Febri TALK 2021.11.05 │ 12:00

志倉千代丸 音楽プロデューサー

③世の中きっとお金じゃない
『ルパン三世』

『STEINS;GATE』や『ROBOTICS;NOTES』などの科学アドベンチャーシリーズの産みの親として知られるクリエイター・志倉千代丸が選ぶアニメ3選。独自の見解に彩られた3本目は、お金に縛られない価値観と美学で行動する姿に共感する『ルパン三世』の魅力についてのインタビュー。

取材・文/岡本大介

それぞれの美学に基づいて行動する姿に惹かれる

――3作目は『ルパン三世』シリーズです。こちらもとても長いシリーズですが、どの時期のルパンが好きですか?
志倉 第2シリーズ以降の義賊的なキャラクターになってからのルパンですね。無数のサーチライトに照らされて、機関銃の集中砲火を浴びつつも、不敵な笑みを浮かべながら逃げていく姿がカッコいいですし、ただお宝を盗むだけの泥棒ではないというところにしびれますね。

――では、映画『ルパン三世 カリオストロの城』なども好き?
志倉 もちろん大好きですし、あの作品はいろいろと考察もしちゃいますね。ちょっと聞きますけど、そもそもルパンはなぜカリオストロ公国に潜入したと思います?

――たしか偽札の「ゴート札」の謎を解くためですよね?
志倉 でも、ルパンは物語の冒頭で、カジノから盗んだ大量のゴート札をすべて捨てているんですよ。つまり、「俺は偽札には興味がない」という意思をはっきりと示しているんです。そんなルパンがゴート札のために危険をおかすとは考えにくくないですか?

――言われてみれば、たしかにそうですね。じゃあルパンはなぜカリオストロ公国に潜入したのでしょうか?
志倉 これは僕の推測ですけど、ルパンはきっとクラリスが置かれている状況を最初からわかっていたんじゃないかと思うんです。劇中ではあとになって思い出したことになっていますが、若かりし頃に受けた恩をおぼえていて、それを返しに行ったと考えたほうがしっくりくるんですよね。

――ああ、最初から女性がらみだと次元たちが協力しないだろうから、偶然を装ったということですね。それはありえそうですね。
志倉 だってクラリスと対面した際の自己紹介なんて、明らかに事前に練習していますよ。「私の獲物は、悪い魔法使いが高~い塔の上にしまいこんだ宝物」とか「泥棒は空を飛ぶことだって、湖の水を飲み干すことだってできるのに」なんて、いくらルパンでもとっさに出てくるわけがない。おまけに一輪の花を差し出して、そこから万国旗がつらつらと出てきて「今はこれが精いっぱい」ですから。あんな小道具をどこで用意したのか。しかも「湖の水を飲み干す」と言って、最後は湖の水をすべて放出するわけですから、ものスゴい伏線回収ですよ。まさに庭師の爺さんが言うように「なんと気持ちのいい連中だろう」です。あ、もちろんTVシリーズも大好きですよ。少し粗削りだけど、それがまたいい味を出しているんですよね。うーん、『ルパン』ってやっぱり最高だな。

――大好きすぎません?
志倉 え? だってこれ、好きな作品を語る企画ですよね?(笑)

一見、昭和歌謡っぽい曲でも

コード進行を読み解くと

ジャズの要素がけっこうあって

とにかくオシャレなんです

――そうなんですけど、あまりの熱量にちょっとびっくりして。すみません、どうぞ続けてください。
志倉 じゃあ、話題を変えて音楽の話を。僕は作曲家でもあるんですけど、その目線から見て『ルパン三世』シリーズの音楽は本当に素晴らしいです。楽曲を作っていらっしゃる大野雄二さんの才能はもちろん偉大ですし、さらに演奏や歌唱、劇中のSE(効果音)に至るまで、音のすべてがいいんですよね。

――『ルパン三世』の楽曲は、ジャズっぽい雰囲気の音楽が多いですよね。
志倉 そうです。一見、昭和歌謡っぽいボーカル曲でも、コード進行を読み解くとジャズの要素がけっこうあって、とにかくオシャレなんです。

――志倉さんの作る楽曲はテンポの速いEDMの印象が強いですが、ジャズっぽいテイストも好きなんですね。
志倉 好きですし、実際にそういう楽曲も書いているんですよ。たとえば、ファミコン生誕20周年を記念したアレンジアルバム(「ファミコン 20th アニバーサリーアレンジ サウンドトラックス」)に参加させていただいた際は『バルーンファイト』のボーナスステージの曲をジャズアレンジしましたし。もともとちょっとジャズっぽい曲だなと思っていたので、それを生バンドを使ってガチのジャズにしたんですが、演奏者たちが楽器をチューニングしているところから収録したものをそのまま音源にしています。

――ジャズ楽曲も作っていたとは知りませんでした。
志倉 気になった方はぜひ聞いてみてください。おそらくまだネット通販などで手に入ると思います。

――ちなみに志倉さんは数多くのアニメ主題歌も手がけていますが、いわゆるアニソンの魅力はどこにあると感じていますか?
志倉 アニソンって、楽曲を聞いただけですぐに作品のキャラクターや世界観が頭に浮かぶじゃないですか。そこは通常のJ-POPとは明確に違う部分で、作り手としてはめちゃくちゃ大きな援護射撃をもらっている気がします。もちろん、楽曲そのものの力も重要ですが、作品とセットになることでより大きな感動につながっていることは間違いないですね。

――では、最後に『ルパン三世』からご自身が影響を受けているところはありますか?
志倉 あ、もうまとめの時間?(笑) そうですねえ。基本的にルパンたちっていつも貧乏じゃないですか。彼らほどのスキルと知能があればいくらでも金儲けはできるはずなのに、そうはしない。それってつまり、行動原理がお金ではないということなんですよね。ルパンたちはきっとそれぞれの美学や正義に基づいて行動しているので、そこは僕もすごく共感できますし、見習いたいところです。……どうですか? 今回はいい感じでまとめられたんじゃないですか?。

――(笑)……いいと思います。
志倉 あれ? ダメなの? じゃあ、最後に次元大介の話でも。なんで彼の名前が「次元」なのかと言うと「次元を超えられるから」っていう(笑)。

――あ、文字数がいっぱいになりました。
志倉 またその手か(笑)。でも、本当にある都市伝説なんですよ。次元の神出鬼没さには謎が多くて、これは諸説あるんですが……。endmark

KATARIBE Profile

志倉千代丸

志倉千代丸

音楽プロデューサー

しくらちよまる 音楽プロデューサー/ゲームクリエイター。1970年生まれ。埼玉県出身。作曲家としてゲーム業界へ飛び込み、『STEINS;GATE』に代表される科学アドベンチャーシリーズの企画・原作を務めるなどゲームクリエーターとして活躍。多数のアーティストへの楽曲提供をはじめ、実業家の顔も持つゲーム業界の風雲児。2021年秋には最新作『アノニマス・コード』が発売予定。

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