Febri TALK 2021.12.01 │ 12:00

平尾隆之 アニメーション演出/監督/小説家

②思春期の鬱屈感とリンクした
『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』

自身が監督を務めた劇場アニメ『映画大好きポンポさん』が、驚異のロングランヒットとなった平尾隆之が選ぶアニメ3選。インタビュー連載の2作目は、思春期を迎えたばかりの平尾が深く感情移入したという『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』。

取材・文/岡本大介

この作品から「悪役の作り込み方」を学んだ

――『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』はOVAと劇場版がありますが、どちらを先に見たのですか?
平尾 OVAです。最初に見たのは中学生だったと思いますが、じつはそれまで『ガンダム』シリーズってほとんど通ってこなかったんです。子供の頃に再放送はあったと思うんですけど、今見るにはちょっと古いかなと感じていて、代わりに富野由悠季さんの小説を読んでいました。

――では『ガンダム』アニメとしてはほぼ初体験ですか?
平尾 そうです。偶然見たんですけど、すごく惹かれました。『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』は『ガンダム』シリーズの外伝的な位置付けで、登場キャラはニュータイプではなく、普通の人間ばかりなんですよね。もちろん、モビルスーツによるロボットアクションも描かれますが、どちらかと言うと人間ドラマが主体で、そのドラマ性に共感したんです。前回の『機動警察パトレイバー』のときもお話ししましたが、僕の創作における大きなテーマは「マイノリティがマジョリティに一矢報いる」なんです。それでいうと、主人公のコウはパイロットとしての才能はあってもいかんせん新米パイロットで、ライバルとなるガトーとは技術面でも経験面でも圧倒的な差があって、本来ならばとても敵う相手ではない。それでもコウはガトーに一矢報いたいという執念で成長していって、ついに相手を追い詰めるところまでいくんですよ。そのあたりの展開が、まさに僕の好きなストーリーで、ドンピシャだったんです。

――でも、そんな土壇場でガトーをかばったのはヒロインのニナなんですよね。
平尾 そうなんですよ。じつはガトーとニナは元恋人同士だったということが物語後半で明らかになるのですが、コウはライバルに勝てないうえに、信頼していた恋人にも裏切られるという衝撃的な展開で(笑)。

――かなりショックでしたか?
平尾 ショックでしたね。四国の片田舎で思春期を迎えていた当時の僕は、言いようもなく鬱屈した想いを抱えていたんです。だからこそ、新米軍人ながら頭角を現そうともがくコウに自分自身を重ねていて。それだけに、あの衝撃の展開には行き場のない悔しさを感じました。戦いの最後、気絶から目覚めたコウが叫びながらビームライフルを乱射しますが、あの気持ちはよくわかります。

――劇中を通じてコウは成長しますが、ガトーに勝つという目的は果たされずに終わるんですよね。
平尾 むしろ信念を貫き通したのはガトーですよね。不思議なんですけど、感情移入をしていたのはコウなんですけど、好きなのはガトーだったりするんです。それもこの作品の面白いところで、共感するキャラクターと好きなキャラクターが違うというのは、やっぱりキャラクターの強度が高いからこそだと思いますし、今でも好きな理由のひとつです。

コウに自分を重ねていたので

ライバルに勝てず

恋人にも裏切られる姿に

行き場のない悔しさを感じました

――作画や演出面はいかがですか?
平尾 シリーズ後半になると作画のクオリティが急に上がるんですよね。これは制作途中で劇場公開が決まったことによるグレードアップ処置らしいんですけど、とにかく描き込みが尋常じゃないレベルなんです。メカのパネルラインやキズなどもすごく細かく描かれていて、それによって凹凸感や光の反射などのディテール表現が格段にレベルアップしていて。『メガゾーン23』など、80年代のOVAでも密度の濃い作画はありましたけど、これはまた新しい段階の表現だなと感じました。最近の流行には反しますけど、僕はいまだに濃い絵柄が好きで、影やハイライトを入れてようやく絵が完成した気持ちになるんです。それは確実にこの作品と、次に取り上げる作品の影響によるものだと思います。

――好きなシーンはありますか?
平尾 デラーズ中将の最期です。寝返ったシーマに銃口を突きつけられながらも、ガトーに向かって「行け、ワシの屍を踏み越えて!」と作戦の続行を促すんですが、この言葉に作品のテーマやエッセンスがすべて詰まっているように感じます。デラーズ自体は劇中においてそこまで描写されているわけではないのですが、死地に際してああいうことを言えるというだけで、ガトーとの信頼関係はもちろん、軍人としての潔さや信念を感じることができるんですよね。

――この作品の世界では連邦側の上層部が腐敗していて、ジオン軍のほうが高潔に描かれているんですよね。
平尾 そうなんですよ。だからこそキャラクターとしてはガトーのほうが好きだったりするんです。ガトーは自分の信念に反することは絶対にしないんですよね。コウにはまだそこまでの信念はないですし、言動も子供っぽいですから。

――未熟な主人公と成熟した敵という構図はじつに『ガンダム』らしいなと感じます。
平尾 そうですね。それでも最後に生き残ったのはコウだというのがまた皮肉ですよね。そういう意味では、僕はこの作品から「悪役の作り込み方」を学んだ気がします。劇中では敗北したとしても、ガトーやデラーズのような信念のある悪役キャラを描きたいなといつも考えています。endmark

KATARIBE Profile

平尾隆之

平尾隆之

アニメーション演出/監督/小説家

ひらおたかゆき 1979年生まれ。香川県出身。1999年マッドハウスに入社し、TV『THXNOLYZE』で演出デビュー。その後、ufotableにて『劇場版 空の境界 第五章 矛盾螺旋』の監督を担当。そのほか監督代表作として、映画『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』、TV『GOD EATER』などがある。

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