Febri TALK 2022.04.13 │ 12:00

千葉道徳 アニメーター

②マンガからアニメへ絵面の理想的な変換
『聖闘士星矢』

『機動戦士ガンダム00』『ツキウタ。 THE ANIMATION2』など、華麗なキャラクターデザインで知られるアニメーター・千葉道徳。そのルーツを掘り下げるインタビュー連載の第2回は『聖闘士星矢』を入り口に、レジェンド・荒木伸吾への熱烈な思いを語る。

取材・文/前田 久

今でもたまに、仕事の絵に荒木さんのテイストを盛り込んでいます

――2作目は『聖闘士星矢(以下、星矢)』です。こちらはTVシリーズ、劇場版全部合わせて大好きだと。千葉さん自身、『冥王ハーデス十二宮編』『冥王ハーデス冥界編 前章』には作画監督で『天界編 序奏〜overture〜』には原画で参加していますよね。
千葉 まさか参加できるとは思わなかったですね。東映アニメーションにつないでくれたのは、スタジオへらくれすで一緒に仕事をしていた大塚健くんでした。大塚くんの紹介とはいえ、東映の仕事をそれまでろくにやったことがなかったのに、よく作監をやらせてくれたなあ、と。目指すべきクオリティと、そのときの自分ができることと、目の前にある上がりとのギャップで、いろいろジレンマに陥って大変でしたけど……。

――それくらい思い入れが深いシリーズだった。
千葉 もともと車田正美先生の作品が好きで、ずっと読んでいたんですよ。『リングにかけろ』とか『風魔の小次郎』とか。その流れで『星矢』もリアルタイムで読んで、そのままアニメも見るようになって。そこで荒木伸吾さんの描くキャラに驚くわけです。あとから思い返せば、あの作品のあの回も荒木さんがやっていたんだ……みたいなことはありましたけど、しっかりと荒木さんの存在を意識して見たのは『星矢』からでした。物語も面白かったですし、夢中になったんです。

――ということは、純粋に好きなアニメとして今回選んだわけですか?
千葉 それもですけど、車田キャラから荒木キャラへの変換というのは、僕の中でアニメ化の理想のケースで、そこも理由ですね。マンガからアニメへ絵面を変換する際の理想的な形だな、と。昨今はマンガ家さんの絵もアニメナイズされているものが多いので、原作の模写に近いキャラクターデザインでもけっこうやれてしまったりする。でも、『星矢』の頃はそういう時代じゃなかったので、映像映えするようにアニメ用にキャラクターデザインを整える必要があった。そんな中で荒木さんの手がけたキャラの絵にはすごく華があったんです。当時はもちろん、今見てもいい。まさに「華がある」としか表現しようがない、特別な何かを持っている。

荒木さんの絵には

「華がある」としか表現できない

特別な何かがある

――車田先生の絵のニュアンスというか、キャラクターの原型は残っているんですよね。
千葉 たぶん、絵の系統が合ったんじゃないかと思うんです。それこそ荒木さんは、もともと劇画をお描きになっていたし、アニメの仕事でも『巨人の星』なんかをやられていたわけで。『巨人の星』の原作の作画を担当された川崎のぼる先生の絵と車田先生の絵には、どこかつながる流れがある気もするんですよね。細かく分析はしていないですけれども……。そして車田先生の絵にしろ、荒木さんの絵にしろ、僕の中の何かと波長が合っているんです。模写するとしっくりくる。だから今でもたまに、仕事の絵に荒木さんのテイストを盛り込むんです。『SK∞ エスケーエイト』でもやりました。そうやって荒木さんのテイストを入れると、仕事が楽しくなるんですよ(笑)。

――どんなことを意識すると荒木テイストに近づくんでしょう?
千葉 そこは言葉になかなかできないんですよね……。荒木さんは線にこだわっていたから、線に独特な速力があるというか。あえて歪ませたり、全体にしなやかな感じがあったり、画面から飛び出すぐらいの、フレームに収まらない感じがする。ひとことでいえば「元気」ですかね。「元気」な絵の迫力というベースに、細やかさを乗せる。「細やかさ」は荒木さんが姫野美智(ひめのみち)さんの影響を受けたところかもしれないですが。それらが合わさることで、若干フェティッシュな感覚も絵に宿るんです。その感覚は、髪の毛に注目するとわかりやすいですかね。荒木さんの関わった作品の髪の毛の送りは発明だなって思います。たまにパクっています(笑)。

――いわゆる「荒木なびき」と呼ばれている、髪が房で移動するような独特な表現のことですね。
千葉 そうそう。『星矢』のOVAに参加したときに荒木さんの総作監集を見て、それまで自分が表面的になぞってきた技法の答え合わせをちょっとしました。デッサンの取り方とか。

――先ほど『SK∞ エスケーエイト』の話が出ましたけど、他に自身の仕事で荒木さんの影響が入っているものはありますか?
千葉 それでいうと『機動戦士ガンダム00』も(キャラクター原案の)高河ゆんさんが車田マンガが好きなので、それを口実にちょっとテイストを入れ込んだ仕事です。あとはなんといっても『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』。本編の絵もそうですが、キャラクターデザインで原作の独特なまつげの表現をアニメのデザインに置き換えるときは、荒木さんが『星矢』でやっていたまつげの描き方をアレンジして使わせてもらいました。その直前にやった『銀河鉄道物語』も「松本零士先生が原作の銀河鉄道が出てくるアニメ……それって荒木さんが参加していたアレとつながっていますよね!」みたいな理由をつけて、荒木さん風に描いてみました(笑)。

――千葉さんのお仕事を、どこに荒木さん成分が入っているかをたどりながら追いかけてみるのも面白そうですね(笑)。では、最後に『星矢』未見の人に千葉さんが一本オススメするとしたら?
千葉 『神々の熱き戦い』です。劇場版の2本目。これが荒木さん度がいちばん高いので。物語もいいし。作画に興味がある人なら、荒木さんから僕が何をどうパクっているか、よくわかると思います(笑)。endmark

KATARIBE Profile

千葉道徳

千葉道徳

アニメーター

ちばみちのり 1969年生まれ、岩手県出身。アニメーター。スタジオへらくれす所属。主な参加作品に『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』『機動戦士ガンダム00』『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』『ツキウタ。 THE ANIMATION2』『SK∞ エスケーエイト』など。

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