クールで強くて、悲劇的な背景を抱えたドンピシャなヒーロー
――中島さんは1959年生まれなので、最初のアニメブームとともに育った世代ですね。
中島 物心がついた頃には『鉄腕アトム』を見ていたので、まさに庵野秀明さんたちと同じオタク第一世代です。『鉄腕アトム』や『鉄人28号』は途中からでしたが、『ウルトラQ』や『ウルトラマン』『仮面ライダー』あたりはリアルタイム。『スーパージェッター』や『遊星少年パピイ』も放送第1回から見ていましたね。
――まさにどっぷり浸かっていたわけですね。1本目は手塚治虫原作のアニメ『どろろ』ですが、これはいつ頃見ていたんでしょうか?
中島 1969年放送なので、10歳のときですね。子供の頃からヒーローものが大好きで、先ほど挙げた『スーパージェッター』や『遊星少年パピイ』、あとは『8マン』も大好きだったんですけど、一方で『マッハGoGoGo』はそれほどでもなかったんです。理由は単純で、戦わないから(笑)。あとカッコいいキャラクターがカッコいいことをやっているときに、カッコいい曲が流れるのも大好きでした。たとえば、『わんぱく探偵団』だと怪人二十面相が活躍するシーンで「怪人二十面相はうたう」という曲が流れるんですが、これがすごくカッコいい。でも、途中で転調したりして、子供が歌うには難しい曲だったんですよ。
――なるほど。
中島 そういう中で「これだ!」と思ったのが『どろろ』の「百鬼丸のテーマ」でした。この曲がバックに流れている中で妖怪退治をする、というのにすごくしびれたんです。少しあとになりますが、『マジンガーZ』で「Zのテーマ」が流れて出撃するシーンもすごくよかったし、『帰ってきたウルトラマン』の「夕陽に立つウルトラマン」、あとは『必殺仕掛人』なんかはその最たるものですね。こういうときにこの曲を流すと決めているのはいったい誰なんだろう?と。おそらく監督じゃないんだろうな……と思いながら『マジンガーZ』のスタッフロールを見ていて「選曲/賀川晴雄」というクレジットに気づくんです。で、将来、僕はこの仕事に就きたい、と。
――カッコいいシーンでカッコいい曲を流す仕事がしたい、という(笑)。
中島 そういう自分の性癖みたいなもののきっかけになった作品が『どろろ』だったんだな、と。『どろろ』はなにより、百鬼丸が原作よりも断然カッコよかったんですよね。造形がとても美しくて、原作よりもグッと大人の雰囲気がある。加えて、野沢那智さんが声を当てていらっしゃるので、もう間違いないわけです(笑)。クールで強くて、悲劇的な背景を抱えている百鬼丸は、自分にとってドンピシャなヒーローでした。とくに最終回はすごくよくおぼえていて、Aパートでどろろと別れたあとの百鬼丸が、どんどんバケモノを退治していく。そのバックには「百鬼丸のテーマ」が長めに使われていて「やったー!」と思いながら見ていました。じつは『キルラキル』の喧嘩部のエピソード(第七話「憎みきれないろくでなし」)で、纏流子(まといりゅうこ)が相手をどんどん倒していくときのテンポ感は『どろろ』の最終回をイメージしていて、打ち合わせでもそういう話をしましたね。案の定、まわりのスタッフはポカンとしていましたけど……。
百鬼丸には、手塚マンガならではのエロティックな部分がある
――そうだったんですね!(笑) アニメの百鬼丸は、ちょっと劇画っぽい雰囲気があってカッコいいですよね。
中島 北野英明さんがデザインしていますからね。『どろろ』って話の設定はすべて百鬼丸のほうにあるじゃないですか。たぶん、手塚さんは「主人公は少年でなければいけない」と考えて、どろろを主人公に据えているんだと思うんですが、百鬼丸の設定があまりに面白すぎたんですよね。天下取りを願った父親の醍醐景光(だいごかげみつ)に魔物への生贄(いけにえ)として捧げられた結果、目も鼻も手足もない赤ん坊として生まれてしまう。その後、成長して魔物に奪われた身体の部位をひとつずつ取り戻していき、そして最後には父殺しをしなければいけない、という。まさに「神話」なんですよね。
――最近でも湯浅政明監督の『犬王』をはじめ、『どろろ』を想起させる作品は多いですね。
中島 僕も『野獣郎見参』という作品を書いたときには、どこかに百鬼丸のイメージがありました。とはいえ、あくまでも百鬼丸から着想を得ただけで、安倍晴明や陰陽師の話になったので、結果的にはだいぶ違うものになっているんですが……。『野獣郎見参』のチラシは石川賢さんにイラストをお願いしているんですが、石川さんも『5000光年の虎』で身体がバラバラになった主人公を描いていますね。あれは『どろろ』というよりは『虎よ、虎よ!』っぽいですが。あと手塚さんの描き方が、どこかエロティックなんですよね。自分の身体を取り返すたびに、百鬼丸がすごく苦しむ。その姿が、子供の目からするとどこかエロティックに映ったんです。
――『どろろ』に限らず、手塚治虫のマンガにはどこかサディスティックな快楽が潜んでいる感じがありますね。
中島 同じ手塚さんが描いた『ビッグX』の第1話を雑誌で読んだときに、主人公の祖父が巨大化する薬の製造法を記したカードを手術で息子の身体に埋め込む描写があるんですが、そのシチュエーションが、子供心にすごくエロティックに思えたんです。具体的にそれがどうしてなのかは自分でも説明がつかないんですが、たぶん百鬼丸にも同様のにおいを感じたんだと思います。
KATARIBE Profile
中島かずき
脚本家
なかしまかずき 1959年生まれ、福岡県出身。編集者として働くかたわら、劇団☆新感線の座付作家としても活躍。2004年に『Re:キューティーハニー』で初めてアニメの脚本を手掛ける。最近の主な参加作に『BNA ビー・エヌ・エー』『バック・アロウ』など。