第1話の絵コンテを見たときにすごく感動した
――最初にアニメ化の話を聞いたのはいつ頃のことでしたか?
つくし 一昨年の年末だったと思うのですが、担当編集から話を聞いて、まず「5分アニメかな……」と思いました(笑)。そのときは放送枠がどうなるのかとか、まったくわからなかったんです。で、いよいよ制作が始まるタイミングで編集さんから言われたのは、アニメの放送が終わるまでに単行本を第6巻まで出したい、と。そのとき第4巻の作業をしていたので、ということは、あと2冊描かなきゃならない。とても今のペースでは描き上げられないので、そこで初めてアシスタントを入れる決心をしました(笑)。
――喜びよりも、現実的な問題とプレッシャーが先にきたという(笑)。
つくし アニメ化に対するワクワク感は、それですべて吹っ飛びました(笑)。最初の印象はそんな感じだったんですけど、アニメ化の話が進むなかで心から「すごい!」と思ったのは、じつは小島(正幸)監督から第1話の絵コンテを送っていただいたときなんです。それを見たときにすごく感動して……。以前、ゲーム会社に勤めていたときに自分がキャラクター原案を担当した企画がアニメ化されたことがあったので、共同作業についてはわかっているつもりではいました。でも、その第1話のコンテを見たら、まずもって倉田(英之)さんの抜群の構成力があり、そして自分よりずっとうまい人たちがこのレベルのものに仕上げてくれた。そのことにすごく感動したんです。
――アニメ化の成果を、そこで初めて実感したわけですね。
つくし 正直に言えば、僕は『アビス』(原作)の第1話が気に入っていないんです。読みづらいし、始まり方もあまりとっかかりがない感じがして。だから、以前から描き直したいと思っていたし、最初の打ち合わせでも「できれば冒頭は短く、ブラッシュアップしてほしい」とお伝えしていたんです。その結果、すごくハイレベルなものが上がってきて、これはとんでもないものになったぞ、これをちゃんと映像化したらすごいことになるぞ、と思いました。
――なるほど。少し時間を巻き戻したいんですが、スタッフとの最初の打ち合わせでは、どんなことが話題に上ったのでしょうか?
つくし 最初の打ち合わせは竹書房で行ったのですが、僕と担当編集が待っていたら、アニメスタッフの方たちが10人くらいいらっしゃいました。皆さんラフな格好をしていたんですけど、中でもいちばんヨレヨレの格好をしていたのが小島監督で(笑)。まるで仙人のような感じだったのが印象に残っています。
――あはは。
つくし ただ、監督をはじめ、アニメスタッフの方たちは皆さん好奇心の塊みたいな方たちばかりで。僕は“地に足の着いたファンタジー”を作りたいと思って『アビス』を描いてきて――言い換えると、それは“剣も魔法もないファンタジー”なんです。だから、たとえば、機械ひとつにしても、これは一体どんなエネルギーで動いていて、どういう経路で動力がきているのか? そういうことを考えながら描いているんです。
――しっかりした設定というか、世界観の上に『アビス』のリアリティは存在しているわけですね。
つくし うれしかったのは、打ち合わせでそういう細かなことを突っ込んで聞いてもらえたこと。「オースの街の電源はどうなっているんですか?」とか「家庭で使う燃料は薪でまかなっているんですか?」とか、とにかく根堀り葉堀り聞いていただけて。
――他にはない世界観が作品の魅力のひとつだと思うのですが、連載を始めたときには、どれくらいまで設定を詰めていたのでしょうか?
つくし 物語の本筋に関わるような設定は、あらかじめ考えていました。とはいえ、そこまで細かく詰めていたわけではないんです。必要に応じて、その場で考えることもありますし、ワクワクする言い訳を考えるのが好きだ、というのもあります(笑)。
『アビス』は、全20話で完結する予定でした(笑)
――そもそも『アビス』はWebコミックとして始まったわけですが、どういう経緯で連載がスタートしたのでしょうか?
つくし もともとは僕が同人誌として描いていた作品を担当編集さんが読んで、連絡をもらったのが商業デビューのきっかけです。「Web雑誌を新しく立ち上げるので、そこで連載してほしい」という話で。向こうとしては「1〜2回やらせてみて、ダメだったら切ろう」くらいの感じだったと思いますし(笑)、じゃあ、こっちも実験として付き合おう、と。
――そんなノリだったんですね。
つくし そのときに企画をふたつ考えて、ひとつはいろいろな力で動くロボットに女の子たちが乗り込む群像劇。もうひとつが「穴に潜る話」だったんです。で、そのふたつを編集者に提示したら「穴がいいんじゃないですか」と。
――そこで選ばれた作品が、『アビス』だった。
つくし 連載をやるには企画書が必要だったので、あらすじやキャラクター表などの資料を用意して。その時点では、全20話で完結する予定でした(笑)。今も一応、そのときのプランに沿って、進んではいるんですけど。
――その「穴」のアイデアはどこからきたんですか?
つくし ゲーム会社に勤めるぐらいにはゲームが好きで、その中でもダンジョンに潜るゲームはとくに好物なのです。そもそも最初に遊んだのが『ウィザードリィ』だったりするので。
――アビスが7つの階層に分かれているというのは、たしかにゲームっぽい設定ですよね。
つくし 最初に階層に分かれていることを提示したのは、そのほうが面白いだろう、と思ったからです。全体の地図が見えていて、次が第何階層で、どんなものが待ち構えているか。少し見えていたほうがワクワクするじゃないですか。『魔界村』とか『魔神英雄伝ワタル』がそうですけど、最終局面まであとどれくらい残っているか、わかっていたほうが面白い。そういう考えがまずあって、あとから階層が変わると、環境も急激に変わるという設定を付け加えています。あと、作中の世界で技術が進歩するのに合わせて、設定がより細かくなっているんです。原作の第1話に登場する古い地図では、第1層が1000メートルくらいと書かれているんですが、後半のほうに出てくる地図では1350メートルになっている。技術が進化するにしたがって、情報も新しくなって、上書きされているんです。