小説ならではのじっくりした描き方を映像化
――映像を拝見して印象に残ったのは、写実的なリアルな光の使い方です。“暗さ”を強調した演出になっていますね。
村瀬 『ガンダム』用に意識したというよりは、私が携わった作品は暗い画面構成のものが多かったので、そちらと地続きの結果ですね。ただ、今回はあまり強調してはダメかなと思っていたのですが、メカニカルデザインの玄馬(宣彦)さんの意見もあって、暗めになりました。少し落とし過ぎたかと若干思いましたが、劇場で確認したら「案外見えるよね」という、いいところに落ち着いてくれましたね。そのあたりはドルビーシネマ(Dolby Cinema™)基準で制作した効果も多少はあったかもしれません。
――見え方がクリアになったところも。
村瀬 暗いところがちょっと持ち上がるというか、レンジが広がりますね。ただ、もうちょっと精度は上げられたかなと。
――戦闘シーンの立体的な映像演出は3DCGの恩恵ですか?
村瀬 CGを使ってはいるのですが、実際に映像に出ている表面上のものはアナログな手法で作られています。立体的に見える部分というのは、できる限り固定しないで動かそうとしたカメラワークの役割が大きいと思いますね。でも、それはCGをぐるぐる回すということでもないです。もちろん、途中段階でCGのモデルも使っていますし、背景のガイドを3Dで出しているので、戦闘シーンのスピード感や奥行きに関しては確実に相乗効果があったと思います。
――キャラクターの作劇も、じっくりと繊細に描かれます。そのあたりに村瀬監督のおっしゃる“小説の映像化”らしいリズムがあったのかなと。
村瀬 僕としてはそちらのほうがやりやすいですね。TVシリーズとは異なるリズムが念頭にありましたし、富野さんが通常作るアニメーションのスピードはビュンビュン飛んでいってしまうくらい速いので。
――スピーディーですよね。
村瀬 そうではなく、小説ならではのじっくりした描き方を映像化していきました。
上田さんの演技が生み出した今回のギギ
――上田麗奈さんが演じる、ギギ・アンダルシアの感情表現も類型のないものでした。
村瀬 ギギは小説を読んでも、本当にわからない女性なんです。ただ、とにかく嫌な女にだけはしたくなくて。「嫌なことを言うけれど、かわいいから許せちゃう」にしたかった(笑)。なのでデザインも、とてつもなく美しくないと許されないだろうと。そこはpablo uchidaくんに依頼してよかったですね。衣装もたくさんデザインしてくれましたけど、あれはアニメーターの感覚では描けないものだと思います。
――なるほど。
村瀬 それでも、正直なところ、上田さんの声をもらうまではわからない部分がありました。そもそも想定していた声質と上田さんの声は全然違うんですよ。
――そうなんですね。
村瀬 もうちょっとクールなイメージだったのですが、オーディションのときに彼女がほかの方々と違う芝居をしていて、「なるほど」と腑に落ちた部分があったんです。そこでギギ像が見えてきました。彼女の演技のリズム感が、小説とも違うギギを生み出したところはあります。
映像面はレトロだけど、サウンド的にはかなりモダンな作り
――ドルビーアトモスサウンドの導入もあり、今回は音響部分も刷新されています。音響演出には笠松(広司)さんが入っていますね。
村瀬 笠松さんは『∀ガンダム』で音響効果を担当されていて、本作の小形(尚弘)プロデューサーともつながりがあったので依頼しました。
――ビームの音などは今回から変更されている部分もあります。
村瀬 笠松さんとは「すべてを新しい音にする必要はないよね」と話し合いました。『ガンダム』と言えばこの音、というのがあるので、まったく別の音を持ってくるのも違うだろうと。結果として、過去のガンダムシリーズへのリスペクトを持ちながら、そのうえで新しい音を作り上げる方向性で仕上げていただいたので、そこはありがたかったですね。
――ドルビーアトモスへの対応はどのように行われたのでしょうか?
村瀬 制作途中で決まったのですが、笠松さんもやれるのであればぜひやりたいと。僕もこれまで5.1chのもので作ってきたので、臨場感とか音域とか、空間での音の広がりなどにはこだわってきたタイプなんです。そのあたりを今回、笠松さんはきちんと対応をしてくださいました。ドルビーアトモスを導入した劇場だと真上からも音が鳴らせるので、「今後はこの効果を使った演出もしたいよね」とコンテで協力してもらった渡辺信一郎さんと試写を見て話しました。
――音楽は澤野弘之さんが担当していますが、発注でこだわった部分はありますか?
村瀬 澤野さんのサウンドはメロディが印象的じゃないですか。ですが今回は作品的にもそこは少し抑えめというオーダーは出しています。発注に対して上がってきた音楽を笠松さんとも相談しつつ、物語のなかでどう使うか考えていきました。じつは劇中で使われた2曲以外にもボーカル曲があったのですが、バランスを見てボーカルを抜きにしてもらうなど調整していただきました。
――澤野さんの音楽に関する印象は?
村瀬 今回は映像を通してみると、共通のフレーズがどの曲にも巧みに散りばめられていて、全体のバランスがすごく良かったと思いますね。
――澤野さん的にも、現在の劇伴のトレンドに合わせた作りにしたかったそうです。
村瀬 そうですね。『閃光のハサウェイ』は映像面でやっていることはレトロというか、アナログなのですが、サウンド的にSEやBGMも含めてかなりモダンな作りだと思います。
――第1部を作り終えて、第2部、第3部の方向性は見えてきましたか?
村瀬 現場的な制作体制に関してはもう少し改良していかなければいけないと思っています。小形プロデューサーにも何かしら意見があるみたいなのと、どうやら富野さんも見てしまったらしいので。
――そうなんですね。
村瀬 いろいろリアクションは聞いていますが(笑)。……ただ、全体の構成としては今決まっているもので大丈夫なんじゃないかなと考えています。
- 村瀬修功
- むらせしゅうこう。アニメーション監督、演出家。監督作に『虐殺器官』『Ergo Proxy』『GANGSTA.』など。映画『ブレードランナー2049』に連なる『ブレードランナー ブラックアウト2022』のキャラクターデザイン、作画監督、原画なども手がける。