Febri TALK 2022.09.16 │ 12:00

福島祐一 アニメーションプロデューサー

③『同級生』
制作として次のステップに上がれた感じがした

インタビュー連載の最終回で取り上げるのは、中村明日美子原作の劇場作品『同級生』。福島自身、プロデューサーとして関わり、繊細なビジュアルを見事にアニメへと昇華した本作は、いかにして生み出されたのか。制作人生を振り返りつつ、今後のビジョンについても話を聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

最初は「僕でやれますかね……?」とお伝えしていました

――3本目は、中村明日美子のマンガをもとにした2016年の劇場公開作『同級生』。中村章子さんが監督を、林明美さんがキャラクターデザインと総作画監督を務めていますね。
福島 基本的に自分がやりたい作品というのが明確にあるタイプではないので、相談されたり、提示されたりする企画の中から「これまでやったことがないものをやろう」と常に思って取り組んできました。『同級生』もそういう1本で、もともとアニプレックスと中村監督、林さんで企画が動いていたんです。で、それとは別に、僕は僕で中村さんにコンテをお願いしたりしていて。で、あるとき中村さんからも話を振っていただきました。

――監督からの指名だったんですね。
福島 指名というか仕事を一緒にしていたので、そのなかでそういう話になったというか。ただ、最初は「僕にやれますかね……?」とお伝えしていました。前回話した『THE IDOLM@STER』もそうですけど、それまで僕はTVシリーズという枠の中でたくさんの方々といかにしてモノ作りをするか、みたいなところで仕事をすることが多かった。一方、同級生は――劇場として、レイアウトも含めてガツッと少数精鋭で精度の高いものを作り上げていく作品だと理解していて。そういう作り方に自分が対応できるのか。経験があまりないという不安がありました。仕事として「力不足だったな」となるのも嫌ですし、迷惑をかけるのも申し訳ないな、と。

――声をかけてもらったはいいけど、自分では力不足なんじゃないか、みたいな感覚があったわけですね。
福島 あと、それまでBLと呼ばれるジャンルの作品に触れたり、見る機会があまりなかったので。とりあえず、原作を読んでみようとなって、いざ読んでみたら、これが面白くて……。それで中村さんに連絡をして「こういうプランでやろうと思っているんですけど、どうですか?」と意見交換したのをおぼえています。この原作で、この人たちが作る映像を見たいと思いましたし、僕としても中村さんたちの想いを形にできればと思って、やることに決めました。

――なるほど。
福島 もちろん、どういうものを作っていくかは、実際にやってみないとわからないことではあるんです。そういう意味では、中村さんたちとちゃんと会話をしながら作れた作品かと思います。

――『同級生』は、たくさん絵を動かすというよりはレイアウトと背景でお客さんをどんどん引き込んでいくタイプの作品ですよね。内容がシンプルなだけに、作るのは大変そうだと思ったんですが……。
福島 そうですね。やっぱり監督たちががっちりディレクションしないと、ああいう映像にはなかなかならないですし、個人的なことで言えば『同級生』のような作品が作れる現場をいかにして用意するかという、制作的な立ち居振る舞いですかね。そこは、経験として大きかったと思います。完成したものを見たときは、感動しました。

このような作品が作れる現場を

いかにして用意するかという

制作的な立ち居振る舞いを

経験させてもらった

――しっかりした手応えもあった。
福島 もちろん、制作中はいろいろ大変なこともありましたが、ある意味、『THE IDOLM@STER』がそれまでの制作進行として経験してきたことを集約して作れた作品だとしたら、『同級生』はその延長上でできた作品というか。『THE IDOLM@STER』でできた制作の礎をもとに、次のステップに上がれたことを感じられた作品かな、と思います。そのあとにオンエアされた『Occultic;Nine -オカルティック・ナイン-(以下、オカルティック・ナイン)』はそこの経験を経て、シリーズ作品としてより手応えを得られた作品になりましたね。

――『オカルティック・ナイン』のイシグロキョウヘイ監督とは、この前に『四月は君の嘘』でもタッグを組んでいますよね。
福島 『オカルティック・ナイン』に関して言うと、それまでライトノベルが原作のアニメを僕がやったことがなかったんですよ。

――最初に話題に上がった「これまでやったことがないタイプ」の作品だった。
福島 なので、やってみよう、と。『オカルティック・ナイン』はやっぱり絵というか、作画的な部分ですね。イシグロ監督とは「攻めた絵作りをやろう」みたいな話をしていて、しかもキャラクターデザインとして高瀬(智章)さんにも参加してもらえて。結果的に、すごく精度の高いビジュアルをちゃんと形にできたと思います。やっていてすごく手応えもあったし、作っていて楽しかったですね。

――なるほど。今回は、福島さんのこれまでの制作人生を振り返るような流れになったんですけども……。
福島 いやいや、僕も皆様が挙げているような作品は大好きですよ……!! でも、そういう作品を見てアニメを志した監督さんやクリエイターの方たちが語っているのを読むと、僕があれこれ話すのも……と至りました。

――(笑)。では、最後に福島さんのこれからの課題は何でしょうか?
福島 そうですね。僕が『天元突破グレンラガン』などを見て影響を受けて「こういう作品を作った人たちと一緒に作品を作りたい」と思ったように、今、僕らの作品を見て「アニメをやりたい」と思ってくれる世代の方もいると思うんです。そういう人たちの作品を、いい形で世に出していければと思っています。より良く作品を生み出せる場所や機会を作れたらな、と。WIT STUDIOの中武(哲也)さんたちと作った企画・プロデュース会社のJOENもそういう試みのひとつなので。endmark

KATARIBE Profile

福島祐一

福島祐一

アニメーションプロデューサー

ふくしまゆういち 1984年生まれ、群馬県出身。アニメーションプロデューサー。最近の主なプロデュース作品に『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』『明日ちゃんのセーラー服』『SPY×FAMILY』など。株式会社JOEN、株式会社CloverWorks所属。