Febri TALK 2022.05.20 │ 12:00

花田十輝 脚本家

③アニメの仕事がしたいと思った
『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』

『ラブライブ!』や『響け!ユーフォニアム』といった青春ものから、『STEINS;GATE』のようなSF作品、オリジナルの『宇宙よりも遠い場所』など、幅広いジャンルで活躍する花田十輝が選ぶアニメ3選。インタビュー連載の最終回は、アニメの仕事をしたいと思うほど強烈なインパクトを与えた、あの名作について。

取材・文/岡本大介

SFと日常系の融合。セリフ回しにも憧れる

――1984年公開の押井守監督作品です。花田さんは当時中学生ですね。
花田 もともとTVシリーズを見ていて、純粋に「面白いギャグアニメ」として楽しんでいました。映画化されるという話を聞いたので興味を持ち、朝イチで映画館に行って見たんです。そしたらもう、ただただ圧倒されました。あまりの衝撃に、そのまま夜まで一日中繰り返し見ていました。当時の映画館は入れ替え制ではなかったので、それができたんですよね。

――どんなところに衝撃を受けたんですか?
花田 てっきりギャグアニメだと思っていたので、そのギャップもあったと思いますけど、なによりタイムリープの面白さですね。僕はそれまでタイムリープ作品に触れてこなかったので「同じ日が続くのってこんなにも面白いんだ」と衝撃を受けたんです。最近、ネットで「人は雛のように人生で最初に見たタイムリープ作品に一生ついていく」って書きこみがあって、なるほどなあと思ったんですけど、まさに自分にとってはこの作品がそれに当たります。将来はアニメの仕事がしたいなと思うようになったキッカケの作品でもあります。

――中学生のときにアニメ業界を目指したんですね。
花田 そうです。シナリオライターという職種を明確に意識したわけではないんですけど、とにかくアニメの仕事がしたいと思いました。この時代って押井さんはもちろん、宮崎駿さんや富野由悠季さんなどトップクリエイターの方々が代表作をガンガン発表していた時期じゃないですか。なので、いずれそういう方向に引き寄せられていくのは必然だったかもしれませんが、僕にとって直接のキッカケになったのはこの作品なんです。

――当時すでにクリエイターの名前を意識していたんですね。
花田 中学生の頃にはもう立派なアニメオタクでしたから。とくに当時の僕は押井フリークで、OVA『天使のたまご』(1985年)の上映会にも参加して、登壇した押井さんに質問を投げかけたりもしていました(笑)。

――では、押井作品でいちばん好きな映画ですか?
花田 シナリオとしてよくできているなと感じるのは『機動警察パトレイバー the Movie』(1988年公開)なんですけど、世界観だったり肌触りとして好きなのはやっぱりこちらですね。

――本作はタイムリープを利用したSF作品でありつつ、日常を描いた青春ドラマでもありますよね。そこはいかがでしたか?
花田 これは『ガンバの冒険』にも通じますが、やっぱり仲間内でバカなことをやっている時間というのがいちばん楽しくて、かけがえのないものなんだなっていう感覚はこの作品からもすごく味あわせてもらいました。その感覚はプロとなった今でも大切にしていて、『けいおん!』で1年生が留守番する話(第2期第5話)とか『ラブライブ!』でのライブの前に学校に泊まり込む話(第2期第12話)とか、「それだけで30分もつ?」という意見を打ち合わせのときに言われたりしたんですけど、そういうときに「もちます。なぜなら何も起きなくても楽しいから」と自信を持って返すことができるのは、この作品がそれを見事に証明しているからな気がします。

仲間内でバカをやっている

時間がいちばん楽しくて

かけがえないんだという

感覚をすごく味わった

――そういう意味では、日常系作品の先駆けと言えるのかもしれませんね。
花田 意図的にそういう描写にこだわっているところもたくさんありますよね。たとえば、序盤にある給湯室での会話シーンとかは明らかですよね。三宅しのぶが「つまり、ある人がある人を気にして~」って延々と話すくだりは、視聴者側としてはセリフ内にたくさん出てくる「ある人」がそれぞれ誰のことを指しているのか、全部わかっているわけじゃないですか。でも、しのぶがラムに「これってわかる?」と聞くと、ラムはすかさず「全然わからんちゃ」って返す。セリフのダイアローグとして素晴らしいと思いますし、ひとりのシナリオライターとしても憧れちゃいますね。

――会話劇も素晴らしいですし、随所に理想の青春が詰まっていますよね。
花田 たしかに。中学生の僕はこれを見て「高校生活ってこんなに楽しいんだ!」って夢を抱きました。実際は、そんなにいい高校生活にはならなかったんですけど(笑)。文化祭の準備でみんなで夜更かしをして、コンビニで好きなだけ買い物してとか、もうそれだけでワクワクしますし、そういう共感を増幅させる描写というのは、次々と事件が巻き起こるお話に負けないくらいの魅力があると思わせてくれます。

――とくに印象深いシーンはありますか?
花田 本当にたくさんあるというか、むしろ名シーンしかないですよね。あたるの家でみんながご飯を食べるシーンや、あたるが水たまりに沈んでいくシーンはやっぱりすごく印象的です。あと冒頭で、セーラー服姿のラムが戦車の砲塔に現れるシーンもいいですね。作画の力の入れようが凄まじいですし、映画的な演出も手伝って「女の子をかわいく描く」というのはこういうことなんだなと勉強になります。一気に映画の世界に引き込む力があるシーンです。

――大人になってからもよく見返すのですか?
花田 見返しますね。『伝説巨神イデオン』と並んで、これまでにいちばん多く見た作品かもしれません。

――本作を見たいと思うのはどんなときですか?
花田 それはだいたい決まっていて、アイデアに詰まって絶望したときです(笑)。シナリオを書いていると「この世界には何にも面白いことなんかない」って凹む瞬間があるんですよ。アニメも面白くなければ、世界も面白くない。そんなときにこの作品を見ると「やっぱりアニメは面白いな。面白くできないのは自分が悪いからだ」と素直に思えるんですよね。僕は数え切れないほどこの作品に救われ、勇気をもらってきました。きっとこれからもお世話になると思います。endmark

KATARIBE Profile

花田十輝

花田十輝

脚本家

はなだじゅっき 1969年生まれ。宮城県出身。アニメ脚本家になるため大学在学中に小山高生に師事し、1992年『ジャンケンマン』第46話「ジャンケン村の宝を探せ!」で脚本家デビュー。シリーズ構成を担当した主な作品に『中二病でも恋がしたい!』『やがて君になる』『ひとりぼっちの○○生活』などがある。

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