音楽はカッコよさを考えるときに欠かせない
――2本目は、出﨑統監督の『あしたのジョー2』ですね。1980年の放送なので、高校生くらいですか?
小林 そうですね。もう、だいぶ記憶もしっかりしています(笑)。最初はたまたま見たんだと思うんですけど、ストーリーはもちろん、出﨑監督の演出がすごくカッコよかったんです。『エースをねらえ!』のときもそうでしたけど、止め絵になって、パパパッとカメラがパンしたり(笑)。声優さんも皆さんハマっていましたし、あと音楽がすっごくカッコよかったんですよ。
――『ルパン三世 カリオストロの城』のときもそうでしたが、小林さんのなかで音楽はひとつポイントになっていますね。
小林 そうですね。音楽は、カッコよさを考えるときに欠かせない要素になっています。脚本の作業をするときは、勝手に作品のイメージを思い浮かべて、それにあったプレイリストを作ったりするんです。で、それを聞きながら、ストーリーを考えたり。
――そうなんですか!
小林 ある程度、設定が固まってきたタイミングで、このキャラクターをどう動かそうかとか、次はどんな話を作ろうかなって考え始めるじゃないですか。そのときに、作品の世界に合う曲をピックアップして。で、それを何回も繰り返し聞いているうちに、シーンがパッと思い浮かぶ、みたいな。そういう感じですね。
――そのときの曲というのは、古今東西関係ない感じなんでしょうか?
小林 そうですね。ただ、流行っている日本語の曲だとイメージが引っ張られすぎちゃう、というのはあります。なので、あまり色がついていない曲が多いです。ゲームの音楽とか、海外の曲とか、映画やドラマのサウンドトラックとか。主題歌で、作品自体は見たことないんですけど、曲がすごく好きで何度も使っている、みたいなものもありますね(笑)。
――音楽の持っている雰囲気から、作品のイメージを膨らませていくんですね。お話を聞いていると「カッコよさ」というのが、小林さんのキーワードになっていると思うのですが、たとえば『あしたのジョー2』で「カッコいい」と思うキャラクターは誰になるのでしょうか?
小林 キャラクターというよりは、シーンなんですよ。もちろん、ジョーはビジュアル的にもカッコいいと感じるし、ちば(てつや)先生の描く原作のジョー――ちょっと寂しそうな横顔の目とか、ああいうのは「カッコいい」と思うんです。だから、ちょっと陰があるような雰囲気を「カッコいい」と感じていたのかもしれない。
ストーリーはもちろん
出﨑監督の演出が
すごくカッコよかった
――光り輝いている対象よりは、人生の悲哀だったり哀しみを感じられるほうがカッコいいと感じる。
小林 そうですね。ちょっとヤクザっぽかったりとか、ワルっぽさとか陰のある人たち。高校の頃は『必殺仕事人』にもすごくハマっていたので、そういう部分に惹かれていたのかなって気はします。ルパンにも少しそういう雰囲気がありますし、あと80年代に入ってくると『あぶない刑事』もありますよね。
――舘ひろしと柴田恭兵が主演した刑事ドラマ。1986年放送スタートですね。
小林 あれも、本流からちょっと外れた刑事たちという設定で。あとは『影の軍団』だったり、アウトロー的な立ち位置のキャラクターを「カッコいい」と思っていたところはあります。今でも、アウトロー的なオヤジをよく出すんですけど、それはこのあたりからきている気がしますね。
――あはは。たしかに、小林さんが関わった作品には、陰のある男性キャラクターがよく出てくる印象があります。
小林 ただ、アニメでそういうタイプの女性キャラクターを出すのは、なかなか難しいですね。峰不二子みたいなキャラクターもすごく好きなんですけど、あまり歓迎されない。アラサーくらいのカッコいい女の人を出したくても、アニメでウケるのはやっぱり10代のヒロイン、みたいな感じなんですよ(笑)。とはいえ、オリジナル脚本のときはちょこちょこ出していますけど。
――そういう意味では、今のお仕事につながる部分もある。『あしたのジョー2』は、今でも見直すことはありますか?
小林 Blu-rayが出たので買ってそろえたんですけど。……じつは、第1話しか見ていないんです(笑)。
――あはは。買って満足してしまった。
小林 そうですね(笑)。ただ、本放送では見られなかった第1話を見て「うん、やっぱりこれはすごい」と思いました。これはシナリオがあってできた作品じゃないな、と。『あしたのジョー2』の第1話って、シナリオではとても書けない第1話なんです。あんな話をシナリオで書いたら、ボツを食らうのは間違いない。なにせ、ジョーが街を走って戻ってきました、というだけの話なので。
――ストーリーラインだけ追いかけると、たしかにそうですね(笑)。
小林 でも、それをあそこまで見せるのは、監督と演出さん、コンテの力なんだなと思いました。やっぱりすごいですよ。
――パッケージを買ってそろえた作品でいうと、ほかには何があるんでしょうか?
小林 出﨑監督の作品でいうと『宝島』ですね。ほかには『未来少年コナン』とか……。だいたい、全部は見ていないんですけど(笑)。あと『銀河鉄道999』の劇場版はふたつともそろえていて、つい先週、シネマコンサートにも行ってきました。「ロマン」という言葉を体感したのは、松本零士さんの作品だったんだな、と。やっぱり音楽の力は大きいんだな、とあらためて認識しました。
KATARIBE Profile
小林靖子
脚本家
こばやしやすこ 1965年生まれ、東京都出身。『特捜ロボ ジャンパーソン』で脚本家としてデビュー。以降、『仮面ライダー龍騎』などの特撮・アニメで活躍。高橋一生が主演を務めたドラマ『岸辺露伴は動かない』も大きな反響を呼んだ。2021年12月には『岸辺露伴は動かない』の新作となる3エピソードが放送決定。