Febri TALK 2021.12.03 │ 12:00

平尾隆之 アニメーション演出/監督/小説家

③アニメの技術革新を感じた
『マクロスプラス』

自身が監督を務めた劇場アニメ『映画大好きポンポさん』が、驚異のロングランヒットとなった平尾隆之が選ぶアニメ3選。インタビュー連載のラストとなる3作目は、驚異のアクション作画に痺れた『マクロスプラス』。『ポンポさん』の作画の参考にもしたという絵作りの魅力とは?

取材・文/岡本大介

板野一郎さんをはじめとする最高峰の職人さんによる手仕事

――3本目は『マクロスプラス』です。奇しくも3本ともロボットアニメとなりました。
平尾 このラインナップだと誤解されそうですけど、じつはロボットアニメってそこまで詳しくないんです。今回選んだ3作品はたまたまベースにロボットの世界観があるだけで、基本的には人間ドラマの部分が好きなんですね。ただ、『マクロスプラス』に関してはドラマはもちろん好きなんですけど、いちばん衝撃を受けたのはビジュアル面かもしれません。高校生のときに見たのが最初ですが、ここまで凄いアクション描写を体験したのはこの作品が初めてで、アニメの技術革新を感じました。

――具体的にはどんなシーンに技術革新を感じましたか?
平尾 戦闘機のドッグファイト表現ですね。とくにパイロットにかかるG(重力)の表現がすごくて。極度にGがかかっているときには呼吸ができず、Gが抜けた一瞬のタイミングで息をしていたり。これはキャストの方の芝居も抜群にうまいと思うんですけど、そういった描写がすごく丁寧なので、現実ではありえないアクションをしているのに、しっかりとしたリアリティが生まれているんですよ。高速で戦闘機が飛び回って、それを捉えるカメラワークも縦横無尽、さらにミサイルの軌道や爆発のエフェクトも加わって。とにかく痺れました。

――登場する機体はいずれも可変戦闘機ですが、戦闘機形態でのアクションが多いですよね。
平尾 そこもリアリティがあったのかもしれませんね。映画などで見知った形の戦闘機なのに、それがアニメになるとここまで衝撃的なシーンになるんだ、と。そんな感覚は初めてでした。あまりに気になって、映像をコマ送りして何度も見たんですけど、本当に細かく丁寧に描いているんですよね。実際の再生速度では一瞬すぎて気がつかない箇所でも、動きをまったく省略していない。板野一郎さんをはじめとする最高峰の職人さんによる手仕事だからこそ表現できたのかなと思います。

――CGではなかなか描けない迫力ですよね。
平尾 そうですね。CGでモデルを作ってパースの変形をかければ同じような絵作りはできるとは思いますが、ごくわずかな歪みだったりタイミングの調整が重要なので、厳密には同じにはならないと思います。ここまでダイナミックな映像にするには、やっぱり手描きで培ったセンスや感覚が必要で、今の時代に表現するのは難しいでしょうね。直近の監督作品『映画大好きポンポさん』の制作中にも何回か見直したくらい、ビジュアル面で参考にさせてもらっています。

マイノリティの象徴である

イサムが、社会に抵抗して

それを打ち破っていく

ストーリーとも読める

――『ポンポさん』はアクション映画ではありませんが、どんなところが参考になったのでしょうか?
平尾 カメラワークや演出、特殊効果などです。たとえば、オプチカルT.U(トラックアップ)というのですが、カメラの手前に戦闘機があったとして、戦闘機は動かさず背景だけを一気に手前に寄らせるとか、そういう表現は僕も絵コンテではよく描きます。戦闘機をキャラクターに置き換えて使っている感じですね。

――なるほど。キャラクターのドラマについてはいかがでしたか?
平尾 これも僕の中では「マイノリティがマジョリティに一矢報いる」展開ですね。人工知能の台頭で、もはやパイロットそのものが不要になるかもしれないという時代背景で、主人公のイサムは完全にアナログ主義なんですよ。対してライバルのガルドは機体と神経をつないで操縦する、いわばハイブリッドタイプ。そしてラスボスは人工知能が操る完全な無人戦闘機。つまり、イサムはこの先消えゆくであろうマイノリティの象徴で、そんな彼が社会に対して抵抗して、それを打ち破っていくストーリーとも読めるんです。それにイサムって自由奔放でやりたい放題なキャラクターに見えますけど、一方でガルドが起こした事件についてずっと黙っていたりする。やっぱり根っこの部分では主人公キャラだと思いますし、そのことが明らかになって、ふたりが最後の最後に和解して共闘するシーンは、ドラマとして最高に劇的な展開だと思います。

――その後のガルドの死にざまもまたカッコいいですよね。
平尾 ベタではありますが、完璧ですよね。イサムを先に行かせてガルドが無人戦闘機を引き受けるのは、彼にとって贖罪の意味もありますが、現実的にもベストな選択で、だからこそドラマに無理が生まれずに納得できるんだと思います。ガルドとイサムの最期の会話も「こっちはもうすぐ片がつく。一杯やるのが楽しみだ」とか、とにかくセリフが粋で海外ドラマ的でもある。イサムもそのあとマクロスに特攻して「死んだのかな?」と思いきや、ちゃんと生きているなど作品全体としてはハッピーエンドで終わっているのも気持ちがいいです。渡辺信一郎監督の音楽と映像のシンクロセンスも爆発していますし、アクション作画の魅力も含めて、とにかく全方位でよくできた作品だなと思います。endmark

KATARIBE Profile

平尾隆之

平尾隆之

アニメーション演出/監督/小説家

ひらおたかゆき 1979年生まれ。香川県出身。1999年マッドハウスに入社し、TV『THXNOLYZE』で演出デビュー。その後、ufotableにて『劇場版 空の境界 第五章 矛盾螺旋』の監督を担当。そのほか監督代表作として、映画『魔女っこ姉妹のヨヨとネネ』、TV『GOD EATER』などがある。

あわせて読みたい