TOPICS 2022.02.25 │ 12:00

オンエアから10年――
『機動戦士ガンダムAGE』の“挑戦”を振り返る③

TV放送から10周年を記念し、Blu-ray Boxが発売される『機動戦士ガンダムAGE』(以下、AGE)。さまざまな“挑戦”に満ちた『AGE』のプロジェクトを、当事者の言葉を借りながら検証する特集連載の最終回は、アスノ家三世代100年の大河ドラマとして描かれた物語にスポットを当て、その後のガンダムシリーズにどのような影響を与えたのかを探る。

取材・文/森 樹

※当事者の言葉は『機動戦士ガンダムAGE』Blu-ray BOXに収録されたインタビューより引用

フリットを起点に100年の家族喧嘩を描く

「物語としても、戦争ものというよりは、親と子のドラマをベースにしたいと考えていました。徳川家康と、その子供たちの三世代のドラマのような。偉大な父親がいて、それを継承する子供たちにはそれぞれの悩みがあって、歴史を巻き込んだ家族喧嘩をする」――ストーリー原案の日野晃博(ひのあきひろ)氏は “三世代100年の物語”として構成された『AGE』の大河ドラマ的なストーリーを、このように語っている。戦いの大枠としては、地球連邦軍VS(火星圏に移住した人類の末裔である)ヴェイガンではあるものの、カメラはつぶさにアスノ家の動向を追いかける。ヴェイガンの襲来で絶命した母マリナへの復讐心から戦いを選び、ガンダムを開発したフリット・アスノを起点として、子のアセム・アスノ、孫のキオ・アスノがどのような思いで戦いに臨んでいるかを丁寧に描いているのだ。

全49話の『AGE』はフリット編、アセム編、キオ編に、三世代がそろって戦場に向かう最終決戦「三世代編」を加えた4部構成になっている。第1話から登場するフリットは、ガンダムAGE-1を開発して戦いに参加するフリット編(14歳)、地球連邦軍の高官として最前線で活躍するアセム編(39歳~41歳)、さらにキオの後見人としてヴェイガン殲滅に燃えるキオ編・三世代編(63歳)まで、その一生が断片的に綴られ、彼の心境や考え方の変化が語られる。フリットの初恋の人ユリン・ルシェルが、ヴェイガンの策略で命を散らせた出来事(フリット編)は、彼の人生に大きな影を落とすことになった。以降の彼は、ヴェイガン殲滅に囚われ、暴走していく。ガンダムAGE-1を開発した英雄ながら、聖人君子としては描かれず、彼の暴走が子や孫の行動に影響を与え、戦局にも大きな影響を及ぼしていくのだ。

親子で楽しめる作品で、人の生死を扱う難しさ

フリットは天才的な技術者であり、パイロットとしても「Xラウンダー」と呼ばれるスペシャルな能力を持っていた。だが、その息子であるアセムは、フリットのような「Xラウンダー」としての適性は低く、偉大な父との実力差に悩む姿が描かれる。一方で、敵のスパイであったゼハート・ガレットと交流を深めるなど、対ヴェイガンに執念を燃やす父フリットに比べ、アセムはヴェイガンを同じ人間として認識し、共感を示すようになる。

孫のキオは、祖父フリットに幼い頃から英才教育を施され、当初は対ヴェイガン戦の切り札とされていた。だが、一時的にヴェイガンに拘束され、彼らの本拠地に連行されたことでその壮絶な暮らしぶりを知り、これ以上の戦闘拡大を望まない立場を取るようになる。日野氏が「歴史を巻き込んだ家族喧嘩」と称したように、物語の終盤になると、フリット、アセム、キオの3人がヴェイガンとの戦闘方針を巡り対立していく。地球連邦軍とヴェイガンの対立を縦軸に、アスノ家の対立を横軸に描いていく構図は当初のコンセプト通りと言えるが、それをひとつにまとめるのは難しかったと山口晋(やまぐちすすむ)監督は述懐する。ガンダムシリーズであるから、戦争は描くのは大前提である。一方で、親子で楽しめる娯楽作品としても成立させたい。「『AGE』はファミリー、親子の情を中心に描いた作品ですので、娯楽作品の要素が非常に強いです。ただ、その中で人の生死を扱うことの難しさは実感しましたね」――と、その両立をどのように見せるのかは悩みながらの作業だったようだ。

膨大な設定と、新しい『ガンダム』像の模索

『AGE』ではフリット、アセム、キオの三世代の歴史が描かれ、それぞれの時代でMS(モビルスーツ)とキャラクターが描き起こされている。つまり、4クールで3作品分の設定を作る作業となった。メカデザイナーの石垣純哉(いしがきじゅんや)氏も「(フリット編の)途中からアセム編やキオ編のデザインにも入ることになり、何体も同時進行していました」と語るように、まず膨大なメカ、キャラの設定を作り上げるだけでも、十分にチャレンジな作品だったと言える(しかも、連続4クールという厳しい制作スケジュールの中で)。

また、山口監督は「ガンダムシリーズの中で新しいことをやろうとすると、別の子供向け作品では普通にやっていることだったりするんです。新しいガンダムを目指せば目指すほど、どこにでもある、ありふれた設定になってしまう」と語り、日野氏も「『AGE』では(ガンダムシリーズの)ファンが求めたものと、あえて変化させようとした部分のバランスをとるのが難しいところでした」と振り返る。新たな『ガンダム』像を確立するのが、いかに難しい作業であるかを感じさせてくれる。

次の『ガンダム』に橋渡しをした『AGE』の“挑戦”

『AGE』はスタッフィングや物語の構成、メカやキャラのデザインを含めて、従来のガンダムシリーズには見られない特徴をもった異色作であり、意欲作であった。その結果、『AGE』をきっかけにして、その後の『ガンダム』作品の幅が広がることになった。『AGE』に演出として参加し、アセム視点から『AGE』を再構築したOVA『機動戦士ガンダムAGE MEMORY OF EDEN』で監督を務めた綿田慎也(わただしんや)氏は、その後、『ガンダムビルド』シリーズの『トライ』『ダイバーズ』『Re:RISE』の3本で監督を務めた。「『AGE』を経たことでできた仕事だと思っています。(中略)シリアスなドラマの見せ方は、そのまま『MEMORY OF EDEN』や『Re:RISE』に反映されましたし、序盤は抑えめで、後半どんどん派手になる『AGE』のメカ演出は『トライ』に生かされました。キオ編の一本目にあたる第29話は、対象年齢を広げて見やすさを意識したのですが、それは『ダイバーズ』全体のテイストへ落とし込んでいます」と、『AGE』での経験やそこで得た技術が後続作品に継承されていると語る。キャラクターデザインの千葉道徳(ちばみちのり)氏も「『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』で伊藤悠(いとうゆう)さんのキャラクター原案にわりとスムーズに対応できたのは、『AGE』の経験があったから」と、その価値の大きさを説明する。

これまで見てきたように『AGE』の“挑戦”は、ガンダムシリーズのアニメにとっても、ゲームにとっても、そしてガンプラにとっても重要なものであった。そして、制作に参加したスタッフにとっても、次世代の『ガンダム』を生み出すうえで欠かせない実践の場となったのである。日野氏は昨年アニメ化されたSFロボット作品『メガトン級ムサシ』(2021-)に総監督・シリーズ構成として参加しているのをはじめ、監督の山口氏は、2022年3月公開予定の映画『ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』の監督を手がけている(メカデザインには石垣氏も参加)。千葉氏やメカニックデザイナーの海老川兼武(えびかわかねたけ)氏は、以降もガンダムシリーズに複数参加。それぞれが、それぞれの形で『AGE』での経験値を投入している。その点を踏まえて『AGE』を振り返ると新たな発見があるはずだ。endmark

作品情報

<発売日>
2022年2月25日

<品番>
BCXA-1702

<価格>
44,000円(税込)

・TVシリーズ全49話に加えて、OVA『機動戦士ガンダムAGE MEMORY OF EDEN』まで完全収録!
・特典には、過去のBD豪華版特典のドラマCDを纏めたアーカイブドラマCDや特製ブックレットが付属!
・「機動戦士ガンダムAGE ユニバースアクセル/コズミックドライブ」オープニングムービーも初収録!
・メカニックデザイン海老川兼武による描き下ろし収納BOX!
・メカニックデザイン石垣純哉、キャラクターデザイン千葉道徳による描き下ろしインナージャケット!

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