Febri TALK 2022.06.20 │ 12:00

會川昇 脚本家

①ロボットアニメという
「骨」ができた『マジンガーZ』

キャリアの初期に『冥王計画ゼオライマー』『THE 八犬伝』といった伝説的なOVAの脚本を手がけ、その後もアニメ・特撮を中心に「濃い」作品を送り出してきた脚本家・會川昇。そのルーツにあるアニメをたどる全3回のインタビュー連載、初回はロボットアニメの偉大な源流について。

取材・文/前田 久

『マジンガーZ』から始まったものが、その後の人生や仕事につながっている

――1作目のセレクトは『マジンガーZ』です。これはどういった理由で選んだのでしょう?
會川 今回の3作品はどれも、「自分の作品になんらかの形でつながっているもの」というコンセプトで選びました。TVシリーズの『マジンガーZ』に関していえば、自分の中にここから始まった、ひとつの「骨」みたいなものがある気がしているんですよ。

――「骨」ですか。
會川 よく言われるように、1965年前後に生まれた僕たちは「『ウルトラセブン』に間に合わなかった世代」なんです。子供の頃のテレビといえば、スポ根ものと万博ブーム。怪獣ものはたまに再放送されるだけ。そこから1970年の『ウルトラファイト』と、それにともなう『ウルトラセブン』の再放送で、怪獣ものに気持ちが一気に引き戻されて、記事が載っている学年誌を読んだり、怪獣のソフビや図鑑を買ってもらったりしていた。でも、『ウルトラマンA』の中盤以降、市川森一さんがメインライターから外れたあたり(第14話以降、参加したのは第48話と最終話の第52話のみ)から 、あまりノれなくなったんですよ。世間では盛り上がっていたけど、僕の中の怪獣ブームは短かった(笑)。それでも『シルバー仮面』や『ミラーマン』にはわりとハマっていたし、『快傑ライオン丸』は好きだったけれど、『マジンガーZ』が始まったときに、すべての興味がそっちに持っていかれたんです。

――なぜですか?
會川 当時はいろいろな怪獣ものが作られていたけど、作り手からしたら2度目の怪獣ブームなので、ちょっと悩んでいる部分があったんですよ。何か新しいことをやろうとしたり、予算の制約もあったりで、子供の目線からすると正面から自分たちの期待に応えてくれない感じがしていた。そういう目で見ると、アニメであっても『マジンガーZ』のほうが、迷いのない怪獣ものに見えたんです。で、そんな僕を見ていた3つ上の兄が『マジンガーZ』のマンガが連載されていた『週刊少年ジャンプ』を買って来てくれたんです。それ以降、小学4~5年生までは『ジャンプ』を毎号買っていました。それで『マジンガーZ』を契機に、自分の人生のサブカル第1期というか、オタクの予備段階が始まったんです。『ど根性ガエル』『トイレット博士』『東大一直線』を読み、『サーキットの狼』で人気になる前の池沢さとし(現:池沢早人師)の作品に触れ、そして、なんといっても『アストロ球団』。『アストロ球団』は当時、セリフを全部暗唱できるくらいどハマりました。だから『疾風!アイアンリーガー』の脚本を書くときも、読み返すこともなくあのノリで書けたんですよ(笑)。さらに諸星大二郎と星野之宣(ほしのゆきのぶ)。おふたりの手塚賞を取った読み切りも、『暗黒神話』や『ブルーシティー』の連載もすべてリアルタイムで浴びている。つまり、僕に伝奇やSFに至る取っ掛かりを作ってくれたのも、『マジンガーZ』だったんです。

――ジャンルも多彩で、内容もメジャーからマニアックなものまで。そこで一気に触れる作品の幅が広がったわけですね。
會川 さらに言うと、友達の家で『変身忍者 嵐』の石川賢版のコミカライズを読んで「石森章太郎の原作なのに、永井豪みたいな絵だな」と不思議に感じて、そこから石川賢が気になって『週刊少年サンデー』を読むようになり、『ゲッターロボ』も読むようになった。そしてもう少し大人になってから、石川賢版の『魔界転生』をきっかけに、それまで山田風太郎の作品といえば「明治もの」しか興味が持てなかったんだけど、忍法帖だとか、他のジャンルの作品も読むようになり、それがもっと広く「時代もの」に関心を持つきっかけにもなったんです。つまり、自分の中では『マジンガーZ』から始まったものが、その後の人生や仕事に、ずっとつながっている感覚なんですよね。

『マジンガーZ』から始まって

のちの作品に引き継がれた

フォーマットがたくさんある

――まさに「骨」……背骨のように生き方を支えてきたものなんですね。話を戻して、『マジンガーZ』の「アニメ」としての魅力を、もう少し語っていただいてもいいですか?
會川 アニメとしてここがすごい、あれが素晴らしいという部分は、もちろんあります。とくに渡辺宙明(わたなべちゅうめい)さんの音楽は、今聞いてもすごい。ジェットスクランダーをはじめ、新アイテムの投入に絡めたお話の引っ張り方も、当時の子供にとっては楽しいものでした。ここから始まって、のちの作品に引き継がれたものが、本当にたくさんあるんです。多すぎるくらい。そのフォーマットが衰退してから出てきたロボットアニメ……たとえば『装甲騎兵ボトムズ』のような「リアルロボットアニメ」や、『超時空要塞マクロス』のような方向性のロボットアニメが人気を得るようになっても、本編の7割から8割がアクションシーンで構成され、「何か強くて変なものが延々と戦っている」みたいな、『マジンガーZ』からのフォーマットはなくならないと僕は思っていた。だから僕のデビューに近い時期、平野俊貴(当時は平野俊弘名義)さんと最初に立ち上げたOVAの企画が『大魔神我』(『マジンガーZ』のリメイク企画)だったりするわけです。

――それが『破邪大星ダンガイオー』『冥王計画ゼオライマー』といった、平野監督と會川さんがOVAで展開してきた一連のロボットアニメにつながっていく。
會川 他にもその後、石川賢さんの作品をアニメ化させてもらったり、いろいろとありました。怪獣ものから『マジンガーZ』を経て作り上げられたロボットアニメのフォーマットをどう受け継ぐかというのは、ずっと自分の仕事で意識してきた視点かもしれません。ただ、今の子供たちや若い作り手にとっては、『マジンガーZ』から始まったロボットアニメならではのフォーマットはもはや特別なものじゃない。『ボトムズ』や『マクロス』で育った人も、もう大勢いますからね。だから自分が面白いと感じるロボットアニメの面白さを、いまさら若い人たちに押しつけてもいけないな……と最近は反省しているので、今日もこのくらいにしておきます(苦笑)。endmark

KATARIBE Profile

會川昇

會川昇

脚本家

あいかわしょう 1965年生まれ、東京都出身。脚本家。主なアニメ作品に『機巧奇傳ヒヲウ戦記』『鋼の錬金術師』『天保異聞 妖奇士』『大江戸ロケット』『コンクリート・レボルティオ〜超人幻想〜』、特撮作品に『ウルトラマングレート』『轟轟戦隊ボウケンジャー』など。