Febri TALK 2022.05.16 │ 13:17

花田十輝 脚本家

①旅ものの原体験
『ガンバの冒険』

『ラブライブ!』や『響け!ユーフォニアム』といった青春ものから、『STEINS;GATE』のようなSF作品、オリジナルの『宇宙よりも遠い場所』など、幅広いジャンルで活躍する花田十輝が選ぶアニメ3選。インタビュー連載の第1回は、仲間との旅や冒険の原点として心に残る『ガンバの冒険』について。

取材・文/岡本大介

心に焼き付けられたノロイに対する恐怖

――花田さんは幼少期からアニメ好きなんですよね。
花田 そうです。僕は特撮ものがいまいち肌に合わず、もっぱらアニメを見て育ちました。そんな中で『ガンバの冒険』を初めて見たのは、たしか小学校3~4年生の時期で、リアルタイムではなくて再放送だったと思います。

――『ガンバの冒険』のどんなところに惹かれましたか?
花田 仲間たちと一緒に旅をして遠い場所を目指すというストーリーに初めて触れたのがこの作品なんですね。中でも惹かれたのは、7匹のキャラクターすべてに得手不得手があって、全員が力を合わせて困難を乗り越えていくところ。ときには喧嘩をすることもあるけど、みんながそれぞれの役割を果たして、最終的には大きな目標をクリアするという展開に魅了されました。ロードムービーであり、冒険ものでもあり、とにかくそういう雰囲気にハマったんだと思います。

――とくに印象に残っているキャラクターはいますか?
花田 それはもうノロイに尽きます。子供時代に『ガンバの冒険』を見ていた人であれば、今でもイタチを見ればノロイを想像してしまいますし、当時の恐怖心までよみがえってくる人も多いと思います。今はペットとしてイタチを飼う人も多いですが、僕ら世代は絶対に無理ですね(笑)。それくらい強烈に心に焼き付いています。

――ノロイは多くの子供にトラウマを植えつけた、日本のアニメ史上に残るラスボスと言えます。
花田 大人になって見返しても、やっぱり怖いんですよ。人間が誰かを殺すのって、それが怨恨であっても快楽であっても、何かしらの理由が必要になるじゃないですか。でも、それが動物となると何の理由もいらなくて、そこが怖いんですよね。とある島にいる白いイタチがネズミを虐殺しまくっているという時点で底知れぬ恐怖を感じますし、同時に未知の面白さがあって、設定としてもすごくよくできているなと感心します。

――ノロイでとくに印象に残っているシーンはありますか?
花田 ガンバたちが初めてノロイと対面したシーン(第20話「白イタチノロイを見た!」)です。そこで「私は君たちを歓迎する」って言いながら、ガンバに催眠術をかけるんですが、そのときに赤色だった目が急に緑色に変わるんですよね。あの一連のシーンは鮮明におぼえています。まるで僕まで催眠術にかけられたみたいに、テレビの前で釘付けになって、目をそらせなかったです。ノロイは他にも、画面にツメ跡だけをパパッと映すことでネズミを殺すとか印象に残る演出がたくさんあって、大人になった今からすると、さすがは出﨑統監督だなと思います。

ガンバたち7匹が集まって

わちゃわちゃしている

雰囲気が好きで

自然とワクワクしてくる

――ノロイの話は尽きることがないですね。一方で、ガンバたち7匹の関係性もいいですよね。
花田 いいですね。僕はガンバたち7匹が集まってわちゃわちゃしている雰囲気がすごく好きで、自然とワクワクしてくるんです。

――普段はみんなの足を引っ張りがちなボーボでも、いざというときはみんなを助けたりして、よくできた関係性ですね。
花田 そうなんですよね。ガンバとボーボの親友感とかヨイショとガクシャの相棒感とか、本編が始まる前にもいろいろな冒険があったんだろうなと感じられるやり取りも好きです。

――ガンバたちがノロイ島を目指して冒険をする展開は、女子高生4人が南極を目指す『宇宙よりも遠い場所(以下、よりもい)』にも通じるものを感じます。
花田 僕にとって旅ものの原体験が『ガンバの冒険』なので、当然『よりもい』にも大きな影響を与えていると思います。ガンバが船酔いになるエピソード(第2話「ガンバ、船で大暴れ」)があるじゃないですか。『よりもい』でも船酔いのエピソード(第8話「吠えて、狂って、絶叫して」)があるんですけど、あれを書いたのは『ガンバの冒険』の影響なんです。いしづかあつこさん(『よりもい』監督)も出﨑監督作品が好きで、その話をしたら「じゃあ船酔いで一本作ろうか?」と。これは『よりもい』に限らずですが、オリジナルで何かを作る場合には、まず頭に浮かぶのが『ガンバの冒険』ですね。

――花田さんにとって、旅もの、冒険ものの教科書的な位置付けなんですね。
花田 そうですね。当時の多くのアニメが4クールの中で『ガンバの冒険』は2クールで全26話というのもいいんですよ。現代のTVシリーズの主流は1クールか2クールですから、すごくしっくりくるんですよね。4クール作品になるとどうしてもゲスト回や遊び回などが増えてしまうんですが、『ガンバの冒険』は最初から最後までキュッとまとまっていて、そこも参考になります。

――中盤には黒ギツネのザクリという中ボスが配置されていて、まったくダレないですね。
花田 うまいですね。キャラクターの数も原作の15匹から7匹に半減しているんですけど、アニメで描くにはそれくらいが適正ですからね。最初から最後まで一貫してノロイを目指して話が進んでいく構成でありつつも、山小屋での人間との交流など、毛色の異なるエピソードも適所に入っていて、それが作品世界にグッと広がりを与えていてすごいと思います。とにかくネタに困ったら『ガンバの冒険』を思い出す。僕にとってはそんな作品ですね。endmark

KATARIBE Profile

花田十輝

花田十輝

脚本家

はなだじゅっき 1969年生まれ。宮城県出身。アニメ脚本家になるため大学在学中に小山高生に師事し、1992年『ジャンケンマン』第46話「ジャンケン村の宝を探せ!」で脚本家デビュー。シリーズ構成を担当した主な作品に『中二病でも恋がしたい!』『やがて君になる』『ひとりぼっちの○○生活』などがある。

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