TOPICS 2022.02.10 │ 12:00

「中国アニメ」のイメージを塗り替える!
『時光代理人 -LINK CLICK-』黒﨑静佳プロデューサーインタビュー②

中国の動画配信プラットフォームbilibiliが送り出し、世界的にも高い評価を得ているオリジナルアニメ『時光代理人 -LINK CLICK-』。ローカライズを担当する黒﨑静佳プロデューサーインタビューの後半では、日本版キャスティングの経緯やキャラクターたちの関係性など、よりコアな話題を掘り下げていく。

取材・文/犬地リコ

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

作品の魅力を引き出すキャスティング

――日本版ではトキ/程小時(チョン・チャオシー)(以下、トキ)役を豊永利行さん、ヒカル/陸光(ルー・グアン)(以下、ヒカル)役を櫻井孝宏さんが演じています。吹き替えのキャスティングはどのように決まったのでしょうか?
黒﨑 キャスティングについては、こちらからbilibiliさんに提案させていただきました。現代劇であり、トキもヒカルも一見して普通の20代の男の子なので、まずはナチュラルなお芝居が得意な方を候補に選びました。トキは明るく溌剌としたいわゆる「陽キャ」で正義感の強い性格なんだけど、幼少期のトラウマや打たれ弱さも抱えている。その二面性を演じられる声優さんということで豊永さんにお願いしました。一方のヒカルも、トキとは違う方向で二面性があるキャラなので、そこにマッチする演技ができる櫻井さんをキャスティングさせていただきました。ヒカルは冷静なクールキャラだけど、結構天邪鬼だったり、トキの弱さを慰めてあげたりするような包容力もあって、トキとは表裏一体、お互いが相反するところを持つように作られているんですよね。

――アフレコの現場で印象的だった出来事はありますか?
黒﨑 日本のアニメでは通常リアクションの音をつけるような場面で音が入っていないとか、そういう場面については音響監督さんと相談して、追加の音を収録しています。吹き替えって、原則は元の音が入っているところに置き換えるように音を入れるものなのですが、今回は、キャストさんご自身の解釈で必要に応じて息遣いやリアクョンなどを足していただいています。これは中国アニメあるあるなのかもしれませんが、口パク(口の動き)もさることながら中国語のセリフってすごく早口なので、口が動いているのに音が入っていない部分も多いんです。吹き替えにあたってはキャストさんが口パクに合わせて演じてくださったり、ちょっとしたリアクションを入れてくださったりしたことで、より自然な映像に仕上がっていると思います。

現代に生きる若者の言葉を翻訳する難しさ

――たしかに中国版はセリフがすごく早口で驚きました。セリフの中には意味もたくさん詰まっていそうですが、翻訳やローカライズにあたって大変だったポイントはありますか?
黒﨑 大前提として、いちばん苦労されているのは翻訳者の方と音響監督さんではあるのですが、これまで自分が携わらせていただいた作品の中でもかなり翻訳が難しい作品だったように感じます。

――難しい用語がない分、アフレコはスムーズだったとお話されていましたが……。
黒﨑 ファンタジー作品で神様や仙人のキャラクターがちょっと硬い言い回しをしてみたり、敬語口調になっても違和感はないと思うんです。でも、今回は現代劇なので、20代の普通の男の子がしゃべる言葉にしないといけないんですよ。それがすごく難しくて。スラングとか、今の中国の若者が使っている言葉がバンバン出てきますし、それを日本語でどう違和感なく代用するかが難しいポイントになってきます。たとえば、スラングで「工具人」という言葉が出てきた場面があったんですけど、日本語には置き換えられるちょうどいい言葉がなくて、皆で頭を捻りました。

――どういう意味なのでしょうか?
黒﨑 日本語でいうと「パシリ」が近いかもしれません。でも、もうちょっと専門職ぽくて、バブル時代の「アッシー」「メッシー」みたいな感じでしょうか。しかも男性側はそうやって使われることがうれしいというニュアンスまであったりするらしく、日本語で端的に置き換えるのがすごく難しくて。こういった特定の言葉だけじゃなく、翻訳者さんからは「女の子だったらこういう言い回しのほうがナチュラルかもしれない」とかいろいろと提案していただくことも多くて、勉強になりますし、本当にありがたいです。

ヒカルの存在が不安になっていく

――キャスティングのお話でもキャラクターのことを少しうかがいましたが、トキとヒカルについて黒﨑さんはどんな印象を抱いていますか?
黒﨑 ヒカルはすごく謎が多いんですよ。中国ではすでに2期の制作が発表されているのですが、1期で内面が深堀りされたり過去が描かれたりするのはトキのほうなんですよね。1期の物語を追っていくなかで、だんだんヒカルの存在が不安になってくるというか。

――第5話まで放送されても、ヒカルの過去はトキの回想シーン以外では描かれていませんね。
黒﨑 それもこの作品の特徴で「そのとき描かなくていいものは描かない」という方針なんだろうと解釈しています。今ここにある事件とドラマを動かすために必要な要素は出すけど、それ以外はご想像におまかせします、みたいな。でも、描かれていないこと自体にフラストレーションは感じないんですよね。むしろ描かれていないことでいろいろと想像を巡らせられるし、物語にも集中できる。そういう意味でも、ヒカルの描かれ方は魅力的だなと思います。

――第3話~第5話はヒカルが写真の中の出来事の帰結を隠していたこともあり、すごく思わせぶりだったというか、それこそ櫻井さんのCVがますます不安を煽るというか。
黒﨑 視聴者も先の展開を知らないから「こいつは何を知っているんだ?」って思いますよね。CVに関しては先ほどお話したとおりの理由なので、我々も別に裏切る系のキャラクターだと思ってキャスティングしているわけではないんです……(笑)。

作品情報

『時光代理人 -LINK CLICK-』
好評放送・配信中

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