Febri TALK 2022.09.30 │ 12:00

石田祐康 アニメーション監督/アニメーター

③憧れと同時に焦りも感じた
『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』

『雨を告げる漂流団地』が公開中の、石田監督にアニメ遍歴を聞くインタビュー連載。第3回で取り上げるのは、富野由悠季監督の『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』。なぜか繰り返し見てしまうという本作の魅力を、お気に入りのシーンを交えながらたっぷり語ってもらった。

取材・文/宮 昌太朗

『逆シャア』が含んでいる昭和の空気感が、すごく身に染みてくる

――3本目は『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア(以下、逆シャア)』ですね。ちょっと意外なセレクトだったのですが、見たのは社会人になってからですか?
石田 はっきりしないんですけど、子供の頃に一度、見た気がするんです。前回話に出てきた叔父か、それとも兄だったかが買ってきたプラモデルの説明書に、サザビーかνガンダムのイラストが描かれていた記憶があって。ただ、しっかり見たのは社会人になってからですね。たぶん『陽なたのアオシグレ』を作っていた頃に、Blu-rayを買って見たんです。プラモデル雑誌にνガンダムの作例が載っていて、それがえらくカッコよかったのもあって。あまりにカッコよかったので『陽なたのアオシグレ』の制作中に、その作例をコピーしてデスクに貼っていたくらいで。

――その作例がきっかけになってあらためてちゃんと見てみよう、と。
石田 それまでも折に触れ、シャアとアムロの間に何があったのか、みたいなことは、いろいろな形で見たり聞いたりしていたんです。だからこそあらためて見る機会を逃していたと思うんですけど、実際に見てみると……。なんというか、ジワジワくるんですよね。

――ジワジワですか?
石田 クライマックスにいたるまでの展開とか、それまで字面だけで知っていたことをあらためて映像で目にしたときのインパクトはもちろんあったんですけど、とにかくジワジワくるタイプの作品だったんです。しかも、それがどうしてなのか、なかなか言語化することができなくて――。ただ、なぜか作品を作り終えたときや制作中、疲れたときに『逆シャア』を見るようになったんです。

――あはは。どうしてなんですかね?
石田 それがよくわからないんですよね(笑)。ひとつあるとすれば、さっき話したようにνガンダムのデザインにあまりにも惹かれたのはやっぱりあると思うんです。「一度すべてを削ぎ落としたうえで、集大成としてできあがったこのデザインは、本当にすごいな」と。作品内の二項対立を象徴するものとして、νガンダムとサザビーは本当にカッコよくて、この時点でこんなに見事なものをよく実現させたな、と。

――メカのビジュアルに魅力を感じているわけですね。
石田 そうですね。加えて、作品全体に流れている世紀末的な雰囲気もすごくよくて。ちなみに自分は『逆シャア』が公開されたのと同じ1988年生まれなんですけど、そういうところも相まってなのか、この映画が含んでいる昭和の空気感みたいなものが、すごく身に染みてくる感覚があるんです。

シャアの情熱にシンパシーを感じて、ついつい見てしまう

――ドラマとしては、かなりややこしいことをやっている映画ですよね。
石田 そうですね。この映画の中のシャアって極端なキャラクターじゃないですか(笑)。「今までのどんな独裁者もやったことがない悪行ですよ」と言われながらも、それでも断行していく。その「一度、全部潰してやろう!」みたいな勢いが、仕事で疲れているときに見ると刺さるんです。このシャアの気持ちはちょっとわかるぞ、というか。

――あはは!
石田 僕は富野(由悠季監督)さんほどパワフルじゃないし、富野さんよりもスケールは小さいながらも同じように監督をやっていると、やっぱりどうしようもなさとか、不条理みたいなものを感じる場面があって(笑)。シャアには、ライバルであるアムロに対抗しようとか「見返してやろう」という子供じみたところがありますけど、あの情熱にシンパシーを感じて、ついつい見てしまうんです。

――すごく特殊な理由の気がします(笑)。
石田 ただ同時に、まわりに誰もツッコミがいない状態で、シャアみたいに暴走するのはマズいというのはわかるんです(笑)。アムロみたいなツッコミ役がいないと、たぶん本当にマズいことになる。だからこそ、アムロがカッコよく思えるんでしょうね。自分のそばにアムロのような役割を果たしてくれる人を置いておくのか、あるいは自分の中にアムロ的な何かを住まわせておくのか。隕石を落としてすべてを叩き潰したいっていう気持ちを、「それはエゴだよ!」といさめてくれる存在という。

――そういう葛藤があると。ちなみに好きなシーンはどこでしょうか?
石田 好きなシーンは多いですね。まずは冒頭、タイトルのところ。幌をどけると目隠しされたνガンダムがドーンと出てくる場面。ベタですね。それでこそ最初の頃は人質をとられたりしてそれほど活躍できなかったνガンダムが、出撃を重ねるごとに、どんどん新しい性能を発揮したり、主役機としての存在感が増してくる。さっき話したようなシャアをめぐる複雑なストーリーの一方で、子供の頃から続くメカ好きの気持ち、シンプルに「ヒロイックなメカの姿を見たい!」というこちらの要求にも応えてくれるんです。アムロと合わせて無敵の存在なんだという信頼感が充満していく。ファンネルがトライアングルバリアを貼る場面とか、今見てもすごい作画ですし。

――今はなかなか真似のできないレベルの作画ですよね。
石田 アクシズを押している場面も謎のシーンですけど、あれがいいんですよね……。あと、女性陣のキャラクターもいいんですよ。今の時代、ああいう風に描くことができるんだろうか?というところもあったりして(笑)。アムロやシャア、あとはハサウェイたちとのやり取りのひとつひとつが、なんというかすごく濃い。シャアの半分愛人、ナナイとの画面の背後にまで感じられる関係の深さとか。アムロが部屋から出てくるのをチェーンがずっと待っている場面とか、オーバーラップでどんどん時間が経っていくのがわかって「そんなに待ってるのかよ!」と、ちょっと時代性も感じたり。富野さんは当時こういうのもなにげに好きだったのかな?とか(笑)。あとは最近でも話題のハサウェイの女性関係の危うさ……とか(笑)。endmark

KATARIBE Profile

石田祐康

石田祐康

アニメーション監督/アニメーター

いしだひろやす 1988年生まれ。愛知県出身。大学在学中に制作した短編「フミコの告白」で数々の賞を受賞。2018年に森見登美彦の同名小説を原作にした初の長編作『ペンギン・ハイウェイ』を発表し、大きな反響を呼ぶ。最新長編『雨を告げる漂流団地』が公開中。