Febri TALK 2021.11.03 │ 12:00

志倉千代丸 音楽プロデューサー

②未来へのワクワクが止まらない
『ドラえもん』

『STEINS;GATE』や『ROBOTICS;NOTES』などの科学アドベンチャーシリーズの産みの親として知られるクリエイター・志倉千代丸が選ぶアニメ3選。独自の見解に彩られたインタビュー連載の2本目は、子供心に未来への大きな希望を感じたという『ドラえもん』について。

取材・文/岡本大介

『STEINS;GATE』で示したタイムマシンへのこだわり

――2作目は『ドラえもん』です。これは1979年放送開始の第2期ですね。
志倉 『ドラえもん』はもともとマンガで読んでいて、それがアニメ化されると聞いてウキウキしながら第1話の放送を待ちわびていました。たしか最初にタケコプターが登場した際は、ラジカセでタケコプターの駆動音を録音して、兄の富士丸に聞かせた記憶があります。

――なぜタケコプターの音を録音しようとしたんですか?
志倉 マンガを読んでいるときからタケコプターの原理に興味があったんですよ。僕は完全に理系人間なので、あのサイズのプロペラで人ひとりを空中に浮かせる揚力が発生するなら、絶対に頭がハゲるよねって子供ながらに思っていて。そういうことを友達やら家族に説明しては「もう千代丸うるさい!」ってウザがられていました。

――なるほど(笑)。だからタケコプターの音に興味津々だったんですね。
志倉 きっとスゴいモーター音が鳴るに違いないとドキドキしていたら「ピチュピチュピチュ」というなんともかわいい音で(笑)。「なんでやねん!」とツッコミつつも「これが未来の技術か!」と感動しました。僕にとって『ドラえもん』は、未来へのワクワク感をこれでもかと抱かせてくれる作品で、僕らが大人になったときにはこういう未来が待っているんだと本気で思っていたんですよね。ただ、その一方で「スモールライトとガリバートンネルってほぼ同じじゃね?」みたいなツッコミを入れるのも好きでした。

――タケコプターの件もそうですが、設定の矛盾を見つけるのが好きなんですね。
志倉 子供の頃ってみんなそうじゃなかったですか? 「そこに気づく俺カッケー」っていう価値観でしたよね(笑)。大人になって振り返ると、スモールライトとガリバートンネルは開発者が違っていて、それぞれで特許を取っているであろうことが理解できるようになって、得意になってツッコミを入れていた自分を恥じて改心しましたけど(笑)。

――『ドラえもん』にはいろいろなひみつ道具が登場しますが、志倉さんのお気に入りは?
志倉 うーん。悩みますけど、今なら「ウソ800」ですかね。映画『帰ってきたドラえもん』で登場したひみつ道具で、しゃべったことがすべて嘘になるというものなんです。未来の世界に帰ってしまったドラえもんに対して、のび太が「二度と会えない」と口にしたことでドラえもんが帰ってくるという展開で、あれには泣かされました。

――あれには僕も泣きました。ただ、冷静に考えると「ウソ800」ってドラえもんのひみつ道具の中でも群を抜いて万能ですよね。
志倉 そうなんですよ。あの薬を飲んで「コロナが全世界に蔓延すればいい」とか「世界は毎日戦争しろ」って言えば、逆のことが起きるわけで、そういうことに使いたいなと思いますね。……僕もずいぶん大人になったなあ(笑)。

――『ドラえもん』の代名詞のひとつにタイムマシンがありますが、志倉さんも『STEINS;GATE』ではタイムマシンを題材にしていますよね。
志倉 タイムマシンへの思い入れは本当に強いんです。だから『STEINS;GATE』では最初は「Dメール」というメールを過去に送ることのできるマシンから始まって、そこから「タイムリープ」を経て、最後に「タイムマシン」が完成する流れになっていて、ちゃんと段階を経て開発しているんですよ。僕は、そこはかなり重要なポイントだと思っているんですが、関心を持ってくれる人があまりいなくて、そこはちょっぴり悲しいですね。

『ドラえもん』の魅力は

やっぱり藤子・F・不二雄先生の

発想力と考察力に

尽きると思います

――そう言えば『STEINS;GATE』では、最終的にはダル(橋田至)がタイムマシンを完成させましたよね。
志倉 それも理由はちゃんとあるんですよ。ダルはもともとハッカーでありプログラマーなので、ソフトウェアには強いけどハードはそこそこだったんです。でも『STEINS;GATE』のあと、世界線を同じくする『ROBOTICS;NOTES』でJAXAに協力してさまざまなことを学んだという設定があって。ダルはそこでの経験を駆使して、最終的に『STEINS;GATE』の世界でタイムマシンを完成させるということなんです。

――スゴい! シリーズ作品をまたいで伏線を回収しているんですね。
志倉 作品をまたいだ伏線回収や裏設定というのは、表に出していないものも含めてたくさんあるんですよ。

――そこまで計算していたとは、天才ですね。
志倉 まあ、そうなりますよね。

――間違いないです。
志倉 いや、冗談ですからね?(笑) ……たしか今は『ドラえもん』の話でしたよね。

――じつは文字数的にそろそろ限界で。
志倉 じゃあ、強引にまとめますか。『ドラえもん』の魅力はやっぱり藤子・F・不二雄先生の発想力と考察力に尽きると思います。あれだけの道具があって破綻していないのはすごいですし、科学や物理に精通されていたんだろうなと思います。それに『ドラえもん』って海外の多くの国でも放送されているじゃないですか。世界中の多くの子供たちが、かつての僕と同じように未来に希望を持ってくれたならば、こんなに素晴らしい作品はないと思います。……こんな感じでいかがですか?(笑)

――バッチリです。ありがとうございました。
志倉 あれ? なんとなくいい感じのことを言ったつもりなんですけど、スカスカな気がしてきました(笑)。もう少しマニアックなことを言っておきましょうか? タイムマシンつながりで「意識は高速を超える」という話とかどうです? これは「量子もつれ」を応用した僕の仮説なんですが……。

――い、いや、もう大丈夫です。
志倉 不安だなあ。読者のみなさん、僕のことを薄っぺらいヤツだと思わないでくださいね。これでもわりとガチなSF作品を作っているんですよ(笑)。endmark

KATARIBE Profile

志倉千代丸

志倉千代丸

音楽プロデューサー

しくらちよまる 音楽プロデューサー/ゲームクリエイター。1970年生まれ。埼玉県出身。作曲家としてゲーム業界へ飛び込み、『STEINS;GATE』に代表される科学アドベンチャーシリーズの企画・原作を務めるなどゲームクリエーターとして活躍。多数のアーティストへの楽曲提供をはじめ、実業家の顔も持つゲーム業界の風雲児。2021年秋には最新作『アノニマス・コード』が発売予定。

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