Febri TALK 2021.08.20 │ 12:00

小林靖子 脚本家

③ドラマの作り方が体得できた
『仮面ライダー龍騎』

脚本家・小林靖子が影響を受けた作品を語るインタビュー連載。その第3回で取り上げるのは、自身のキャリアにとって大きな転機となったという『仮面ライダー龍騎』。この大ヒット作で小林が手に入れたものとは?

取材・文/宮 昌太朗

大切にしているのは、キャラクターの「哲学」

――脚本家になるまでのお話も少し伺いたいのですが、脚本家になりたいと思ったのはいつ頃なのでしょうか?
小林 中学生くらいのときかな。授業中、ノートにセリフというか、キャラクター同士の会話をいっぱい書いていたんです。その後、雑誌で脚本家という職業を知って「あ、私がやっていることだ」と(笑)。ただ、それはあくまでも夢で、通信教育でシナリオの勉強はしましたけど、結局、短大に行ったあとは普通に就職したんです。

――脚本家になった直接のきっかけは『特捜エクシードラフト』のとき、視聴者からのご意見コーナーにシナリオを書いて送ったことだったそうですね。
小林 そうですね。本当に、たまたま巡り合わせがよかったということだと思うんですけど(笑)。『特捜エクシードラフト』の前に『特警ウインスペクター』という番組がやっていて、それが面白くてハマっていたんです。そうしたらあるとき――出勤の途中かな、電車のなかで頭からお尻まで、ストーリーがパッと思い浮かんだんですよ。で、これは忘れないようにと思って、通信教育で習ったシナリオ作法に則って書いちゃったんです。たぶん、2日もかからなかったんじゃないかな。

――そんなことってあるんですね! で、それをテレビ朝日に送って。
小林 マニアックじゃないところがよかったみたいなんですよね。それで、テレビ朝日のプロデューサーの方が、東映のプロデューサーとメインライターだった宮下隼一さんに渡してくれて。それが最初でしたね。

――で、『特捜ロボ ジャンパーソン』でデビューすることになるわけですね。影響を受けた作品の3本目に『仮面ライダー龍騎(以下、龍騎)』を挙げていただきましたが、デビューから10年ほど経った頃に手がけたTVシリーズですね。
小林 そんなに経ってました!?(笑) もちろん、転機という意味では、デビュー作の『特捜ロボ ジャンパーソン』だったり、初めてメインライターを務めた『星獣戦隊ギンガマン』だったり、節目になった作品はいろいろあるんです。ただ、それまでは「好き」という気持ちだけでなんとかなっていたのが、いよいよどうにもならくなってきた。技術的にどう取り組むべきか、ドラマとはどういうものなのか、というところにきたのが『龍騎』でした。

――もう少し具体的にお伺いできますか?
小林 たとえば、「戦隊もの」であれば、時代劇的なフォーマットがしっかりと土台にあるんです。ここで戦って、ここで一度負けて、でも最後に敵を倒して大団円、みたいな。フォーマットのなかでいろいろとバリエーションをつけていくのが「戦隊」だったんですね。でも、当時の、いわゆる「平成仮面ライダー」シリーズは『仮面ライダークウガ』から始まったばかりで、フォーマットらしいフォーマットがなかったんです。しかも、連続ドラマですから、作法がまったくわからない。そこですごく苦労しました。『龍騎』をやっていくなかで、だんだんとドラマの作り方みたいなものがわかってきたかな、というのがあります。

「好き」という気持ちだけでは

どうにもならなくなってきた

ところにきたのが『龍騎』でした

――『龍騎』の企画は、実際にはどういう風に固まっていったんでしょう?
小林 取っかかりの部分は、プロデューサーの白倉(伸一郎)さんと監督の田﨑(竜太)さんですね。あとはライダーのデザインがすでにあって、今回はライダーをいっぱい出そう、と。いわゆる設定的な部分ですね。そういうところを打ち合わせで詰めていったうえで、キャラクターは主人公とライバル、あとはヒロインの3人くらい。で、ライダーたちが戦うことにしよう、と。難しかったのは、実際にそれをどういうお話にまとめていくか、というところでした。

――そこで大きな壁に突き当たった。
小林 第2話まではストーリーが立ち上がる部分なので、それほどでもなかったんですけど、そのあとの展開ですね。第3話、第4話あたりからはずっと難しくて。あと『龍騎』はちょっと特殊なシリーズで、いろいろなキャラクターが出入りして、話が進むにしたがってライダーが増えていく。で、その最初のクライマックスとして、3話連続で長石(多可男)監督が撮っているエピソードがあるんですけど……。

――第17話「嘆きのナイト」から第19話「ライダー集結」の3話ですね。
小林 そこからは、うまく行き始めたのかなって感じがします。それまでは脚本も頭からダラダラと書いていたんですけど、箱書きといって、シーンごとにやるべきことを書き出して、それを入れ替えたり、ロジック的に構成していって。箱書きは何度もやった記憶があります。

――それまでとは違うアプローチが求められたのが『龍騎』だった。ちなみにキャラクターを描くとき、小林さんが大切にしているものは何でしょうか?
小林 言葉で言ってしまうと「哲学」みたいなことになっちゃうんですけど……。それほど難しく考えているわけじゃないんです。その人は何を基本にして行動しているのか。たとえば、善悪なら善悪でも構わないんですけど、そういう基本が見つかると、キャラクターが決まる。口癖がどうこうとか、食べ物ならピザが好きとか、そういう記号で組み立てていくのがあまり好きじゃないんです。

――なるほど。たとえば、どこかからモデルを持ってきて、そこを手がかりに組み立てていくみたいなことは……。
小林 まったくないですね。どちらかというと、彫刻みたいな感じで、少しずつ外から彫り出していく、というか。「こういう人かな、ああいう人かな」って彫っていくと、あるとき「この人の許せない一線はここなんだ」だったり、「このシチュエーションに対してはこういう発言をするんだ」というのが見える。そこが一本バシッと決まると、そこから先は意外といけるんです。endmark

KATARIBE Profile

小林靖子

小林靖子

脚本家

こばやしやすこ 1965年生まれ、東京都出身。『特捜ロボ ジャンパーソン』で脚本家としてデビュー。以降、『仮面ライダー龍騎』などの特撮・アニメで活躍。高橋一生が主演を務めたドラマ『岸辺露伴は動かない』も大きな反響を呼んだ。2021年12月には『岸辺露伴は動かない』の新作となる3エピソードが放送決定。

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