Febri TALK 2021.06.25 │ 12:00

広川恵一 作曲家

③作曲家としての青春
『Wake Up, Girls!』

音楽作家集団・MONACAに所属する作曲家・広川恵一に、影響を受けたアニメを聞くシリーズ連載インタビュー。最後を飾るのは、作曲家として携わったアイドルアニメ『Wake Up, Girls!』。

取材・文/日詰明嘉

やりたいことに挑戦できる、作曲家としての喜びを感じた

――『STEINS;GATE(以下、シュタゲ)』で深夜アニメを見始めた広川さんは、翌年にはもうアニメ音楽を手がける音楽事務所のMONACAに入ったわけですが、そのきっかけは?
広川 アニメの音楽をやりたいと思うようになったのですが、アニメ音楽とひと口に言っても、主題歌なのか劇伴音楽なのかによって、制作の方法がまったく異なるんですよ。僕は両方ともやりたいと思っていて、それができる会社を探していくなかでMONACAを見つけました。

――音楽事務所のカラーというのは、どのように決まっていくのでしょう?
広川 「MONACAっぽくしなくては」みたいな意識は、ほかの作家も持っていないと思います。ただ、「いいな」と思うメロディーや音の使い方や技術、そういった価値観はみんなで共有しています。だからそれぞれで音楽を作っていても、事務所のカラーみたいなものが自然とそろうんじゃないかなと思います。

――MONACAに入って、歌ものもやってみたいというアピールをしたのでしょうか?
広川 そうですね。最初から言っていました。アシスタントをしつつ勉強する期間が1年くらいあったのですが、その後、『Wake Up, Girls!(以下、WUG)』のお話が来て、参加をさせてもらえることになりました。

――それまでアイドルソングはよく聞いていましたか?
広川 モーニング娘。は流行っていたから聞いていたのですが、アイドル文化みたいなものは自分の近くにはありませんでしたね。

――そんななかで、『WUG』にチャレンジするのはどんな気持ちでしたか?
広川 この作品は独り立ちをさせてもらって、かなり初期の作品でしたので、うれしかったし、気合も入っていましたね。最初は「こういう曲を作ってください」というオーダーに従って書いていくわけですが、だんだんとそれだけでは物足りなくなって、中盤以降はかなり考えて、工夫しながら曲を作っていきました。

――作曲家としても成長のプロセスを踏んでいったわけですね。
広川 そうですね。メディアミックス的なアイドルユニットで、声優の子たち自身も現実世界で成長していくんです。なので、最初の頃は難しい曲は避ける必要があったのですが、彼女たちのパフォーマンス力が上がるにつれて、「次はこういう曲もできるんじゃないかな?」と挑戦できる曲にしました。そういうことを許してくれるプロデューサーでしたので、とてもやり甲斐のあるプロジェクトでしたね。

声優の子たちが

展開に合わせて成長していく

アニメと現実のリンクが魅力です

――素朴な疑問なのですが、作曲家としては歌うのが簡単な曲と難しい曲とで、どちらのほうが作りやすいといったことはあるのでしょうか?
広川 個人的に作っていて楽しいのは難しい曲ですが、作りやすさだと話はまた違ってきます。歌うのが比較的簡単な曲というのは、要はシンプルに作られた曲なんです。つまり、必要な部分だけを残して、それ以外を削ぎ落とす技術力が作曲家には求められます。なので、タイプが違えどもどちらの場合にも手ごたえがあります。あと、難度の話ではありませんが、自分が前々からやってみたかったことに挑戦できると、作家としては喜びを感じますね。

――『WUG』においてもそういったトライはありましたか?
広川 はい。主人公たちのライバルグループとしてI-1clubというグループがいて、僕はどちらにも曲を書いたのですが、途中から音楽面でも対比を作っていこうと考えたんです。WUGはクラシカルな要素を重視した音楽が中心であったことに対して、I-1clubはブラックミュージックの要素を入れてみました。それを試したときに音楽プロデューサーがとても喜んでくれたので、次の曲からはその対比をどんどん濃くしていきました。そういうことができたのは、理解のあるプロデューサーのおかげです。

――『魔法陣グルグル』や『シュタゲ』は小学生や大学生の頃に見た作品でしたが、『WUG』は仕事として関わった作品です。どのようにご覧になりました?
広川 『WUG』も普通にファンでしたよ。仕事で関わっている分、ちょっとコソコソはしていましたけど、仙台のライブにお呼ばれしたときには、ファンの皆さんと同じように作中の舞台を聖地巡礼しました。あと、この作品はアニメやゲームの業界にもファンだとおっしゃってくれる方が多くて、『WUG』を通じて業界の友人も増えました。

――その方たちは、どんなところが気に入っていましたか?
広川 『WUG』はアイドル作品ではありますが、ただ美しいところやキラキラしている部分だけを見せるわけではなくて、挫折もきちんと描くんです。一般的にはアイドルの挫折のシーンって、次のステップアップの前振りみたいな感じで、その話数はやっぱり明るく締められるのが定番なのですが、『WUG』は本当に沈んだまま終わる回がけっこうあります。業界を知っている人からすると、むしろそこに引き込まれたんじゃないかなと思います。僕もそういった挫折とそこからの成長物語は好きですし、展開に合わせて声優の子たちもいろいろな経験を経て成長していくという、アニメと現実のリンクみたいなところが魅力でした。最後、声優アイドルとしての「Wake Up, Girls!」は解散するんですけど、会場がアニメのキャラクターたちが目標としていた、さいたまスーパーアリーナだったんです。そこに彼女たち自身もたどり着いてライブをするという終わり方もドラマチックでした。そういうことも含めてこのコンテンツに引き込まれていたんだと思います。

――さいたまスーパーアリーナのライブを、広川さんはどうご覧になりました?
広川 なんて言ったらいいんだろうな……。終わりの日という感じですかね。最後のアルバムは参加した作家がひとり1曲ずつ作るというもので、僕もそこに気持ちを全部詰め込みました。その曲が会場でパフォーマンスされたのを見て、「ああ、これで終わりだな……」って思いました。今振り返ると『Wake Up, Girls!』は社会人になってからの、そして作曲家としての青春時代だったなと思いますね。endmark

KATARIBE Profile

広川恵一

広川恵一

作曲家

音楽制作会社MONACA所属。1987年生まれ。神奈川県出身。東京造形大学大学院卒業。2012年より神前暁に師事する。主な代表作に、アニメ『Wake Up, Girls!』、『THE IDOLM@STER』シリーズなど。

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