Febri TALK 2022.04.25 │ 12:00

雨宮哲 演出家/アニメーター

①初めてロックを浴びたような衝撃
『新世紀エヴァンゲリオン』

『SSSS.GRIDMAN』を筆頭に、ユニークな作品を次々と送り出しているアニメーター/演出家の雨宮 哲。彼にとって忘れられないアニメ作品を聞くインタビュー連載の第1回は、彼の人生に決定的な影響を与えたという名作ロボットアニメについて。

取材・文/宮 昌太朗 プロフィール写真撮影/立川政吉

何もわからなかったけど、とにかく面白い。それって、すごいことだと思う

――本題に入る前に、雨宮さんのアニメ原体験を聞いておきたいのですが、小学校の頃はアニメをたくさん見ていたのでしょうか?
雨宮 いや、普通だったと思います。世代的にはたぶん『ドラゴンボールZ』とかだと思うんですけど、外で遊ぶのもあまり好きじゃなかったし、マンガも読まなかったし。とくに何かにどっぷりハマるっていうことがなかったんですよね。

――当時見ていて、夢中になったものというと……。
雨宮 えーっ、なんだろう……。『SDガンダム』とかになるのかな? それくらいボケッとしている子供でした。「何か面白いものないの?」って聞かれても「別に……」みたいな。部活もやっていなかったし、絵もそれほどたくさん描いていたわけでもないし。図工の授業は好きでしたけど、熱心に「コレをやっていた」みたいなのはなかったです。それこそ「自我がなかったんじゃないか?」っていう(笑)。

――アニメや特撮のことを話す友達が近くにいたりは…?
雨宮 保育園のときから仲の良かった幼なじみがいて、基本はその人とふたりで遊んでいたんです。ウチはテレビゲーム禁止だったので、幼なじみの家に行って、その人がプレイしているのを横でずっと見ているっていう。しかも、その幼なじみの趣味が真ん中からズレていて、小学生なのに吉田戦車とか嘉門タツオを教えてくれたんです。その影響はけっこう大きくて、『新世紀エヴァンゲリオン(以下、エヴァ)』を教えてくれたのも、その幼なじみだったんですよ。

――見たのは中学に入ってから?
雨宮 中学1年のときですね。「面白いよ」って言われてから見始めたので、第壱話はリアルタイムでは見ていないんです。初めて見たのが第六話(「決戦、第3新東京市」)。見て、いきなりつかまれましたね。TVシリーズの『エヴァ』って、大人っぽい部分があったと思うんですよ。中学1年生で「背伸びをしたいな」と思っていた頃だったので、そういう大人っぽいところに惹かれたのかなという気もします。

――なるほど。
雨宮 そこからは毎週、1話も欠かさず見ていたのですが、それよりも見逃した第伍話までを見るのが当時、ちょっと大変でしたね。ビデオが発売になったあと、第1巻と第2巻を持っている同級生がいて――全然仲良くないんですけど、家まで遊びに行って見たりとか(笑)。あと、ビデオ録画していなかった第拾八話をもう一度どうしても見たくて、録画をしていた美術部の女子の家に無理やり行って見せてもらったり……。中学1年生で女子の家に行くってけっこうなことだと思うんですけど(笑)、でもそれくらい『エヴァ』中心で動いていたんですよね。あらためて思い出しても、「ひどかったなあ」と思います。

とにかくエヴァと使徒

あとストーリーの謎みたいな

ものに心を惹かれていた

――シリーズが後半に進むにつれて、どんどん難解になっていくわけですけど、それにもついていった感じですか?
雨宮 いやもう、後半の上がりっぷりはヤバいですよ。インフレにつぐインフレで(笑)。ファンの間では――それこそラストの2話だったり、いろいろあったと思うんですよ。でも、当時はまだキッズだったので「ヤバイ、ヤバい」って、どんどん「ヤバさ」の摂取量が増えていく。

――(笑)。今、話題に出ましたけど、ラスト2話はどういう印象だったんですか?
雨宮 第弐拾四話(「最後のシ者」)で天井というかピークが来て、「使徒を全部倒しちゃった、どうしよう」と思うわけです。その状態で、次の第弐拾五話の「終わる世界」が来て……。でも、そのラストで「いや。でも、もう一話ある!」っていう(笑)。で、次の最終話(「世界の中心でアイを叫んだけもの」)の最後にテロップで「おめでとう」って出て。「……え、これからどうしよう?」みたいな。

――トンでもないものを見てしまった感が。
雨宮 ありましたね。こういう作品を初めて見たので「こういうものなんだ」っていう受け取り方をしたっていうのもあるし。なんというか、これまでロックを聞いたことがない少年が、初めてロックを浴びたというか。どんどん面白さが加速していって、最後にバンドマンが観客をぶん殴ってライブが終わった……というか。

――真似して絵を描いたりはしていましたか?
雨宮 描いていましたね。エヴァ初号機と使徒ばっかり、ずっと描いていました。キャラクターは綾波レイを描いたことがあったかな? でも、それくらいで、もっぱら初号機と3号機。とにかくエヴァと使徒、あとストーリーの謎みたいなものに心を惹かれていたんだと思います。

――キャラクターのドラマよりも、むしろそっちに興味があった。
雨宮 やっぱり最初に見たのが、第六話だったのが大きかったのかもしれない。予備知識なしに見ていると、何をやっているのかわからないんですよ。第壱話に出てきた人型の使徒ならまだわかりますけど、第六話なんて青四角形(第5使徒)と遠くから睨み合っているだけじゃないですか(笑)。いったい、これは何をやっているアニメなんだ?っていう。しかも、その第5使徒がドリルでガーッと地面を掘ってくるじゃないですか。

――シールドマシンを使って、ネルフ本部に迫ってくるという。
雨宮 それで天井を貫いちゃうわけですけど、そこでもビルが逆さまについていたりして。ドリルが逆さまのビルを貫いているとか、意味がわからないわけです(笑)。何と何が何をしているのかもわからない――それがもう最高で。とはいえ、何かすごいことをやっているっていうのは見ているこちら側にも伝わってくるから、だからこそ「次からはちゃんと見よう」と思えたんでしょうね。何もわからなかったけど、とにかく面白い。それって、すごいことだと思うんですよ。endmark

KATARIBE Profile

雨宮哲

雨宮哲

演出家/アニメーター

あめみやあきら 1982年生まれ。東京都出身。演出家/アニメーター。GAINAXを経て、現在はTRIGGERに所属。アニメーターとして数多くの作品に参加し、最近では演出家としても活躍。監督作に『SSSS.GRIDMAN』『SSSS.DYNAZENON』『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』。

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