Febri TALK 2022.09.14 │ 12:00

福島祐一 アニメーションプロデューサー

②『THE IDOLM@STER』
作品づくりへの思いが初めて結実した

プロデューサーとして数多くの作品を世に送り出す福島に、そのアニメ遍歴を聞くインタビュー連載。第2回で取り上げるのは、制作デスクとして自身も参加した大人気アイドルアニメ。その制作の舞台裏とともに、初めて感じた手応えを語る。

取材・文/宮 昌太朗

制作人生のターニングポイントになった作品

――2本目は、前回もちらっと名前が出た錦織敦史監督の『THE IDOLM@STER(以下、アイマス)』ですね。福島さんがGONZOからA-1 Picturesに移籍したあと、制作デスクとして関わった作品ですが、制作デスクとしては何本目ですか?
福島 3本目くらいですかね。『アイマス』はアニプレックスから持ち込まれた企画だったんですけど、錦織さんが監督・キャラクターデザインで。こんなに早く出会えるとは……と。こんなことってあるんだなと思いました。

――念願の錦織監督とのお仕事だったわけですが、福島さんとしては思いがけない出会いだったわけですね。
福島 ただ、いざ一緒に仕事をするとなると、さすがに最初は緊張感がすごかったです。なので「念願叶いました! 一緒に仕事したかったです!」みたいな感じはまったく出せなかったですね(笑)。打ち合わせで会社に来た錦織さんのアテンドをして、何かあったら会話して……くらいの距離感で。

――お仕事モードの対応だった(笑)。2本目に『アイマス』を挙げた理由は?
福島 前回もお話ししたように、『ぼくらの』のときに感じたチーム感だったり、あるいは『天元突破グレンラガン』を見ていて感じた憧れですよね。自分から能動的に作品づくりをしたいという思いが初めて少し実現できた気がして。それを体感できた作品が『アイマス』でした。それは、これまで自分が積み重ねてきたこと――たとえば、人脈だったり、制作としての経験が集約する瞬間でもあって。「これを続けていくんだ」と思えた作品が『アイマス』だったんです。

――外部から見ていても『アイマス』は作品のクオリティはもちろん、作り手の熱量もすごく高い作品だったと思います。なぜあれだけ熱量が高くなったんでしょうか?
福島 当時はまだ僕自身、作品がどう見られるのか、みたいなところまで発想がたどり着いていなくて、それこそ監督や参加してくれたスタッフのために作品を作りきりたい。そういう思いでしかなかったんですけど……。でも、やっぱり錦織さんやシリーズ演出の高雄(統子)さんをはじめ、たくさんのスタッフの方がひたすら頑張ってくれたことが大きかったと思います。

――錦織さんが監督とキャラクターデザインを兼任している時点で、作業量がすさまじいことになると思うんですけど。
福島 そうなんです。打ち合わせだけでも大変で。最近でこそ、事前にスケジュールのすり合わせをしたり、対策の相談をするようになりましたけど、『アイマス』のときは錦織さん本人にやってもらうしかなかったですね。ずっと仕事をされていました。

信じられないほど

現場は大変でしたけど(笑)

やっぱり愛着のある作品です

――なるほど(笑)。
福島 あと、制作していくなかで『アイマス』に対する愛情や熱意が、スタッフの中でどんどん高まっていくのを目の当たりにしたんです。そのときそのときにやった精一杯が、ちゃんとフィルムに反映しているというか。いろいろと大変ながらも、この作品をなんとかいい形で世に送り出したい――そういう気持ちやライブ感がどのエピソードにも反映している感じがします。

――大変な現場だったからこそ、関わっているスタッフの熱量が高くなったという側面があるのかもしれない。
福島 今では普通の作り方ですが、モーションキャプチャーでダンスの振り付けをCGに取り込んでダンスシーンを作っていくやり方ですね。それをもとに作画していくというのは、アニメ『アイマス』の特徴だったと思います。そういう試行錯誤の楽しさみたいなものもありましたね。信じられないほど現場は大変でしたけど(笑)、やっぱり愛着のある作品です。

――個人的に手応えのあったエピソードは何話になりますか?
福島 どのエピソードにも思い入れがあるんですけど、第2話(「“準備”をはじめた少女たち」)ですかね。早めに入る話数だったため、デスクをやりつつ自分で制作進行を担当することになったんです。

――ここからいよいよ本格的に制作に入るぞ、という最初の1本目が第2話だったわけですね。
福島 コンテ・演出が高雄統子さんで、作画監督が松尾祐輔さんで。ふたりと話数を作れる!というのはうれしかったし、制作として印象に残っているエピソードですね。あと第7話(「大好きなもの、大切なもの」)などで舛成(孝二)さんにコンテをやってもらえたことも、印象に残っている出来事のひとつです。錦織さんから舛成さんにお願いしたいということで、しかも舛成さんが『アイマス』を好きなこともあり、ぜひコンテをお願いしたい、と。それでプロデューサーを通して舛成さんに打診してもらったんですけど、ある日、連絡先だけがぺらっと僕の手元に来て。

――自分が連絡しなきゃいけない、と。
福島 今となってはめちゃくちゃ仲良くさせてもらっていますが、当時はほぼ初対面だったので、すごくビビっていました(笑)。で、緊張しながらコンテの打ち合わせをして。そういう意味では『アイマス』がきっかけで知り合った人も多いです。今では監督やキャラクターデザインなどをやっている方にもたくさん参加していただきましたし、そういう方たちに初めてコンテや演出をお願いしたり、あるいは作画監督をやってもらったり。そういうところも含めて、自分にとって基盤というか、礎になった作品です。制作人生におけるターニングポイントになったのは、間違いないです。endmark

KATARIBE Profile

福島祐一

福島祐一

アニメーションプロデューサー

ふくしまゆういち 1984年生まれ、群馬県出身。アニメーションプロデューサー。最近の主なプロデュース作品に『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』『明日ちゃんのセーラー服』『SPY×FAMILY』など。株式会社JOEN、株式会社CloverWorks所属。