Febri TALK 2021.07.05 │ 12:00

広江礼威 マンガ家

①オタクになったきっかけの作品
『ガルフォース ETERNAL STORY』

『BLACK LAGOON』を代表作に持ち、現在は『341戦闘団』と2作を連載中。オリジナルTVアニメ『Re:CREATORS』の原作・キャラクター原案を手がけるなど幅広く活躍するマンガ家・広江礼威。インタビュー連載の第1回は、オタクの沼にハマるきっかけとなった作品について。

取材・文/岡本大介

「俺は今、何か新しいアニメを見ているぞ!」って興奮しました

――アニメは小さい頃からよく見ていたのですか?
広江 人並みには見ていましたけど、とくに「アニメ好き」というわけではなくて、自分がオタクだという意識もなかったです。でも、中学生のときに空前のOVAブームが来て、そこで一気にハマっていったんですよね。

――『ガルフォース』はまさにそのタイミングで出会ったんですね。
広江 そうです。当時のアニメのキャラクターって、いわゆる「美樹本キャラ」的な造形がすごく流行っていたんです。でも、園田健一さんが描く『ガルフォース』の女性キャラはそれとは一線を画していて、それが目新しくて興味を持ちました。

――キャラクターが入口だったんですね。
広江 はい。園田さんのキャラって、質感がちゃんとあって重力がしっかりと感じられるんですよね。女の子ばかりが登場する作品ですが、みんながしっかりと立っていて、描き分けも抜群にうまいなと思って注目していました。中学生の頃は自分で絵を描くようになっていたので、自分もこういう絵が描けるようになりたいと憧れました。

――では、模写をしたりも?
広江 もちろん、当時はかなりやっていました。『ガルフォース』は雑誌『モデルグラフィックス』に連載されていたんですけど、OVAになる前から「園田さんのキャラが好きだな」と思っていましたから。その後、OVAを見て完全に園田さんのファンになり、これ以降は『バブルガムクライシス』や『ウォナビーズ』など、アートミック企画でAIC制作のOVAは必ず追いかけるようになりました。ちなみに園田さんとは後年コミケでお会いしまして、連絡を取り合う間柄になったんですが、そう考えると僕もずいぶん遠いところまできたんだなと感慨深いです(笑)。

――夢はかなうんですね。
広江 そうですね。僕が今こうしてマンガを描いていることも含めて、なんだかんだ言ってすべては運命だったのかもしれないと思うようになりましたね。

園田さんのキャラって

質感がちゃんとあって

重力がしっかりと感じられる

――ストーリーや世界観に関してはいかがでしたか?
広江 最初は園田さんのキャラに惹かれて見たんですけど、内容的にはけっこうハードな展開で、主人公格のキャラクターが序盤からボロボロと死んでいくんです。ほぼ女の子しか登場しないので、もっとかしましい感じなのかなと思っていただけに衝撃を受けましたが、でも、そういう世界観に一気に惹き込まれたんです。終盤になるまで男性キャラがほとんど登場しないので、途中で変なラブロマンスもありませんし。それがドライな面をより強調していたりもして、本当によくできていますね。大人になってから見直すと、最後にわずかな希望を残して終わる感じは70年代のアメリカンニューシネマの系譜を受け継いでいるのかなとか、モチーフとしては当時流行していた『エイリアン』の影響が強いなとかいろいろとわかってくるんですけど、当時は中学生ですから「俺は今、何か新しいアニメを見ているぞ!」って興奮しました。

――80年代のOVAって、大人向けでハードな展開のものも多かったですよね。
広江 多かったですね。今回のセレクトには挙げなかったですけど、『メガゾーン23』なんて、仲間を失った主人公が敵に最後の特攻をかけたうえで負けて、ズタボロになって朝の渋谷の街を歩くシーンで終わるっていうものでしたから。そんなアニメ、ないですよね(笑)。

――たしかに。ちなみに当時は誰かと一緒にアニメ談義に花を咲かせていたんですか?
広江 いえ。『ガルフォース』のときはまだひとりきりで、劇場公開された際も池袋の映画館にひとりで見に行った記憶があります。そのあとだんだんとオタク仲間ができて、やがて家でOVA鑑賞会を開いたりするようになっていくので、このときがまさにオタクとして覚醒した瞬間だったんでしょうね。『ガルフォース』を見なかったら、たぶんオタクにはなっていなかったと思います。本格的なSF作品に触れたのもこれが初めてで、これ以降は海外のSF小説も最低限は嗜むようになりましたし、ドライで硬派な世界観のものをどんどん好きになっていきました。

――そういう世界観は、広江先生の作風とも通じる部分がありますね。
広江 それは完全にそうで、若干の報われなさだったり、最後に示される希望みたいな僕の創作の根っこの部分は『ガルフォース』がベースになっていると思いますね。endmark

KATARIBE Profile

広江礼威

広江礼威

マンガ家

ひろえれい 1972年生まれ、神奈川県出身。ゲーム会社に勤務しつつ同人活動を行い、『翡翠峡奇譚』で商業誌デビュー。代表作は『BLACK LAGOON』(小学館 月刊サンデーGX連載中)。TVアニメ『Re:CREATORS』では原作・キャラクター原案を担当するなど、幅広く活躍中。2019年よりゲッサン(小学館)にて『341戦闘団』を連載中。
『BLACK LAGOON』最新第12集、イラスト集『Onslaught BLACK LAGOON Illustrations』(通常版&限定版)は、2021年8月19日頃、発売! 『BLACK LAGOON 20周年記念展』は2021年7月16日から8月1日まで有楽町マルイにて開催!詳細は特設サイト『ロアナプラ観光協会』に。

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