従来とは異なるガンダムの位置づけ
アスノ家による三世代100年の戦いを描く『AGE』の顔となるのは、「ガンダムAGE」と呼ばれるモビルスーツである。アスノ家に代々伝わる「AGEデバイス」内に残されていた設計図を基に、フリット・アスノがまずガンダムAGE-1を開発。その特徴は搭載された自己進化システム「AGEシステム」で、対戦機体のデータを収集・分析し、新たな兵器やオプションパーツを迅速に生み出すことが可能となっていた。A.G. (アドバンスド・ジェネレーション)115年にガンダムAGE-1は戦場に投入されたが、その当時、敵勢力であるUE(=のちのヴェイガン)に対抗できる唯一の手段となる。というのも、地球圏最大の軍事組織である地球連邦軍は、長年続いた国家間紛争の反省から、A.G.元年に軍縮条約「銀の杯(ぎんのはい)条約」を締結。これにより以前のMSを放棄しただけでなく、新規開発も長年停止していた。そのため、UEの襲来であらためて軍備を再開したものの、性能に劣るMSしか開発できなかったのである。つまり、『AGE』の世界において、ガンダムAGEシリーズは連邦軍のMSとは別ラインの機体であり、唯一無二の機体であった。そしてこの「AGEシステム」によって、各世代で新たなガンダムが生み出されていく。フリットの息子アセム・アスノはガンダムAGE-2を、孫のキオ・アスノはガンダムAGE-3に加え、最終決戦時にはガンダムAGE-FXを運用した。
子供にも視聴者層を広げる作品作り
本作でガンダムAGEシリーズや連邦軍製MSのデザインを手がけた海老川兼武(えびかわかねたけ)氏は「ガンダムというMSが、RX-78-2 ガンダムからZガンダム、ZZガンダム、νガンダムと進化していくコンセプトをデザインに取り入れてほしいとのオーダーがありました」と、デザイン上の基本コンセプトを語る。世代ごとに新しいガンダムを登場させるプランを提案したのは、ストーリー原案の日野晃博(ひのあきひろ)氏である。物語全体としては、これまでのガンダムシリーズとは異なる方向性を模索していただけに「ガンダムとわかる記号の部分は、よりガンダムにしようという狙いがありました」と日野氏は述懐する。『機動戦士ガンダム』から『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』までの宇宙世紀の主役ガンダムをベースとしたデザインにしたのは、物語の斬新さや大胆な変化を求めつつも、『AGE』が“ガンダムシリーズ”であることがひと目でわかるデザインを求めていたと言えるだろう。
一方で、視聴者層を子供にも広げる、という“挑戦”は、プロップなどのデザインにも影響を与えている。デスペラードなどの民間機器やコロニー関係のデザインを担当した寺岡賢司(てらおかけんじ)氏は「『AGE』ではなるべく線を減らして、子供にも理解しやすいシルエットを目指していました」と語ってくれた。ガンダムの胸部に「A」のマークが入っているのも、子供に主役ロボであることをわかりやすく理解させるためなのである。
竜や恐竜をモチーフにした異色の敵MS
『AGE』で主人公の対抗組織として描かれているのは、火星に移り住んだ地球人類の末裔=ヴェイガンである。物語の序盤は正体不明の敵(アンノウン・エネミー=UE)として描かれ、パイロットたちも画面に登場しない。ヴェイガンの機体は、MSかどうかも定かではない、怪物的な存在として描かれている。「宇宙人と戦うガンダム作品、と見せかけてじつは地球人の末裔だった、という種明かしをしていく」と日野氏が語るように、『AGE』では“敵を宇宙人に見せかける”という仕掛けがあり、それをメカデザイナーの石垣純哉(いしがきじゅんや)氏がデザインに落とし込んでいった。「最初は『宇宙人』」としか言われておらず、その後、山口晋(やまぐちすすむ)監督から『ドラゴンのイメージで』と伝えられた」――石垣氏はそのイメージをもとにガフランやゼダス、ダナジンなど、これまでのガンダム作品にはあまり見られないフォルムのMSを誕生させていった。このヴェイガンのデザインについては「『ゼノギアス』や『マクロスF』『バトルスピリッツ』などでやっていた、有機的なデザインラインを踏襲しています」と振り返るように、従来のガンダム作品よりも、氏が携わった別のメカ作品で構築したラインやイメージを投入したと明かしている。これによりメカニカルな人型機であるガンダム(&連邦軍製MS)と、生物的なフォルムのヴェイガン製MSという対比が明確化された。
これまでのガンダムシリーズは「人間(地球民)と人間(宇宙移民)のドラマ」を描いており、『AGE』も根本ではそれを踏襲しているが、ビジュアルを極端に差別化することで「正体不明の存在と戦うガンダム作品」という印象を与える映像作りとなっている。それは『ガンダム』に触れたことのない子供たちが見ても、敵・味方を判別しやすいものにする、という意図もあっただろう。監督の山口氏は「本当に宇宙人との接触、という物語でもよかったかもしれないですね。それだと『伝説巨神イデオン』になってしまいますが(笑)」と、視聴者層を子供に広げるうえで、どこまで既存の『ガンダム』像から逸脱するかは悩んだところであったと語っている。
頭身を下げたキャラ造形へのこだわり
『AGE』が従来のガンダムシリーズと大きく異なる部分のひとつに、キャラクターデザインが挙げられる。レベルファイブに所属するキャラクターデザイナー・長野拓造(ながのたくぞう)氏が手がけたキャラクター原案は、リアル頭身ではなく、デフォルメされたものとなっていた。制作陣の中からはリアル頭身に変更する案も出たというが、山口監督はもともとのデザインにこだわったという。それは世界観の根幹に関わるからという理由以外にも「劇場版のような、繊細でデコラティブな作画のクオリティを目指す方向よりは、もっと動きに集中できる、キャラクターがドタバタしたり、走ったり飛んだりといった方向性でやりたいと考えていました」と回想している。丸っこい、親しみやすいルックを採用することで『ガンダム』を知らない子供たちを『AGE』 を呼び込む狙いがあり、事実、それは『AGE』のコンセプトや世界観をひと目で表すものとして機能することになった。
長野氏のキャラクター原案をもとにアニメーション用のデザインを描き起こした千葉道徳(ちばみちのり)氏は、『機動戦士ガンダム00』のキャラクターデザインも手がけている。『00』とはテイストの異なる『AGE』のデザインについて、千葉氏は「シリアスにもポップな方向にも寄せられる幅が『AGE』のキャラクターにはありました。シチュエーションはあまり多くありませんでしたが、コミカルな表現などもこの作品だからできる部分はあったように思います」とその魅力を語っている。また「ディテールを抑えながら描くことがひとつのコンセプトでしたが、それは画力が問われるんです。手描きアニメの優位性は“省略”なので、そこはみんなで経験を積むことができた貴重な機会だったと思いますね」と、『AGE』の丸みのあるキャラクターを一年にわたって動かしたことが、アニメーターの技術力や経験値の向上につながったのではと振り返る。
シリアスかつ壮大な物語が描かれる『AGE』だが、MS(モビルスーツ)とキャラクターは、従来のガンダムシリーズにとらわれない、新しい“挑戦”というコンセプトにそってデザインされていったことがわかるだろう。次回は、アスノ家という家族を中心に描かれた“三世代100年の物語”について検証していく。
『機動戦士ガンダムAGE』Blu-ray Box(特装限定版)
<発売日>
2022年2月25日
<品番>
BCXA-1702
<価格>
44,000円(税込)
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