Febri TALK 2022.08.26 │ 12:00

イムガヒ アニメーション監督

③演出家としての原点
『アイカツ!』シリーズ

『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』の副監督で注目のイムガヒ。監督作『テクノロイド』も期待の彼女が、ルーツとなったアニメ作品を語るインタビュー連載のラストは、演出家としてイチからすべてを学んだ現場である、女児向けアイドルアニメの傑作を振り返る。

取材・文/前田 久

やはり私の仕事の原点は『アイカツ!』シリーズだなと思った

――最後の一作は、自身が関わった『アイカツ!』をシリーズ全体として選びましたが、その理由を聞かせてください。
イム サンライズで最初は撮影として仕事を始めたんですけど、上がっている素材を見ているうちに、そうした素材がどうやって作られるのかが気になり始めたんです。それで、もっと根本的なところから仕事がしたいと先輩方に相談してみたら、「それは演出に興味があるということなのでは?」と教えてもらって。撮影から演出にそのまま進む人もいるんですけど、「演出を目指すなら制作進行を一度経験してみるといいよ」とアドバイスされたこともあって、まずはその道に進むための転属願いを出したんです。それで配属されたのが『アイカツ!』班だったんですよね。で、何本か制作進行として現場を回したあとで「設定制作に空席ができたんだけど、やってもらえない?」と、設定制作の先輩から声をかけられて……。

――ドキドキですね。
イム 最初「……やれると思います?」と返しました(笑)。設定制作は制作進行よりさらに責任重大で、シナリオ会議に参加して、設定の矛盾を指摘して会議をサポートしたり、設定が必要な美術やプロップを把握して発注しなくちゃいけない。まだ来日してから3年くらいしか経っていない人間に、そんな大変なやりとりができるだろうかと。でも、始めてみたら、皆さんがとても優しく支えてくださって。シナリオにも意見を出させてもらえたし、芸能関係のネタを集めたり、殺陣などの専門技術を調べるときは取材に立ち会わせてもらえたし、貴重な経験をたくさんさせてもらえました。そんな形で経験を積みつつ、空いた時間には絵コンテを描いて、それを木村隆一監督に見てもらっていたんです。木村監督もお忙しいのに、わざわざ見て、丁寧な赤ペンを入れてくださって。木村監督が赤ペンを入れてくださった絵コンテは、今でも全部取ってあります。仕事として絵コンテと演出をやれるようになったのは『アイカツスターズ!』からで、そこでは佐藤照雄監督に演出の基礎を学ばせていただきました。『アイカツ!』の現場にいた他の演出の先輩方に教わることもありましたし、制作進行として面識のできた他作品のスタッフの皆さんにも指導していただきましたけど、木村監督と佐藤監督にはとくにお世話になったと感じています。

今作っているものを

リアルタイムで見て

楽しみにしてくれている子が

いることがうれしかった

――『アイカツ!』の現場で得たもので、その後の自分の仕事にもっとも活きていると思うものは何ですか?
イム 「キャラを丁寧に描く」ところですかね。自分はアクションだとかメカだとか、何か演出家として特化した得意ジャンルがあるわけじゃない、基本的にはなんでもやるタイプです。その中で自分の強みとしてどんな要素を打ち出すかを考えていったとき、キャラのお芝居の丁寧さだと思ったんです。私は自分の作るフィルムにはこれといって演出家の「色」がないと思っていたんですが、見てくださった先輩方からは「今週の話数は芝居が丁寧に描かれていたね」とおっしゃっていただけることが多かったですし。でも、そう思いつつ最初は「丁寧って誰でもできることだから、そんなに強みにならないな」って思っていたんですよ。でも、その話を仲良くなったアニメーターさんにしたら「人によって『丁寧』のゲージは違っていて、イムさんの考える『丁寧』の基準は他の人と違う、イムさんの強みになっていると思うよ」と言ってくれて。それで少し心が軽くなったんです。『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』の仕事を請けられたのも、その言葉の影響がちょっとありました。そう考えると、やはり私の仕事の原点は『アイカツ!』シリーズだなと、あらためて最近思ったんですよね。

――ラインがつながっていますね。
イム 最初の『アイカツ!』は、2期に入ったときの世間での盛り上がりもスゴかったですよね。プロデューサーさんが「今、コンビニの前で、『アイカツ! アイカツ!』って掛け声で走っている子がいたよ」なんて教えてくれたことがあって、そのあと自分でも、街の子供が「『アイカツ!』の時間だから帰る!」って友達に言って、走り去っていくのを見たんですよ。ものすごく感動しました。今作っているものをリアルタイムで見て、楽しみにしてくれている子がいて、その現場に自分が携われていることが本当にうれしかったんです。

――昨今そうそうできる経験ではないですよね。
イム 自分が監督を務める『テクノロイド』のキャラクター原案を手がけるLAMさんも『アイカツ!』がお好きだったそうですし、テレビ東京の関係者の皆さんとも、バンダイの関係者の皆さんとも、今でも関係がつながっています。それに今年の7月に公開された『劇場版アイカツプラネット!』と同時上映の『アイカツ! 10th STORY ~未来への STARWAY~』で演出をやったんですよ。無印の『アイカツ!』では演出になる夢を持っていただけの、絵コンテを描いては裏で監督に見てもらうだけの人間だった自分が、10年経って木村監督の絵コンテで演出に関われて感無量でした。ここまで深く、ひとつのシリーズとの関係が続くことはなかなかないんですよ。関わった皆さんの愛が本当に深くて、その現場の輪の中にいられたのは、ラッキーだったなとつくづく感じます。endmark

KATARIBE Profile

イムガヒ

イムガヒ

アニメーション監督

イムガヒ(林 嘉姫) 1988年生まれ。韓国出身。来日後、サンライズ(現:バンダイナムコフィルムワークス)に入社、撮影部門へと配属されるも演出を志望して異動。『アイカツ!』の制作進行を経て『ガンダムビルドダイバーズ』などの演出を担当。『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』では副監督として抜擢された。

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