TOPICS 2023.03.29 │ 12:00

作りたかったのは「背中を押してくれる作品」
『ツルネ -つながりの一射-』山村卓也監督インタビュー②

弓道少年たちが綴る青春アニメ『ツルネ -つながりの一射-(以下、つながりの一射)』。インタビュー後編では、物語の主軸を担うキャラクターたち、鳴宮湊、藤原愁、そして二階堂永亮の3人について。それぞれの個性と見どころ、そしてクライマックスの展開まで、山村卓也監督にたっぷりと話を聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

――ここからは、それぞれのキャラクターについてお話を聞きたいと思います。まずは主人公の湊ですね。
山村 本当にまっすぐな子だな、と思います。湊は事故で母を亡くしたために、嫌でも大人にならなければいけない部分があったと思うんです。第1期ではそこが顕著だったうえに、早気(はやけ)になったことでふさぎこんでいる部分があった。でも、第2期では早気を克服して、思い通りに弓が引ける、弓道は楽しいものだということを思い出している。そういう意味で、子どもの頃の気持ちが戻ってきつつあるんです。彼がもともと持っていたまっすぐなところが、より魅力的に前に出てきていますね。

©綾野ことこ・京都アニメーション/ツルネⅡ製作委員会

――具体的には、どのあたりのシーンに表れているのでしょうか?
山村 第1話で静弥の話を聞かず、「弓が引きたいな」と思ってぼーっとしているところですかね(笑)。愁や二階堂の射形(しゃけい)をじっと見つめている瞳も、いかにも彼らしいと思います。あとは前回、少し触れましたけど、第5話で七緒に言葉をかける場面。弓道に対して真剣に取り組んでいる人をちゃんと見ていて、その人に言葉をかける。そこに彼の、まっすぐさが表れているんじゃないでしょうか。

――たとえシリアスな場面であっても、シリアスになりすぎないところも、彼のいいところだなと感じます。
山村 そうですね。湊には、思っていることがストレートに伝えられないもどかしさ、みたいなところがあります。第1期にも「登山みたいなものかもね」というセリフがありますが、しどろもどろになりながらも、自分が感じていることを試行錯誤しながら伝えようとする。その一方で、ちゃんと言うべきことは言う、みたいなスピード感もあって、そこも魅力的だなと思います。

©綾野ことこ・京都アニメーション/ツルネⅡ製作委員会

――そして、愁ですね。第2期では彼の家の様子が描かれていました。
山村 まさかあんなに大きな家に住んでいたとは(笑)。これまでは弓を引いているところ以外の愁を描けていなかったので、見ている人に驚いてもらえるかな、と思っていました。とくに妹の沙絵ちゃんとの会話や、執事の東条さんとの接し方ですね。家族に対して笑顔で振る舞う彼の姿と、家族以外の人と話すときのギャップみたいなところも、この第2期では描くことができました。

©綾野ことこ・京都アニメーション/ツルネⅡ製作委員会

――監督として、とくに力が入った愁のシーンはどこになりますか?
山村 やっぱり第3話の弓を引くシーン。あとは第2話の沙絵ちゃんと接する場面ですね。第2話の冒頭から、千一と万次をちゃんと仲間として見るようになって、そこから彼自身が成長していく流れが描けたと思います。

――第8話のエピローグで静弥にたこ焼きを振る舞う姿が印象的でした。
山村 静弥と愁は、もともと仲が悪かったわけではないんですよ。高校に入って、静弥は湊を愁から遠ざけようとするわけですけど、それは湊が愁と接触することで早気が悪化するかもしれないと思っていたからで……。今はもう解決しているので、愁は愁なりに静弥と距離を縮めようとしている感じですね。それがあの、たこ焼きの場面に表れています。じつは中学時代、静弥が初めてレギュラーになったときに、湊の家で湊と愁がたこ焼きを振る舞うエピソードがあって(笑)。そのエピソードはオーディオドラマ(YouTubeの「京アニチャンネル」にて期間限定で配信中)に出てくるので、あわせて聞いていただけるとより楽しんでいただけるんじゃないでしょうか。

©綾野ことこ・京都アニメーション/ツルネⅡ製作委員会

――3人目は第2期で新たに登場した、辻峰高校の二階堂永亮です。湊にとっては、桐先中学弓道部の先輩で、愁とも面識があるというキャラクターですね。どうやら湊や愁に個人的な恨みがあるようですが……。
山村 自分の信念を曲げずに目的に向かっていく、そういう努力家だと僕は捉えています。大好きな叔父さんのことで湊と愁に思うところがあって、叔父さんの力を証明するために、斜面打ち起こしで湊と愁をぶっつぶしてやろう、という考え方になっているわけです。

©綾野ことこ・京都アニメーション/ツルネⅡ製作委員会

でも、僕からすると、湊と愁がいたからこそ、二階堂は大事なものをずっと手放さずにいられたんじゃないか、とも思うんですよ。湊や愁に執着していたからこそ、辻峰高校の仲間たちにも出会えたし、自分たちの弓道部を作り上げることができた。シリーズの序盤では二階堂の表面的な部分しか見えなかったと思うのですが、中盤からはおじさんとのシーンや、何もないところから自分たちの弓道場を作って一生懸命に練習している姿も描かれて。それによって、見ている人たちが辻峰高校を応援したくなるような、そんな流れが作れたらなとも考えていました。

©綾野ことこ・京都アニメーション/ツルネⅡ製作委員会

――なるほど。
山村 第9話で描かれる、風舞高校との共同合宿も見どころのひとつだと思います。もともと二階堂は指導者としての実力を持っているわけではなくて、それでもなんとか仲間たちを率いて全国大会に出場できるところまで行ったわけです。ところが合同練習で、比較対象になる指導者と一緒に過ごすことになったうえに、マサさんが弓引きの先輩として二階堂に接してくる。そうすると、彼の中で自分とまわりを比較してしまうところが出てくるわけです。第9話から第11話までの流れは見逃せないです。あと、第9話は子どもの頃の二階堂が出てくるんですが、めちゃくちゃ可愛いです(笑)。

©綾野ことこ・京都アニメーション/ツルネⅡ製作委員会

――では最後に、いよいよクライマックスを迎える第2期ですが、監督が考える『ツルネ』の魅力、面白さはどこにありますか?
山村 個人的に『ツルネ』を作るうえでずっと考えていることがあるんですが、この作品を見て、何かやろうとしている人の背中を押すことができるといいな、と思っているんです。「今ちょっと停滞している」という人でも、まわりの人に話したり相談したりすれば、何か糸口が見つかるかもしれない。迷ったり悩んだりしているときに、この作品を見て「じゃあ、自分はどうすればいいかな」と前向きに考えられる作品になるといいな、と。この第2期は湊と愁、二階堂の3人を軸に物語が展開してきましたが、最後の第12話と第13話では、彼ら3人がどういう風に弓に向き合っていくのか。今の時点での終着点が描かれることになります。そんな彼らが弓を引く姿を、ぜひ見ていただければと思います。endmark

山村卓也
やまむらたくや 京都アニメーション所属。アニメーション監督、演出、原画を担当。『ツルネ -風舞高校弓道部-』が初監督作となる。
作品概要


TVアニメ第2期 『ツルネ -つながりの一射-』
TOKYO MX、ABCテレビ、BS11他にて好評放送中。

  • ©綾野ことこ・京都アニメーション/ツルネⅡ製作委員会