Febri TALK 2022.09.26 │ 12:00

石田祐康 アニメーション監督/アニメーター

①超絶メカアクションに圧倒された
『交響詩篇エウレカセブン』

気鋭のアニメ監督として、最新作『雨を告げる漂流団地』を公開したばかりの石田監督に、そのアニメ遍歴を聞くインタビュー連載。幼少期からメカに首ったけだったと話す石田監督が「自分たちの世代のアニメだ」と語る、その理由は?

取材・文/宮 昌太朗

「これが俺たちの世代のアニメだ!」という感じがありました

――まず初めにアニメとの出会いから伺いたいのですが、子供の頃に見ておぼえている作品というと何がありますか?
石田 3~4歳のときに親の部屋で背中越しに覗いて見ていた『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』ですね。サイサリスだったっけな、えらくごっついガンダムが出てきたと思うんですけど、それが怖かった記憶があります。あとは『AKIRA』もすごく怖かった。これも親が見ていたのを、おっかなびっくり見ていて……。今は作り手として「すごい!」と思いながら見ていますけど、当時はそういう怖さが勝っていて。あと、毛色がちょっと違うところでいうと『笑ゥせぇるすまん』も印象に残っています。これも親の部屋に行ったときにテレビでかかっていて、暗い画面と表情が怖かった記憶があります。

――どれも怖い映像としておぼえているんですね。
石田 言われてみると、たしかにそうですね。だからといって怖いのが好きかというと、そんなことはなくて。ただ、印象に残っているという意味では、共通していますね。自分から意識的に選んで見始めるようになるのは、それから少し経って、保育園の年長組か小学生の低学年の頃かな。『ドラゴンボール』や『トムとジェリー』、『ドラえもん』とか。『ドラえもん』は世代的にもとくに旧劇場版が好きでした。あとはやっぱりジブリですね。その中では『天空の城ラピュタ』がいちばん大好きで、ビデオに録画したのを繰り返し見ていました。それこそ、一時停止して絵を模写するくらいに。

――そのあたりはもう、今のお仕事に直結しているかもしれないですね。今回、選んでもらった作品の話に移りたいのですが、1本目は2005~2006年に放送された『交響詩篇エウレカセブン(以下、エウレカセブン)』です。
石田 今回、お話をもらって真っ先に思い浮かんだのが『エウレカセブン』でした。というのも、ティーンエイジャーのときにいちばん影響を受けた作品なんです。ちょっとややこしい話になるんですけど、小学校の高学年くらいからゲームにハマり始めて、その中でもとくにハマっていたのが『アーマード・コア』だったんです。

――フロム・ソフトウェアから発売されたロボットアクションゲームですね。カスタマイズしたメカに乗って戦うという。
石田 そうなんです。さっきちらっと話に出ましたけど、僕は『ガンダム』も好きで――それこそ世代的にはまず『機動武闘伝Gガンダム』や『新機動戦記ガンダムW』を通ってきたんです。で、そこからもうちょっと背伸びしたいな……と思っていたときに出会ったのが『アーマード・コア』だったんです。それこそあらゆる要素をクリアしてバグ技まで開拓したり、画面を一時停止してメカを模写したり、めちゃくちゃハマったんですけど、このメカをデザインしたのは誰なのか、気になって調べてみると、河森正治さんのお名前が出てきて。

――なるほど、河森さんは『エウレカセブン』の主人公メカ・ニルヴァーシュのデザインも担当していますよね。
石田 そうなんです。たぶんアニメ誌か何かでそのことを知って「こんな新しいアニメをやるんだ!」と。しかもニルヴァーシュのデザインを見ると、ボードみたいなのを持っており、これはいつものロボットアニメとは違うぞ、と。そんな興味から見始めたんですよね。

――実際、見てみていかがでしたか?
石田 第1話から見事に持っていかれました。タイトルに入る前、アバンパートの空中戦でいきなりカットバックドロップターンを決めるあたりもすごかったし、なによりメカがサーフボードに乗って戦う新規性ですよね。しかもただ珍しいだけじゃなくて、ちゃんと作品の世界観にも合っている。あとシリーズの途中から、ニルヴァーシュのライバル役としてジ・エンドという機体が出てくるんですけど、その初登場シーンがめちゃくちゃカッコいいんですよ。デザインだけでなく動きそのものがあまりにカッコいいので「将来、こういうものを描いてみたい」と思ったくらい。なので、自分でもアニメーションをやりたいと思ったきっかけのひとつが『エウレカセブン』なんです。

「自分たちが欲しいもの」を見せてくれた『エウレカセブン』

――まさに石田監督の原体験なんですね。
石田 メカのカッコよさだけだったら、これほど自分の中に残る作品にはならなかったと思うんです。『エウレカセブン』はメカだけじゃなくて、やっぱり総合的によく練られていたんですよね。吉田健一さんがキャラクターデザインを担当されていますけど、回が進むごとにキャラクターの良さに惹き込まれていって。もちろん、1話目からじいちゃんの絵なんか見てもこれは何か違うぞ、とも感じていて。同世代と話をしていても、吉田さんの絵が持っている線やシルエット、美的感覚みたいなものを共通体験として持っている人が多い。なんというか『エウレカセブン』は、自分たちが当時「欲しい」と思っていたものを抽出して見せてくれた感じがあったんです。

――なるほど。
石田 世界観設定にしても、SF異世界なのに作中で使われている言語があえて日本語だったり、バイクなどのアイテムや室内デザインも凝っているんですよ。あとは当然、音楽。日常の音楽もいいんですが、戦闘シーンの見せ場で劇的な音楽がかかって、これはもう盛り上がらざるをえないだろう、みたいな。印象的だったところを挙げ始めるとキリがないんですけど、でも「これが俺たちの世代のアニメなんだ!」という感じがありました。

――石田監督自身の作品に、影響はあると思いますか?
石田 その影響をまだ咀嚼しきれてはいないんですけど……。多くの才能が関わってひとつの世界観を作り上げる、その熱量というか情熱みたいなものですかね。あのとき、『エウレカセブン』から感じ取った熱量みたいなものを自分なりに生み出してみたい。ある意味、『エウレカセブン』は自分の中の基準や物差しのひとつになっているような気がします。endmark

KATARIBE Profile

石田祐康

石田祐康

アニメーション監督/アニメーター

いしだひろやす 1988年生まれ。愛知県出身。大学在学中に制作した短編「フミコの告白」で数々の賞を受賞。2018年に森見登美彦の同名小説を原作にした初の長編作『ペンギン・ハイウェイ』を発表し、大きな反響を呼ぶ。最新長編『雨を告げる漂流団地』が公開中。