Febri TALK 2021.10.04 │ 12:00

伊藤智彦 アニメ監督

①「作り手の意識」を初めて感じた
『新世紀エヴァンゲリオン』

『ソードアート・オンライン』『HELLO WORLD』『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』など、現代的なSF設定とロジカルなストーリーテリングに定評のある伊藤智彦監督。そのルーツをたどるインタビュー連載(全3回)の初回は『新世紀エヴァンゲリオン』。そこには、愛知県出身者ならではの強烈な体験が……。

取材・文/前田 久

エンタメ、キャラクター、作り手の意識、3階層のエリアで楽しめた

――1本目に挙がったのは『新世紀エヴァンゲリオン(以下、エヴァ)』のTVシリーズです。
伊藤 イシグロ(キョウヘイ)さんの回となるべくかぶらない話をしないとね。

――(笑)。いやいや、そこはあまり気になさらずに。
伊藤 あのインタビューは「似たようなことを考えているんだな」と思いながら楽しく読ませていただきました。ともあれ、『エヴァ』はアニメ業界を志すきっかけになったアニメです。テレビアニメで初めて、作り手の意識を感じた作品だったんですよね。

――「作り手の意識」ですか?
伊藤 そう。「アニメって、エンタメだけじゃないんだ」という感覚といいますか。テレビで流すアニメで、どこまで作り手のエゴを出していいのやら……みたいなことを感じる作品だったわけです。上の世代だと、富野(由悠季)さんの作品とかでそういうことを感じる機会があったんでしょうけど、俺にとってリアルタイムでそういう経験が最初にできたのは『エヴァ』だった。当時のアニメは全体的にもうちょっとカジュアルというか、いい加減というか(笑)。知り合いの言葉を借りるなら、とんねるずのやっているテレビバラエティーに近い空気のものが多かったんですよね。そうした状況のなかで「ちょっと変わりダネが出てきたな」と感じていたと、振り返ると思います。

――エンタメ的な部分には反応しなかったんですか? たとえば、キャラクターにハマったり、映像に魅了されたり。
伊藤 いや、順番に味わい尽くしています。TVシリーズの始めのうちは、すごいエンタメ感のあるアニメだったわけですしね。アニメの仕事をするようになってから、さらに感じるようになりましたけど、あのカッティングの切れ味のよさ。セリフが終わったらすぐにカットが変わる、あの編集のテンポ感ですよね。そして動くところはよく動き、動かないところはとことん動かないメリハリ感。そうした映像としてのエンタメ感から入り、次にキャラにハマる。当時は綾波レイ派かアスカ派かみたいなのがありましたけど、綾波レイ派だった気がします。で、歳をとると徐々にアスカ派になっていく。

アニメって

エンタメだけじゃないんだ

という感覚をリアルタイムで

初めて味わいました

――そこ、深掘りしたいです。
伊藤 「綾波レイ的なるもの」って、そのあとジャンル化したじゃないですか。似たようなキャラクターの系譜ができた。そうすると、揺り戻しでアスカのほうがいいんじゃないかと思えてきたわけです(笑)。あとは……綾波は何回も死んじゃうから、気持ちのキープが難しいんですよね。育ってきた2番目の綾波が死んで、また3番目を新たに、美少女ゲーム風に表現するなら「育て直す」ことになる。そういう存在の仕方が、歳をとるにつれて気持ち悪くなってきたというか。

――TVシリーズのあの展開は、メタな見方をすると、オタクのキャラクター消費の痛いところを突いている感じがしますよね。「キャラに思い入れても、所詮は作りものだぞ」みたいな。
伊藤 ふふふ。たぶん、そこを庵野さんも意識的にやられていたと思うんですよ。ちょっといじわるだなって、放送当時から思っていました。そこまで視聴者に対して冷徹になるんだなあ、と。そのあたりから作り手側の意識に目が向いていくようになって、最初の話に戻るわけです。全26話中、前半はエンタメ、中盤はキャラクター、そして終盤は作り手の意識。『エヴァ』はそんな、3階層ぐらいのエリアで楽しめた作品じゃなかろうかと思います。

――ちなみに、TVシリーズに限定した理由はあるんですか?
伊藤 軽い気持ちです(笑)。劇場版も思い入れはあります。初日に行きましたし。ただ……TVシリーズが放送していたときの“あの空気”は二度と味わえないな、みたいな思いがあるんです。俺の見ていたテレビ愛知では朝7時35分からの放送だったので、リアルタイムで放送を見てから学校にダッシュする生活をしていたんです。ミサトの「サービス、サービスぅ!」を聞き届けてから学校へダッシュ。だから例の「アヘアヘ」もすべてちゃんと見届けてから行きました(笑)。

――ははは! 第20話ですね。
伊藤 いやもう、「何を見せられてるんだ」って感じでしたね、あれは。

――庵野秀明監督とはその後、会う機会はあったんですか?
伊藤 2回ニアミスをしています。1回目は東京国際映画祭で『式日』が上映されたときのティーチイン。あのとき、客席から質問をしました。2回目はマッドハウスに在籍していた頃、『茶の味』という実写映画のなかで、アニメのラッシュチェックをするシーンの撮影が社内でありまして。そのシーンに庵野さんが役者として、監督役で出演していたんですけど、俺はその監督の話を聞くエキストラのひとりとして参加していました。それくらいの接点で、実際にお話ししたことは今でもないですね。

――それはあえて避けているんですか?
伊藤 いや、別に機会がなかっただけです。わざわざ「ファンです!」と言って来られても、庵野さんとしてもちょっとアレでしょうし。もし、お会いできたとしても「どうすればいい作品ができますかね?」みたいな実務的な質問をします(笑)。庵野さんが昔『アニメスタイル』のインタビューで語っていた「情報のコントロール」という考え方は、アニメを作る、とくにTVシリーズを作るときのテクニックとして、今でも意識していますね。endmark

KATARIBE Profile

伊藤智彦

伊藤智彦

アニメ監督

いとうともひこ 1978年生まれ。愛知県出身。アニメーション監督。主な監督作品に『世紀末オカルト学院』『僕だけがいない街』『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』『HELLO WORLD』『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』など。

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