Febri TALK 2022.02.09 │ 12:00

いしづかあつこ 監督

②映像と音のリンクに魅了された
『ファンタジア』

『グッバイ、ドン・グリーズ!』を公開を控えるいしづか監督に聞くインタビュー連載の第2回は、ディズニー映画の大名作をピックアップ。同期する音と映像から生まれるアニメーションならではの面白さ、そして偉大な先人たちから受け継ぐべき「熱」について、じっくりと話を聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

ただの線が動いているだけなのに、キャラクター性を見出してしまう

――2本目は『ファンタジア』(1940年)。ディズニーアニメを代表する一本ですね。
いしづか 見たのは学生の頃です。芸大に入学して、自分で映像を作り始めたんですけど、そうするとやっぱり音も欲しくなる。私は音楽が好きで、ずっとエレクトーンを続けていたこともあって、音楽と映像をうまくマッチさせたいと思っていたときに、教授から「いい作品があるよ」って教えてもらったのが、オリジナルの『ファンタジア』でした。で、見たら「なんじゃこりゃあ!」と(笑)。

――あはは。衝撃を受けた。
いしづか 没入感がすごかったんです。映像も音楽も、どちらも時間を演出する芸術だと思うんですけど、『ファンタジア』には視覚と聴覚が同じタイミングでリンクしていく、そういう心地よさがあって。言い換えると、物語としてのアニメではなくて、アニメーションそのものの凄みを感じたのが『ファンタジア』だったんですね。もちろん、それまで自分が見てきたTVアニメも、映像と音を組み合わせて演出しているという意味では同じものなんですけど、でも『ファンタジア』はたとえ物語の流れがわからなかったとしても、映像と音が共鳴するとこんなにも美しいものになるんだ、というのを突き付けられた感覚があったんです。しかも『ファンタジア』は、第二次世界大戦の最中に作られているわけじゃないですか。

――たしかに。今から約80年前ですね。
いしづか 人間ってすごい、と思ってしまって。戦争をしている真っただなかで、こういうエンターテインメントを作り出してしまう創造力。人間の遊び心とか野心とか探究心とか、いろいろなものが詰まっていて、そのエネルギーに圧倒されました。で、当時はまだビデオだったのかな? 日本で流通しているバージョンにはカットされたパートがあるという話を耳にして、海外版を探して見たんです。それが「サウンドトラック」っていうパートなんですけど……。

――映画のちょうど真ん中くらい、幕間に挿入されているパートですね。オシロスコープみたいな映像の。
いしづか そうそう、それです! あれがじつはいちばん刺さったんですよ。「これが見たいんだ、私は!」って(笑)。音に合わせて、波形が動き続けるだけのアニメーションなんですけど、あの波形にキャラクターを感じたんですよね。ただの線なのに、音に合わせて自分を表現する生き物に見える。それがすごく不思議で。ただの線が動いているだけなのに、そこにキャラクター性を見出してしまう人間の想像力もまたすごいなと。

――鳴っている楽器の種類によって、色が変わったりするんですよね。
いしづか そうなんです。色も変わるし、音の質感にあわせて――ちょっとおどけた音であれば動きもおどけた感じになるし、尖った音であれば尖った動きになる。まるでその線がしゃべっているように聞こえるのが、すごく面白くて。ただの絵にすぎないものが、動きながら音を発するだけで、見ているこちらは生き物として認識してしまう。そこがアニメーションの面白いところなんだなっていうのを実感しました。

人間の遊び心とか

野心とか探究心とか

いろいろなものが詰まっていて

そのエネルギーに圧倒されました

――先ほど、大学で映像制作を始めたという話がありましたが、そこから映像と音楽のリンクを意識するようになったのでしょうか?
いしづか 映像と音のリンクについては、もしかすると自分で作り始める前から意識にあった気もします。というのも、先ほどもお話ししたように、私はずっとエレクトーンを弾いていて――演奏するときに頭の中で映像をイメージする癖があったんです。華やかな音楽であれば、何か華やかなイメージを思い浮かべる、みたいな。だから、もともと自分の中に映像と音がリンクした心地よさを求めるところがあったんだろうなとは思うんですけど。

――『ファンタジア』から受けた影響で、いちばん大きかったものは何ですか?
いしづか リズム感やテンポ、流れの強弱といった音楽的な波を、つねに頭の中で描きながら映像を描く習慣はついたと思います。でも、自分の作品を作るときには物語そのものをどう伝えるかという部分を大事にしていて、言葉にも着目しますし、プロットも大切にするし、全体のロジックを気にかける。ただ、それは――誤解を招く言い方かもしれないですけど、お客さんに楽しんでもらうためなんですね。私自身、お客さんとして映画を見るときは、やっぱりエンターテインメントが見たいと思うので、そういう作り方になるんです。

――なるほど。
いしづか ただ、自分が普段、アニメーションを見ているときに、どこを見ているかというと、たぶん表現方法を見ているんです。物語やエンターテインメントを楽しみたいのであれば、アニメ以外にも方法はたくさんあって、マンガでもいいし、実写でもいい。実際、私が普段見ているのはだいたい海外ドラマだったりするんですけど(笑)、インプットするのはあくまでも作り手の情熱だったり表現なんです。で、それを自分の中でしっかりと形にして、エンターテインメントとしてアウトプットする。そういうことなんじゃないかと思うんですよ。

――インプットとアウトプットで、重視している要素がそれぞれ違うんですね。
いしづか 子供の頃から「何かを作りたい」という欲求がずっとあって、おそらく表現するということに興味があったんですよね。だから、アニメにしても、単純に見るのが好きというよりも、やっぱり「アニメを作るのが好き」というふうに思考が働くんです。普段は、見る人にとってわかりやすいエンターテインメントを心がけていたとしても、その根底には「作るのが好き」という部分があるというか。だからこそ、アニメーションを形作っている技術や表現、先人たちの足跡がすごくいい刺激になるんです。endmark

KATARIBE Profile

いしづかあつこ

いしづかあつこ

監督

愛知県出身。大学在学中よりアニメーション作家として活動し、その後、マッドハウスに入社。『ノーゲーム・ノーライフ』や『宇宙よりも遠い場所』など、話題作を手がける。監督・脚本を務める映画『グッバイ、ドン・グリーズ!』が2022年2月18日(金)に公開。


© Goodbye,DonGlees Partners

あわせて読みたい