内面に脆さを抱えた最強の不良
「オレが後ろにいるかぎり 誰も負けねぇんだよ」
「東京卍會」の総長、「無敵のマイキー」こと佐野万次郎は、まだあどけなさの残る少年のようなルックスながら、ケンカの腕は作中最強、どんな怪物もハイキック一閃でぶっ倒す。それでいて普段は気さくで無邪気。天真爛漫な振る舞いで周囲を振り回しながらも、キメるところはビシッとキメる。誰よりも仲間想いで、不良界ナンバーワンのカリスマ性でみんなを引っ張っていく。普通の作品であれば、味方陣営にここまで並はずれた能力を持つキャラは登場させない。いわゆるゲームで言うところの「バランスブレイカー」で「勝つか? 負けるか?」という不良マンガとしていちばんの醍醐味を失う恐れがあるのだ。しかし、ご存知の通りマイキーはそうはなっていない。なぜだろうか?
それはマイキーが単なる味方キャラではなく、同時に元凶という属性も付与されているからだろう。マイキーはその内面に「脆(もろ)さ」を抱えており、それはこれまでも何度か顔を覗(のぞ)かせている。とくに「血のハロウィン」で(羽宮)一虎に対して見せた異常なまでの殺意は記憶に新しいところだ。事実、タケミチは「東京卍會」の極悪化を阻止するべく何度もタイムリープを繰り返してきたが、どの未来においてもマイキーは邪悪な存在へと「闇堕ち」している。その理由はまだ明らかにはなっていないが、それこそが本作における最大のミステリーであることは間違いない。
そもそもタケミチがここまで頑張っているのは「ちょっとした状況の変化が未来を変える」という考え方が「前提」となっているからだが、マイキーの闇堕ちはその「前提」に真っ向から対立し、「人も未来も本質的には変えられない」という絶望をタケミチに突きつけている存在。つまり、タケミチにとってマイキーは乗り越えなくてはならない最大の壁なのだ。
思えばマイキーは、物語の冒頭から稀咲と並んで元凶としてのポジションを与えられていた。少年時代のマイキーがあまりにいい奴なのでつい忘れてしまうが、物語が展開し、タイムリープが繰り返されるごとに不穏な感情は増大してくる。100%親しみと憧れの対象だったマイキーが、少しずつ変容していく感覚。それと同時に、マイキーが規格外のキャラクターであることにも納得がいくようにもなる。今や理性と狂気の境界線を綱渡りしているようにも思えるマイキー。はたしてタケミチは、そんなマイキーを救うことができるのかに注目したい。