Febri TALK 2022.04.15 │ 12:00

千葉道徳 アニメーター

③キャリアの大きな転機
『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』

『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』『SK∞ エスケーエイト』など、数々の人気作で辣腕を振るうアニメーター・千葉道徳。インタビュー連載のラストは、せがわまさきによる山田風太郎作品の卓抜なコミカライズをアニメ化した、自身の代表作を振り返る。

取材・文/前田 久

「あんなスゴい仕事は、毎回はできない」と思えるくらいのことができた

――最後の作品は『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜(以下、バジリスク)』です。第2回でも少し話題が出ましたが、これは千葉さんの代表作のひとつですね。
千葉 そうなりますかね。監督の木﨑(文智)さんとも、助監督の西本(由紀夫)さんともそれ以前からの長い付き合いで、木﨑さんの初監督作品ということで声をかけていただいて。とにかく木﨑さんの画力がすごいので、それに引っ張られながらやっていました。「木﨑さんにガッカリされないように頑張ろう」みたいな(笑)。いい原作のアニメ化の仕事を、35~36歳で元気のある、いいタイミングでいただけた感覚もあって、すごくのめり込んでやった仕事です。現場がわりと少人数で大変ではあったものの、とにかくいろいろな内容の絵を描くしかない状況だったのがよかったですね。

――この作品では脚本会議にも参加していたんですよね。
千葉 そのおかげで、担当するカットで何が要求されているのかがわかりやすかったんです。たとえば、最初はセリフがあったんだけど、シリーズ構成のむとうやすゆきさんが「ここはしゃべらせると野暮だから、ナシにしましょう」みたいなことを言い出して削る。でも、そのセリフで描かれていた感情は、シナリオの流れに残っているんです。つまり、「その感情は絵で表現してね、よろしく」ということで(笑)。そういうニュアンスって、その場にいないとなかなかわからない。各話で参加してくれる演出さんや作監には、ひょっとしたら何も伝わらないかもしれない。だからそこは、こっちでポイントを押さえながら修正する。そういうことができたのも面白い現場でした。

――感情を表す芝居が印象的な作品でした。アクションも華麗なのですが。
千葉 木﨑さんはすごいアクションを作る方なので、僕のほうは表情に気を配って仕事をしていた感じですかね。『バジリスク』ってアクションが中心の作品だと思われがちなんですけど、じつは内面の動きで見せるシーンのほうが主なんです。すごい力を持っている人たち同士の戦闘って、意外とさっくり終わるものなので。だから仕事の量も多くなるし、さらにアニメってわりと感情を目で表現するのですが、終盤になると主人公ふたりが両方目をふさがれたりしてね(笑)。

――物語の中心になる弦之介も朧(おぼろ)も、瞳術の使い手なのでそれを封じられますね。
千葉 その状況でも、感情を絵で描かなきゃいけない。目線の芝居を使わず、それっぽい絵をどう描くか。そういうハードルもありました。あの作品は音楽の中川(孝)さんも毎回尺(映像の長さ)に当てる形で曲を作ってくれていたので、音楽での演出にも助けられながらなんとかやりましたね。そうやって音楽を意識しながらの作業も、今思えばいい経験でした。

脚本会議にも参加していたので

担当するカットで

何を要求されているのか

わかりやすかった

――キャリアの転機にあたる作品だった?
千葉 本当に大きい転機です。「あんなスゴい仕事は、毎回はできないよね」と思うくらいのことができました。こういうのって、運じゃないかなって思うんです。自分がのめり込める作品となかなか巡り会えない人も多い。僕はアニメーターとしての自己評価が低いんですが、仕事運というか、巡り合わせのラッキーさはあったなと思っています。

――自己評価が低い……そんな千葉さんの理想のアニメーター像もうかがってみたいです。
千葉 基本的にはニコニコと仕事をしていたいだけなんです。自分をカリカリに追いつめて、殺気立って仕事をすることはできない。だからじつは、これから先のキャリアをどうするかというのはちょっと悩みどころでもあるんですよね。これといった目標がなくて。近い場所で仕事をされている方だと、大貫健一さんや吉松孝博さんには憧れますね。常に最前線で仕事をしていて、仕事の量も多くて、あらゆるタイプの仕事をこなしている。アニメーターとしてのひとつの理想の形だと思いますし、自分が目指すなら、そっちの方向性かなと。安彦良和さんや荒木伸吾さんみたいに、独自の絵を追求するタイプではない。……あ、ただ、荒木さんの薄いコピーぐらいはできるかもしれないと思っているので、そこはこれからも意識してやっていきたいです。

――前回の『聖闘士星矢』の話からの流れだと、それは納得です。
千葉 荒木さんのスタイルを素直に継いでいるアニメーターって、意外といない気がするんですよ。直系の弟子筋の方……たとえば『バジリスク』にも参加されていた飯島弘也さんも、コピーの方向性には行きませんから。荒木プロダクション系以外の方では馬越嘉彦さんの『キャシャーン Sins』等でのお仕事ぶりは「さすがだなぁ」と思って見ていましたし、ほかにも何人かはおられますが。それなら荒木さんっぽさ……艶っぽさと力強さを併せ持った絵を描くことを勝手に引き継いでいこうかなと、ちょっとだけ思わなくはないです。そういうハード路線の作品と、ソフトなものとを交互にやれるとベストなんですけどね。でも『バジリスク』以降、人が死んだり、傷ついたりする作品の仕事がグッと増えて(笑)。

――いわれてみれば。
千葉 人が死ぬ作品で総作画監督をやると、そういうシーンばかりが回ってくるんですよ。大事だから、修正をしっかり入れる必要がある。結果的にしばらく黙々と死にそうな人の顔を描き続ける期間ができるんですけど、そういうときってニコニコとは仕事ができないんです。キャラに感情が入らないといい絵が描けないので。たぶん、それって健康に悪い(笑)。最近は、なんとか健康にいいアニメを作れないかなって思っています。誰か「健康増進アニメ」と銘打って、ゆるキャラっぽいのが活躍するような企画を立てて、声をかけてくれないかなぁ(笑)。endmark

KATARIBE Profile

千葉道徳

千葉道徳

アニメーター

ちばみちのり 1969年生まれ、岩手県出身。アニメーター。スタジオへらくれす所属。主な参加作品に『バジリスク 〜甲賀忍法帖〜』『機動戦士ガンダム00』『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』『ツキウタ。 THE ANIMATION2』『SK∞ エスケーエイト』など。

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