TOPICS 2021.06.17 │ 12:00

劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト
監督・古川知宏インタビュー③

劇場ならではの圧倒的な音響&映像による刺激的なエンタメ体験を味わえる『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』。ここではTVアニメシリーズから引き続き監督を務めた古川知宏氏にネタバレありのインタビューを実施。本作に込めた思いを、全3回の記事でお届けする。第3回は、一種独特な本作の楽しみ方について。

取材・文/岡本大介

華恋の内面をようやく描写できた

――最後のレヴューシーンは「華恋×ひかり」です。これはバトルではなく、異色の構成ですね。
古川 今回の映画ではレヴューのアクション以上に、愛城華恋というキャラクターを丁寧に描いてあげかったんです。そもそも完全新作を作るにあたって、最初に考えたのがそこでした。というのも、TVアニメの華恋ちゃんは完全無欠なスーパーヒーローすぎて、それゆえに共感できる人が少なかったんですよ。

――たしかにTVアニメではポジティブな面が強調されていて、深い内面までは描写されませんでしたね。
古川 そうなんです。それは僕を含めたスタッフ全員が感じていたことですし、なにより華恋役の小山百代さん自身もそう感じていました。TVアニメの制作中も「私は少しネガティブに考えてしまうこともあるので、華恋のことをちゃんとわかってあげられないかもしれない」と悩んでいて。小山さんの気持ちになって考えると、自分が演じるキャラクターのことをよく理解できないまま舞台でもアニメでも演じ続けるのって、これはものすごく怖いことだろうなと思ったんです。しかも、それが主人公で、舞台においては座長を努めるわけですから、その恐怖はなおさらですよね。その「不安と揺らぎ」が劇場版での愛城華恋のキャラクターそのものになりました。この華恋の気持ちの先を描くのは、僕らスタッフやお客さんの望みとも一致するだろうなと思いました。

――本作では序盤から華恋の内面をたっぷりと描写して、最後まで舞台少女としての「覚悟」が持てない、臆病で繊細なキャラクターとして演出していますね。
古川 TVアニメの華恋と比べて人格が変化しているわけではないのですが、幼い頃からのエピソードを積み重ねたことで、奥行きが生まれたような気がします。

――最終的に、華恋は一度死んで生まれ変わることで、舞台少女としての覚悟を持つに至ります。
古川 これは過去に華恋がひかりちゃんに対してやったことを、そっくりそのままひかりちゃんが華恋に対してやっただけですね。「アタシ再生産」というワードにもある通り、本作の大きなテーマのひとつに「死と再生」がありますから、そこはTVアニメの最初から最後まで一貫していると思います。役者は舞台に立つたびに「死と再生」を繰り返す存在として描いています。

ひと言で言うなら「ヤンキーマンガ」

――第1回でも言いましたが、クライマックスはとくに情報量が多いので、古川監督から解説していただけたことでスッキリしました。
古川 僕ももう一度言いますが……表現が下手ですみません(笑)。あの、もっとぶっちゃけて簡単に言えば、今回の劇場版は「ヤンキーマンガ」だと思って見てください。

――え? 「ヤンキーマンガ」ですか?
古川 そうです。僕自身も作っている途中で気づいたんですが、これはヤンキーマンガと同じ手法なんですよ。ヤンキーたちが河原に集まって殴り合うじゃないですか。それで感情をむき出しにしてぶつかり合って、最後まで強い気持ちを持っていたヤツが立っている。あれと同じです(笑)。だから今回のレヴューシーンもできるだけ泥臭くしたいと思ったし、実際にそうなっています。たとえば、「なな×純那」で純那が言う「殺してみせろよ、大場なな!」なんて、完全にヤンキーマンガのそれですよね。

――たしかに。純那の名乗り口上は、ヤンキーマンガで感じるアツさそのものですね。
古川 これまで他人の言葉ばかりを引用してきたメガネの優等生キャラが、コテンパンにやられたあとにこのセリフですからね。僕自身がどうしても純那にあの言葉を言ってほしかったんですよ。他のレヴューも突き詰めれば「私がいちばんキレイだ!」とか「すべての観客は私を見るべき!」ということを歌とともに主張し合っているんですよね。あれだけ大掛かりなセットを組んで、やっていることは「己の在りか」を叫んでいるというのが、なんともいいじゃないですか。

――細かい設定や演出など、いろいろと考察しがいのある作品ですが、根っこの部分はシンプルなんですよね。
古川 そうですね。でも、そういうことも絵やセリフでちゃんと落とし込んでいるつもりではあるんですよ。たとえば「ワイルドスクリーンバロックとは何か?」や「東京タワーはなぜ真っ二つに割れたのか?」「赤いふたつ星の意味するものは?」なども、ちゃんと作中で示していますから。なので、ぜひ何度も見ていただければと思います。

――なにより映像の没入感が圧倒的なので、これは劇場の大スクリーンで見るべき作品だと感じました。
古川 映画を「鑑賞する」というよりも、ライブエンターテイメントを「観劇する」感覚で見ていただきたいなと思って作っています。僕自身、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』のライブを見たときはすごく楽しくて、終わってから感想を言い合いながら家路につくのが新鮮だったんですよね。

――そういう経験はこれまであまりしたことはなかったんですか?
古川 僕は根暗な映像オタクですから(笑)、友達と一緒にライブを見に行くという経験はほとんどなかったんです。映画を見に行くことはあっても、その場合はオタク特有の小難しくてめんどくさい話しかしたことがなくて(笑)。だから何も考えずに「あれはすごかったね!」と素直に言い合えるのってとてもいいなって思ったんです。この作品も帰りの電車に揺られながら「この車両も舞台に変形したりしないかなー」とか、そういうノリで見てもらえるとうれしいです。

――ライブ的な体験として楽しんでもらいたいという気持ちが強いんですね。
古川 もちろん、どんな楽しみ方をしていただいても自由なんですけど、とくに音響にはすごくこだわっているので、ぜひ鳴りの良い映画館で聞いていただけたらと思っています。東宝スタジオさんの誇るダビングステージの針が振りきれるほどですから(笑)。野菜キリンが登場するシーンは低音のウーファーだけで表現しているので、より気持ち悪く感じられるはずです。

――なるほど。ちなみにキリンと言えば「わかります」という口癖が印象的ですが、結局のところ彼は何がわかっていたのでしょう?
古川 じつは「わかります」というのは僕の口癖なんですよ。僕は会議でよく「わかります」と応えることが多いんですけど、よくわかっていないことが多いんです。

――キリンとまったく同じですね。
古川 そう。僕としては「あなたの話に興味があります」と言うのと同じ意味で使っていて、あまりよくない口癖だなとは思いつつ、それでも使い続けていたんです。なんでそんなに「わかります」を連発するのか考えてみたんですが、どうも僕は「わかる」「わからない」という二元論自体にそもそも興味がないんだということに気づいたんです。

――「わかる」か「わからない」か興味がない?
古川 「優先順位が違う」と言ったほうが正しいと思います。僕からすると目の前で何かの事象が起きた際は、それが自分にどんな感覚を与えてくれるかのほうが大事で、そこから何を感じ取れるかのほうが重要なんです。とくに映像や音楽作品の場合はその考え方が顕著ですね。キリンは自戒の念も込めて「わかったつもり」で作品を消化している観客でもあります。「他人の考察」はあくまでも「楽しみ方の幅」を広げてくれるものとして考えてもらって、この作品やそれを見た2021年の一日が「自分にとって何なのか」を楽しんでいただけると幸いです。

――なるほど。本作はまさに古川監督の言葉通りの作品になっていると思います。
古川 個人的にはいろいろと反省点も多かったのはたしかですが、楽しんでいただけたらうれしいです。繰り返しになりますが、「鑑賞」というよりは「観劇」に近い体験を目指して作っていますので、お客さんに目撃してもらえないとキャラクターたちの舞台も終われないと思います。ぜひ彼女たちを最後まで演じきらせてあげてください。

――9人それぞれの進路も示され、ひとまず大きな区切りになりましたね。
古川 それはどうでしょう。聖翔音楽学園を卒業するところまでは描きましたが、まだまだドラマは起こるかもしれませんよ。もちろん、現時点では僕は何も知りませんから迂闊なことは言えませんが(笑)、でもこれで終劇だと決まったわけでもないと思いますので、皆さんには引き続き応援していただけたらと思います。endmark

古川知宏
ふるかわともひろ。スタジオグラフィティ出身で、現在はフリーのアニメーター・演出家。『戦う司書 The Book of Bantorra』や『戦姫絶唱シンフォギア』など、多くのアクション作品にアニメーターとして参加。また『輪るピングドラム』では絵コンテと原画を、『ユリ熊嵐』では副監督も務めるなど、幾原邦彦監督作品においては中核メンバーとして携わっている。
作品情報

劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト

絶賛上映中

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