アニメーションとの出会い
細田 僕は富山県出身でして、およそ40年前に富野監督の『機動戦士ガンダム』をこの土地で見ております。正確にはその前の『無敵超人ザンボット3』から見ているわけですが、この地で小学生当時から影響を受けてきました。今日は富山の子供たち、あるいはかつて子供だった皆さんを代表して、尊敬する富野監督にお話を伺いたいと思っております。
富野 新型コロナの影響で、限られた会場での公開となったことは大変残念です。でも、僕にとってとてもうれしいことも教えていただきました。この対談の観覧応募者が10歳から70歳までいたということです。それは、今回の『富野由悠季の世界』展のみならず、アニメというものが文化の一員として認められたということでもあります。サブカルチャーではなくカルチャーとなれたことをうれしく思っています。
細田 僕は福岡での展示も見ているんですが、今回の富山は会場も大きいし展示内容もたくさんあって迫力がありましたね。
富野 富山県で5回目になりますが、これはひとつの美術館の学芸員が展示内容の仕込みをやっているわけではないんです。各美術館の学芸員たちが、それぞれ集まって準備を行うという状況でした。まさか美術館のようなところで、このようなものを見せるということをやったことがなかったのですごいなと思いました。と言いつつも、立派な名画が並んでいるわけではないんです。人様に見せられないものが展示されています。普通の常識で考えれば、中学生が描いたようなものを県立美術館に並べますか?
細田 フフフ。
富野 美術品が並んでいるわけではないんですが、それを5回もやっているとあらまあ、これが形になっていく。だからよくやっているとは思いますが、この年齢になったからこそ皆さんにも嫌味が言えるわけで、「よくまあこんなものを見に来るね」と。どうしてなんだと僕のほうから聞きたいくらいです(笑)。
細田 来ましたね、いきなりの富野節が炸裂していますけど(笑)。
富野 でもね、僕が小学生の頃のアニメーションと言えば、ディズニーアニメしかなかったんです。それもテレビではなく映画館で見るしかなかった。あるいは小学校の授業の一環として映画教室というのがあったんだけど、そういう機会に見せられたわけです。その頃の学校の先生たちもひどくて、マンガ映画だからねと言うんです。作品の評価などは一切なくて、本当は見せたくないけど教育委員会の命令だからいやいや見せるんだということを言う。そうやって『バンビ』や『白雪姫』を見たときに、果たして本当にそうなのか?と感じました。先生たちが言うよりも映画っぽくなっているし、何よりも1コマ打ちのアニメーションを総天然色で作る労力を考えたらアメリカという国の凄さもわかります。こんな国を相手に戦争をした日本が負けるのは当然だと感じたんです。
細田 本当ですね。たとえば『ファンタジア』という作品をひとつとっても、あれが戦前に作られたものだというのは驚愕ですよね。
富野 まったくそのとおり。まだ見ていない方は騙されたと思ってぜひ鑑賞してください。短編の集合だから全部が名作とは言えないにしても、音楽に合わせてアニメーターが絵を作っていくという技術は素晴らしいし、戦争の話が出てしまったから言うけれど、もし、戦前に日本陸軍の軍人たちがあれを見ていれば、絶対に戦争はしなかったと断言できます。