Febri TALK 2022.09.07 │ 12:00

岸誠二 アニメーション監督

②数字を叩き出す覚悟で挑んだ
『Angel Beats!』

オリジナル作品から『Persona4 the ANIMATION』といった人気原作ものまで、幅広い企画を手がけるヒットメーカー・岸誠二が、そのキャリアの転換点となったアニメを振り返る全3回のインタビュー連載。第2回は人気ゲームクリエイターと「覚悟」を持って取り組んだ大ヒット作を語る。

取材・文/前田 久

これ以降の自分の作品づくりは、麻枝さんに影響されている

――2本目は『Angel Beats!』です。ゲーム業界で活躍していたクリエイターである麻枝准(まえだじゅん)さんの、オリジナルアニメ初挑戦作品でした。
 これも後の自分の作品につながるスタッフたちが集まった作品ですが、このときは「意地でも数字を叩き出す」ことを目標にしました。何が何でも売ってやる、の一点突破で、麻枝さんと心中する覚悟で作りました(笑)。多少無茶でも、売れるシーンになるなら死んでも映像にしてやる、と。今思えば、よくやれたなと思います。銃撃戦をやって、ライブをやって、コメディもやって……という詰め込みよう。今だったら「絶対無理です」と返していたし、現場からも言われてしまうでしょう。それをなんとか成立させるべく、現場を巻き込んで、大変な騒ぎを起こしながら作りました。

――「心中する覚悟」とは穏やかではないですね。
 麻枝さんの書いてくるものはすごく面白いのですが、アニメの脚本として考えると「行儀が悪い」。でも、そんなことは知ったこっちゃない、「これが麻枝さんのやりたいことなんだ!」と腹を括って映像に落とし込む。そういう「覚悟」ですね。大変だけど、面白かったですよ。あり得ないような展開やシチュエーションが登場しますし、そもそもの麻枝さんのスタンスも、普通のアニメの脚本家とは違う。麻枝さんの持つプロデューサー的な目線も勉強になりました。後々の自分の作品づくりは、麻枝さんに大きく影響されている気がします。「今、お客さんが何を求めているのか?」という部分を、ものづくりの指針として明確に意識するようになりました。P.A.WORKSの現場的には、あれだけの修羅場はそうそうなかったと思いますけどね。よく耐えてくれたな、というのが正直なところです。あと『Angel Beats!』では編集の高橋歩さんとの出会いも大きかったですね。この作品で初めてご一緒して、それ以降、お願いできる限りはとにかく参加していただいています。

――高橋さんの編集は何がどう、岸監督にとって重要なのでしょう?
 どんな作品でも、的確な尺(映像の長さ)の取り方、間の取り方ができる。引き出しがたくさんあるんです。言い換えると、監督とほぼ同じ目線で作品を見ることができて、何を軸にして映像を切っていくのかがすぐに判断できる人です。作業の段取りも早いですし、とにかく優秀ですね。『Angel Beats!』はとくに「これだけの内容は、どう考えてもこの尺に入らないよね?」ということが多かったんですが、こちらからのオーダーは「とにかく叩き込みましょう!」でした。普通のテンポでやっていたら絶対に入らない。ギャグは『瀬戸の花嫁』のようにテンポよく走り、ドラマ部分は尺がないんだけれども、あるように見せてほしい。そう考えてギリギリを走りつつ、詰め込めるだけ詰め込んだ作品でした。それって普通の編集のやり方だと絶対にできないんですよ。「これじゃ入りませんね」で終わってしまう。でも、高橋さんは「じゃあ、なんとかしてみます」と応えてくれて、実際になんとかしてしまう。同じような仕事をしてくれるのはもうひとり、当時AICにいた櫻井崇さん(現在は颱風グラフィックス代表)くらいでした。編集は作品のクオリティを大きく左右するポジションなので本当に大事で、当時も今も、私の作品ではおおいに助けてもらっています。

普通のテンポでやっていたら

尺に入らないほどの内容を

詰め込めるだけ詰め込んだ

――本作以降、監督の作品の常連になる方だと、声優の緒方恵美さんもですよね。
 そうですね。このときは音響監督の飯田里樹さんの紹介でした。初めて緒方さんの芝居を聞いたときはしびれました。第6話から登場する直井文人というキャラクターを演じてもらったのですが、こいつは「どんなキャラやねん!」と思わずつっこんでしまうほどに情緒不安定なのに、緒方さんが声を当ててくれたおかげで一定の説得力が出たんです。よくこのキャラを説得力のある芝居に落とし込めたな、と。アフレコのとき、他の声優さんたちから「このままだと情緒不安定なキャラになりませんか?」と質問されて、「情緒不安定でいいんです!」と返すやりとりをよくしていたんですよ。当たり前の話ですが、お芝居ができる方はセリフとセリフのつながりを気にしてくれます。そうした違和感を芝居でなくしてくれるくらい、キャスト陣も強力な人がそろっていて、そこにも救われた作品でした。とりわけ緒方さんには本作以来、ことあるごとに出演を頼んでいます。変な言い方ですが、私にとっては難しい役を気軽に頼める存在ですね。

――各話の絵コンテ・演出のスタッフも豪華でした。
 若い方もベテランも含めて、強力なメンバーが集まってくれました。橋本裕之さん、柿本広大くんをはじめ、この作品に関わったあとに監督になる人がたくさん出てきました。自分の考えがはっきりとあって、映像設計ができる優秀な演出家がそろっていた。それ以外にも優秀な人たちが参加していて、変わったところだと現在は3DCGの制作会社の責任者になっている人がいたりします。参加スタッフの多くが、「(自分の)ターニングポイントになりました」と言ってくれる作品ですね。endmark

KATARIBE Profile

岸誠二

岸誠二

アニメーション監督

きしせいじ 株式会社ロジスティックス取締役、同社アニメーション事業部チーム・ティルドーン代表。アニメーション監督。主な作品に『天体戦士サンレッド』『結城友奈は勇者である』シリーズ『月がきれい』『暗殺教室』『ケンガンアシュラ』『犬と猫どっちも飼ってると毎日たのしい』など。大会に出場するほどのボディビルダーとしての一面も持つ。