこだわらなくてもいい、主人公が成すべきことをしたら、勝とうが負けようが、それは結果論に過ぎない……そう思っているところが自分にはあって、それは本当にこの作品の影響ですね。endmark

KATARIBE Profile

あおきえい

あおきえい

アニメーション監督

1973年生まれ。東京都出身。アニメーション監督。AICでキャリアをスタートし、現在は株式会社トロイカ取締役。これまで手がけた主な監督作に『劇場版 空の境界「俯瞰風景」』『放浪息子』『Fate/Zero』『アルドノア・ゼロ』『Re:CREATORS』『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』など。(Photo/後藤武浩)