Febri TALK 2022.02.07 │ 12:00

いしづかあつこ 監督

①初めて衝撃を受けたアニメ
『風の谷のナウシカ』

『宇宙よりも遠い場所』を筆頭に、話題作を次々と手がけるいしづか監督。最新作『グッバイ、ドン・グリーズ!』の公開を控える監督に、アニメ遍歴を聞くインタビュー連載。その第1回は、誰もが知るあの国民的名作について。

取材・文/宮 昌太朗

怖いもの見たさでテレビの前から離れられなくなった

――今日は、いしづか監督が影響を受けたアニメ作品について伺おうと思っているのですが、もともと積極的にアニメを見ていたわけではないそうですね。
いしづか じつはそうなんです。唯一、『ドラえもん』だけはアニメとして意識して見ていたんですけど、それも身のまわりにあるコンテンツのひとつという認識で。「誰か人が作っている」という目で見たことがなかったんですよね。アニメというものを、人が作っているものだと意識し始めるのは、それこそ就職活動を始めてから。それまではアニメについて語ったこともおそらくなかったと思います。

――たとえば、テレビで放送されているドラマを見たりとかは……。
いしづか 学生時代までは、そもそもテレビをほとんど見ていなかったんですよ。夕飯のときに、ニュースやバラエティ番組を流し見するくらい。父親や兄は映画が好きだったので、週末、録画していた映画を流しているのを横で見たりはしましたけど、でも友達から「外で遊ぼう」って誘われたら、そっちを優先していましたね。

――あはは。今回、3本選んでいただきましたが、最初に見たのはどの作品でしょうか?
いしづか 最初に衝撃を受けたのは『風の谷のナウシカ(以下、ナウシカ)』。たぶん、小学生だったと思います。先ほど、普段は映画をほとんど見なかったと言いましたけど、『ナウシカ』は金曜ロードショーで何度もかかっていて……。その頃、私は寝るのがやたら早くて、夜の9時にはもう布団に入っていたんです(笑)。宿題をさっさと終わらせて、すぐ寝て、次の朝早く起きたいっていう子供だったんですけど、『ナウシカ』はたまたまテレビで始まったのを見ちゃったんですね。親から「早く寝なさい」と言われながら、でも気になってずっと見てしまう。そういう体験をこのときにして。自分としては、夜更かしをしながら、すごく不思議な世界観のものを見せられた。そういうショックみたいなものがあったんです。

――寝なきゃいけないのに、ついつい目が離せなくなってしまった。
いしづか そうですね。しかも見たのが夜だったこともあって、怖いもの見たさにつながったんです。『ナウシカ』って、子供の目には恐ろしい生き物が描かれていて、森の風景ひとつとっても、すごく怖かったんです。大人になって振り返ってみれば、要するに映画として世界観が確立されていたってことだと思うんですけど、そのときは怖いもの見たさでテレビの前から離れられなくなってしまった。しかも、そのときの体験が、少し年月を経て『月のワルツ』を作っているときによみがえってくるんです。

『ナウシカ』や『ラピュタ』は

目指すべきお手本で

あり続けていると思います

――『月のワルツ』というのは、いしづか監督が手がけた短編作品ですね(2004年にNHKの番組『みんなのうた』にて放送)。
いしづか 『月のワルツ』の曲を初めて聞いたとき、子供向けの番組なのにこんなに妖艶で大人向けの音楽を使うんだ、と思ったんですね。で、子供のときにこういう音楽を聞いて、怖いもの見たさをくすぐられる映像を見たら、きっと何年経っても思い出すだろうな、と。恐怖心と好奇心は紙一重というか、『月のワルツ』を作ったときにその感覚をあらためて再確認しました。

――普段、自分が生活している日常とは違う世界が映像の中にはある、みたいな。
いしづか そこにひとつの世界が存在していて、そこで命をかけて生きている人たちがいる。しかも、その世界は、今、見返してみても素晴らしい絵で描かれているわけで、妙にリアルに感じてしまった。そこで感じた怖さというのは、年月を経ても強く残っているなあ、と。その感覚は今でも自分の根底にあるのかな、と思います。

――先ほど『月のワルツ』が話題に出ましたが、自分のお仕事に影響を与えているなと思うことはありますか?
いしづか 普段、意識することはないんですけど、やっぱり『ナウシカ』や『天空の城ラピュタ(以下、ラピュタ)』をはじめとする宮崎駿監督、あるいは高畑勲監督の作品って、日本人が最初にポンと思い浮かべるエンターテインメントなんじゃないかなと思うんです。その感覚は自分の中にもいまだに強くあって、何かオリジナルアニメを考えましょうとなったときに、会議で必ず「ラピュタ」というキーワードが出てくる(笑)。それくらい当たり前のものとして、自分の中に存在しているんじゃないかなと思っています。

――それくらい強く刷り込まれている。
いしづか 今回制作した映画『グッバイ、ドン・グリーズ!』の企画会議でも最初の頃、「現代の『ラピュタ』って何だろうね?」って話をしていました。それこそ『宇宙よりも遠い場所』のときもそうでしたし。

――ええっ、そうなんですか! 『宇宙よりも遠い場所』と『ラピュタ』だと、まったくかぶるところがない気がしますが……(笑)。
いしづか これは物語を考えるクリエイターならきっと共感してくれると思うんですけど、外へ外へと広がっていく物語が、最終的にどこを目指すのか。部活ものだったら全国大会かもしれないですけど、そういう胸躍る目的地、あるいは手に入れたいと思う何かですよね。そういう物語上の到達点のことを「ラピュタ」って呼んでいます。『宇宙よりも遠い場所』で言えば、南極が「ラピュタ」(笑)。そういう意味でも、『ナウシカ』や『ラピュタ』は、目指すべきお手本であり続けていると思いますね。endmark

KATARIBE Profile

いしづかあつこ

いしづかあつこ

監督

愛知県出身。大学在学中よりアニメーション作家として活動し、その後、マッドハウスに入社。『ノーゲーム・ノーライフ』や『宇宙よりも遠い場所』など、話題作を手がける。監督・脚本を務める映画『グッバイ、ドン・グリーズ!』が2022年2月18日(金)に公開。


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