Febri TALK 2021.11.01 │ 12:00

志倉千代丸 音楽プロデューサー

①大人になっても見続けている
『サザエさん』

『STEINS;GATE』や『ROBOTICS;NOTES』などの科学アドベンチャーシリーズの産みの親として知られるクリエイター・志倉千代丸が選ぶアニメ3選。独自の見解に彩られた1本目は、子供時代から今に至るまで見続けているという『サザエさん』についてのインタビュー。

取材・文/岡本大介

カツオへの考察がリアルタイムで当たる気持ちよさ

――今回、志倉さんが選んだ3作品は『サザエさん』『ドラえもん』『ルパン三世』と、いずれも国民的アニメです。志倉さんといえば、科学やSFに造詣が深いイメージがあるので、ちょっと意外でした。
志倉 失敗した失敗した。

――(笑)。いきなりどうしたんですか?
志倉 いや。そもそも僕はかなりの考察厨なので、難解で考察しがいのある作品が大好物なんです。ただ、同時に僕は超ひねくれているので、すでに多くの人がこすり倒している作品について考察しても、雑談ならともかくメディアに載せる意味があるのかなと思ってしまって。だから今回そういう作品はすべて外したんですけど、そうしたらこれらの国民的アニメが残ったんです。正直、どう語ればいいのかわかりません(笑)。考察を期待してページを開かれた方にはちょっと申しわけないです。

――考察を披露する連載企画ではないので、そこは心配ご無用です。
志倉 本当ですか? 「こいつ、レベル低いな」って思わないでくださいね。

――思いません(笑)。ちなみに今回の3作品は、いずれも子供時代に触れたものですよね。小さい頃からアニメは好きだったんですか?
志倉 むしろアニメしか見ていなかったと思います。当時好きだった作品はたくさんあって、『ガンバの冒険』『小さなバイキングビッケ』『家族ロビンソン漂流記 ふしぎな島のフローネ』『母をたずねて三千里』『未来少年コナン』『魔法の天使クリィミーマミ』『魔法のプリンセス ミンキーモモ』など、挙げていったらきりがないですね。幼少期にこういった名作に触れることができたことは僕らの世代の特権で、すごく幸せなことだと思いますし、できればあのときの興奮をもう一度体験したいなって本気で思います。

――アニメ漬けの日々だったんですね。そんな中から、まずは『サザエさん』です。
志倉 いつから見ていたのか定かではないんですけど、大人になった今でもわりと見続けている作品です。世間には「サザエさん症候群」っていう言葉があるじゃないですか。日曜日の夕方に『サザエさん』を見ると、「また明日から学校か」とか「会社嫌だな」って憂鬱になるっていうヤツ。でも、僕の場合は逆で、むしろ『サザエさん』を見ると気分が変わって元気になる(笑)。だから、いまだに見るんですよね。

――どんなところが好きなんですか?
志倉 とくにカツオが好きで、彼は天才的な悪知恵を持っていて、物語を引っ張っていくじゃないですか。でも、最後はちょっと痛い目にあって終わる。そのオチに至るまでの展開を予測するのが子供の頃からの習慣で、その考察がリアルタイムで当たると本当に気持ちいいんです。

――子供の頃からそんな楽しみ方をしていたんですね。シナリオを手がける志倉さんならではの視点ですね。
志倉 長年カツオを見ていると、カツオはじつはオチまでを計算したうえで、あえて道化を演じているんじゃないかと思うようになってきました(笑)。彼なりの家庭円満の秘訣なんじゃないかと。

『サザエさん』って

次回へのヒキがほぼない

そのハートの強さに驚愕します

――カツオが磯野家をコントロールしていると。彼を見る目が一気に変わりますね。
志倉 ですよね。あともうひとつスゴいなと思うのが、『サザエさん』って次回へのヒキがまったくと言っていいほど無いんですよね。毎回3本立てで、それぞれの話は完全に独立しているし、タイトルもすごく普通なんです。つい最近のタイトルも「波平、帽子をなくす」ですから(笑)。最近の作品はとくにですが、だいたい最後に誰かが意味深なセリフを言うなどしてヒキを作ることが多いですよね。僕自身もかなりの「ヒキ王」で、その手法を使うことが多いだけに『サザエさん』のハートの強さには驚愕します。「怖いものなしかよ!」って(笑)。

――長寿番組ならではの余裕なんでしょうか。
志倉 それでいてちゃんと視聴率は取っていますからね。バケモノですよ。

――『サザエさん』と言えば「古き良き昭和の家庭像」というのも大きな魅力ですよね。志倉さんは磯野家の雰囲気や関係性などはどう見ていますか?
志倉 たしかに今の時代からズレているところはありますけど、相変わらずストーリー展開は面白いですし、作画崩壊も絶対にないですし、やっぱり安心感はピカイチなんですよね。

――ご自身の作風につながっているところはありますか? たとえば、みんなでテーブルを囲んで話し合う雰囲気などは、志倉作品にも通じるような気もします。
志倉 そこはあまり意識したことはないですが、むしろそれをしたくてもできないというのが、『STEINS;GATE』の岡部倫太郎のような気がします。『サザエさん』って、キャラクターがいろいろなことを体験して、そのことを円卓を囲んで家族で情報共有するじゃないですか。でも、岡部倫太郎は世界線を移動しているため、いわゆる「円卓会議」ができない状態が続くんですよね。それでも最後まで円卓会議を目指す岡部は、おそらく『サザエさん』の影響を受けているんじゃないかと(笑)。僕と同じで、小さい頃からずっと『サザエさん』を見て育ってきたんじゃないですかね。

――ラボメン全員が情報を共有する「円卓会議」への憧れがあったんですね。
志倉 たぶんですけど(笑)。あと磯野家のことで言えば、僕は昔からずっと名前が気になっているんですよ。なんで海の言葉で統一されているんだろうと(笑)。磯野家だけなら一族の方針ということでまだ話はわかるんですが、サザエさんの夫は「フグ田マスオ」ですからね。海洋関係の名前を持った相手じゃないと結婚してはいけないとか、そういった特殊なしきたりがあるんですかね。しかもマスオや波平の会社は「海山商事」で、会社の同僚には「穴子さん」がいて。このあたり、じつに綿密なリサーチがうかがえますよね(笑)。もちろん、マスオは意図的に穴子さんと仲良くなったんじゃないかなと思います。

――名前について、そこまで真剣に考えたことはありませんでした。
志倉 なかでも「波平」と「フネ」の関係がもっとも美しいなと思います。平らな波の上に船が浮いているわけですから、なんだか泣けちゃいますよね。

――カツオの次は波平のイメージが変わりました。頑固に見えて、本当はすごく優しい人なんですね。
志倉 あの……全部、僕の妄想ですからね(笑)。名前の理由は別にあるとは思いますけど、そこはご愛嬌ということで。endmark

KATARIBE Profile

志倉千代丸

志倉千代丸

音楽プロデューサー

しくらちよまる 音楽プロデューサー/ゲームクリエイター。1970年生まれ。埼玉県出身。作曲家としてゲーム業界へ飛び込み、『STEINS;GATE』に代表される科学アドベンチャーシリーズの企画・原作を務めるなどゲームクリエーターとして活躍。多数のアーティストへの楽曲提供をはじめ、実業家の顔も持つゲーム業界の風雲児。2021年秋には最新作『アノニマス・コード』が発売予定。