浪巫謠は女性に人生を翻弄されているキャラクター
――西幽では新キャラクターだけではなく、嘲風(チョウフウ)が再登場しました。相変わらずのヤバい娘で、浪巫謠(ロウフヨウ)と再会したかと思ったら、いきなり大胆なことを。
虚淵 嘲風は、やはり浪巫謠が背負う業のひとつなんです。彼の運命をひっぱり続ける。その意味で、睦天命(ムツテンメイ)と対になるポジションのキャラクターかなあ、とも思っています。
――劇場版から、立場は変われどその人間関係の構図は変わらない。浪巫謠は女難のキャラクターなんですねえ……。
虚淵 そうですね。カッコいい男は、どうもそういうポジションに立たせてしまいます(笑)。女性を相手に揺るがない男性というのは、自分は英雄的に書けないところがありまして。なんだかんだで、女性が男のウィークポイントであってほしいという価値観があるのかもしれないですね。「世間にゃ男には女が‥‥女には男がお互い掃いて捨てるほどいるってこった しかしな ホセ・メンドーサは世界にたった一人きりしかいねえ‥‥!」っていう矢吹丈のあのセリフは、たぶん、自分には一生書けない気がします。真逆なキャラクターばっかり書いてしまう。
――とはいえ、睦天命が生きていたのにはホッとしました。その結果、浪巫謠がまた何かしらを背負ってしまうとしても。過去のところはエグい展開でしたよ……。
虚淵 ねえ(笑)。やっぱり母親も含めて、浪巫謠は女性に人生を翻弄されているキャラクターだなあと思いますね。
2期で拾えなかった設定まで含めて完結させた婁震戒と七殺天凌
――生存といえば、睦天命のそばには天工詭匠(テンコウキショウ)がいて、こちらも再登場しました。
虚淵 発明家というのは非常に便利なポジションなので、次々と出すよりは同じキャラクターに続投して務めてもらいたいなと。
――で、発明家キャラといえば、鬼奪天工(キダツテンコウ)。婁震戒(ロウシンカイ)の義手は『サンファン』世界の幅がまたひとつ広がる、ユニークなギミックだと感じました。
虚淵 鬼奪天工はそれこそ今後のシリーズに向けての顔出しとして、3期にもちょっと来てもらった……ぐらいのポジションですね。
――あ、そうなんですか!
虚淵 彼はまだ出番があります。ある意味、続編まで構想したうえで書く3期の物語の特徴的なキャラクターではありますね。
――そして、そのマッドサイエンティストと絡む婁震戒。虚淵さんの趣味がさく裂したような印象ですが。
虚淵 そうですね。婁震戒の出典は星海社さんで出した『レッドドラゴン』というロールプレイングゲームのリプレイ小説のキャラクターだったわけですけど、そこで用意した設定の全部を拾わないまま2期が終わってしまったんです。七殺天凌(ナナサツテンリョウ)の過去の設定とか、彼が片腕を失って義手になるとか。3期をやるならば、その辺まで含めてキャラクターを完結させたいという欲が出まして、ああいった形で再登場しました。
――ロケットアームはあの世界はアリなんだと。「ここまで『Thunderbolt Fantasy Project』はやっていいんだ」的な驚きがありました。
虚淵 もともとの霹靂布袋劇がそのへんは自由な世界観なので、本家を見たときにびっくりしないように『Thunderbolt Fantasy Project』でもこれくらいは予習としてやっておかないとな、といった感じです(笑)。
――で、その愛の対象である七殺天凌は、人間体は出るわ、暴れ倒すわ、そしてオチも持っていくわ……という感じで。
虚淵 ええ(笑)。2期で描ききれなかった設定を使いきりたいと思って、すべてを詰め込んだ結果、ラスボスになったという感じです。そして、あのふたりが暴れている限り、世の中はめちゃくちゃになっていくわけですから、そういった点では一旦退場していただいて話を先に進めないと。
――それにしても婁震戒がらみの描写は、石田彰さんの声も相まって、終盤は出てくるたびに笑いっぱなしでした。
虚淵 本当に怪演していただきましたね。
――七殺天凌であればどんな形でもいいのかと思いきや、剣の姿をした七殺天凌にしか興味がない。
虚淵 何にも興味を持てずにさまよっていた諦空(テイクウ)を、婁震戒に還俗させた理由がたった一本の剣だった以上、その剣以外のものに関しては本当に一切合切価値を認めていないんですよね。逆にいえば、そんな彼だからこそ、かつて諦空として生きられたわけでしょうし。