Febri TALK 2022.08.24 │ 12:00

イムガヒ アニメーション監督

②小さき者たちの物語
『絶対無敵ライジンオー』

『アイカツ!』シリーズなどで各話の演出家として活躍し、『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』の副監督を経たことで注目度上昇中のイムガヒ。そのルーツとなる作品を語るインタビュー連載の2回目は、繰り返し見たキッズ向けロボットアニメの名作について。

取材・文/前田 久

ひとりひとりがその世界の住人として存在している

――2作目はガラッとおもむきを変えて『絶対無敵ライジンオー(以下、ライジンオー)』です。韓国でもテレビ放送されていたそうですが、知ったきっかけはそれですか?
イム それがおぼえていなくて。テレビで見たのか、レンタルビデオショップで借りて見たのか。とにかく気がついたら、めっちゃ好きになっていました。夏休みで学校がないと、やることがないからしょっちゅうアニメを借りて見ていたんです。そうやって触れた作品がいろいろあって、でも、その中でも『ライジンオー』だけは特別。最終話まで見たらまた第1話にさかのぼって、繰り返し見ていた作品です。

――それはかなりの刺さり方ですね。どのあたりがツボだったんでしょう?
イム まず、学校が変形するところですね。今見てもあの表現はたまりません。

――見慣れた場所が変形して基地になる、いいですよね。変形バンクでほうき入れに入るところとか、よく真似したくらい最高でした。
イム ね! 本当にいい。しかもあのバンクって、第1話だけは初めての変形だから、キャラクターの表情がとまどったものになっている。バンクなのに、バンクじゃない。それに気がついたとき、先輩方すごいなぁ!って思いました。夏休みになると、バンクでも教室からモブのキャラがいなくなるし、バンク管理はかなり大変だったんじゃないかと思います。でも、そういうところにちょっと気を使うだけで、作品の「リアルさ」が際立つんですよね。現実離れした変形が「ひょっとしたらあるかもしれない」と思わせるくらいのものになる。

――アニメらしい現実から飛躍している部分と、地に足のついた描写のバランスが面白いですよね。授業への出席にこだわってみたり。
イム そうそう(笑)。先生が「宿題ちゃんとやれよ」みたいなことを言ったり。

――ロボットアニメのフォーマットに則ったルーティーンもありながら、単に同じものを繰り返しているように見せないために、何かしらの工夫を入れている。
イム それでいうと、敵の五次元人たちも毎回出方が変わるじゃないですか。その仕組みも面白いなって思っていました。流れは毎回、アークダーマが「迷惑」という言葉を拾って邪悪獣になって、暴れて、それをライジンオーが戦って倒して終わり……と一緒なんですけど、細かいところの見せ方で印象に差がついている。そのちょっとした差の作り方が本当に面白くて、繰り返し見ちゃうんですよね。ライジンオーに乗るパイロットは一応3人で固定ですけど、5年3組という小学校の1クラスが、みんなで「地球防衛組」みたいなチームの扱いになっているのも面白いです。しかも、クラスの全員をちゃんとひとりずつフィーチャーしたお話をやるじゃないですか。

――クラスの中で目立つ子、スター性のある子だけじゃなくて、地味な個性の子たちにもスポットが当たりますよね。
イム しかもただスポットが当たるだけじゃなくて、ひとりひとりちゃんと役割がある。「この子がいないと変身ができない」とか。そういうキャラクターの見せ方が、じつは『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』とちょっとつながっていると思うんです。

話の流れは毎回同じなんだけど

細かいところの見せ方で

印象に差がついている

その差の作り方が本当に面白い

――どういうことでしょう?
イム 安彦(良和)さんはよく「小さき者たちの物語」ということをおっしゃっていたんです。アニメではひとりひとりがその世界の住人として存在していて、そこにドラマがあるのをちゃんと見せることが大事だと。『ライジンオー』はまさに、それができている作品なんですよね。そういうところが、今でも好きな理由です。

――ちなみにキャラでは誰が好きでした?
イム 選ぶのは難しいなぁ……子供の頃は(主人公の)仁が好きでした。あと(白鳥)マリア。

――そのふたりのラブコメ感、たまんないですよね!
イム そうなんです! キャラが好きというより、あのふたりのやりとりがたまらなくて。あの子たちが将来、ああなって、こうなるんだろうな……って、未来を想像しながら当時も見ていました(笑)。なんか、かわいいふたりだなって。

――……すみません。一瞬、インタビュアーじゃなくて、ただのファン状態になってしまいました。
イム いえいえ、私もただのファンの心でこんな話を(笑)。『ライジンオー』の話をすると、やっぱりただのファンに戻ってしまいますね。サンライズでずっとお仕事をやらせていただいていることもあって、サンライズにはぜひまたこういう作品をやってほしいなって、ずっと思っているんです。子供たちが日常とつなげて、夢を膨らませられるようなもの。『アイカツ!』のときにちょっとだけそういう経験ができて、やっぱりキッズ向けはいいなって思ったんです。機会があったら、自分でもやってみたいですね。

――見てみたいです、イムさん監督のキッズ向けロボットアニメ。
イム いつかは関わってみたいです。監督じゃなくてもいいので、そういう企画があったら、なんでもいいからお手伝いをしたいと思っています。endmark

KATARIBE Profile

イムガヒ

イムガヒ

アニメーション監督

イムガヒ(林 嘉姫) 1988年生まれ。韓国出身。来日後、サンライズ(現:バンダイナムコフィルムワークス)に入社、撮影部門へと配属されるも演出を志望して異動。『アイカツ!』の制作進行を経て『ガンダムビルドダイバーズ』などの演出を担当。『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』では副監督として抜擢された。