音楽のおかげで『BLEACH』のよさをさらに引き出すことができた
――本作は音楽も印象的で、かなりのインパクトがあります。
田口 本当にそうですね。極端な話、鷺巣(詩郎)さんの音楽のおかげで「これはいいアニメだ」と思ってもらえている部分もあるのかなと(笑)。ほぼ全曲がフルオーケストラで、まるで劇場版みたいですよね。
――音楽について、鷺巣さんにはどのようなイメージを伝えたのでしょう?
田口 TVアニメなので、音楽メニューというものがあります。バトル曲は何曲必要で、悲しい曲は何曲といった感じの、いわゆる曲の発注リストです。でも、鷺巣さんとのやりとりではほとんど使っていません(笑)。鷺巣さんから送られてきた曲を聞いて、これはこのシーンに使えそうだなとか、こちらで使いどころを判断して組み込んでいく感じでした。どうしても特定の雰囲気の曲がほしい場合は、音響監督の長崎(行男)さんから直接ご相談していますが、それ以外は鷺巣さんに自由に作っていただいています。上がってくる音楽が桁違いにいいですから、もう何も言うことはありません。
――ファンにはおなじみの「Number One」など、旧シリーズの楽曲もうまく取り入れていますよね。
田口 これは前シリーズから携わっている音響プロデューサーの森田(洋介)さんの存在が大きいですね。一護のピンチのときはこの曲の印象があるとか、このシーンならこの曲を入れたらいいんじゃないかなどの提案をしてくださるんです。僕らもすごく助かっています。
3D技術の発達で、イメージに近いものをアウトプットできるようになった
――あらためて第1クールの話数を振り返っていきます。まず第1話ですが、冒頭から圧倒的な映像美でした。
田口 冒頭の一護たちのバトルシーンは、今回のアニメでは入り口となるため、原作から構成をかなり変えています。初めて『BLEACH』に触れる人でも「こういう世界観なんだな」とわかってもらえるような見せ方を心がけました。背景さんがとても優秀ですし、3Dチームにも頑張ってもらったことで、目の肥えた視聴者さんにも納得してもらえるようないいフィルムになったんじゃないかと思います。
――今回のシリーズでは、全体として3Dや撮影技術が積極的に使われていますが、それで言うと第6話の山本元柳斎vsユーハバッハも印象的でした。
田口 元柳斎が身にまとっている炎は手描きですが、後ろの炎はほとんど3Dで作っています。想像以上に見栄えがよかったですね。あと卍解の「残火の太刀(ざんかのたち)」のエフェクトも3Dで表現しているのですが、ああいう墨汁や炭っぽい処理でも、やろうと思えばデジタルでできるんだと手応えを感じました。おそらく10年前にもやろうと思えばできたかもしれませんが、きっともっと大変な作業になっていたと思います。今はプラグイン(※アプリケーションの機能を拡張するもの)などでわりと手軽にこういう処理ができるようになって、頭の中のイメージに近いものをアウトプットできるのは、作り手としてはありがたいですね。
第2クールにはアニメオリジナルで描かれるシーンも盛りだくさん!?
――第1クールの最後は石田雨竜のシーンで幕を閉じました。原作と照らし合わせるとかなり早いペースで進んでいるように思います。残り3クールのシリーズ構成はすでに固まっているのですか?
田口 ほとんど決まっています。おっしゃる通り、ここまではかなり早いペースで進んでいて、今後はどうやって構成していくかも含めて久保先生にもご協力いただき、詰めているところです。原作では描かれなかったシーンもたくさん登場する……かもしれないので、楽しみにしていただけたらと思います。
――めちゃくちゃ気になるのですが!
田口 リアルタイムで原作を読んでいたとき、「ここのバトル、もっと見たかったのに」と思うことってありましたよね?
――ありました。とくにここから先はバトルのテンポが速いこともあり、できればもっとじっくり見たかったなという気持ちがありましたね。
田口 僕も似たように感じていた部分があったので、そのあたりを丁寧に描写していければな、と思っています。ありがたいことに、久保先生にもいろいろとご協力いただいていて。久保先生からチェックバックやご提案をいただいたときは、まずは僕自身がイチ読者に戻った気分で「すげえ!」と、ただただ興奮していました(笑)。
――終盤に進むにつれて情報が一気に詰め込まれていくだけに、そこを丁寧に描いてくれるのはファンとしてもうれしい限りです。
田口 そう感じてもらえるよう頑張ります。そうそう、これは1クール目から心がけていることですが、石田雨竜についても原作より多く描写しているので、彼の心情もわかりやすくなっていると思います。他にもいろいろなキャラクターたちにスポットを当てながら、最終決戦までの盛り上がりを作っていきたいと思っています。ぜひ最後の最後まで楽しんでいただけたらと思います。
- 田口智久
- たぐちともひさ 1985年生まれ、岡山県出身。大学卒業後、アニメインターナショナルカンパニーで制作アシスタントを務める。2014年、『Persona4 the Golden ANIMATION』にて監督デビュー。主な監督作品は『双星の陰陽師』『キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series』『アクダマドライブ』など。