Febri TALK 2023.01.25 │ 12:00

中島かずき 脚本家

②ロボットアニメにリアルを持ち込んだ
『無敵超人ザンボット3』

インタビュー連載の第2回では「監督・富野喜幸(現:由悠季)」の名前を鮮烈に印象づけたロボットアニメの名作が登場。70年代後半、田舎に住んでいた中島少年はどんな思いでアニメを楽しんでいたのか。そのあたりの事情を交えながら、当時の熱狂を聞く。

取材・文/宮 昌太朗

アニメを見るのに「理論武装」が必要だった頃

――第1回で挙がった『どろろ』のあとも、マンガやアニメを見ていたのでしょうか?
中島 そうですね。前回、オタク第一世代という話をしましたが、小学校を卒業する頃に『マジンガーZ』と『帰ってきたウルトラマン』『仮面ライダー』が始まるんです。このあたりは家で見ていてもギリギリ親から白い目で見られずに済んだんですけど、これが中学生になるとひとつフェーズが変わるわけです。

――親の目だったり、周囲の目が気になるようになってくる。
中島 中学に入ったあたりは『ウルトラマンA』や『変身忍者 嵐』『サンダーマスク』など、特撮ヒーローものが増えた時期で、しかも『テレビマガジン』が創刊した頃でもあるんです。そうなると「ちくしょう!」と思うわけですよ。俺が小学生だったら全部見るのに、と(笑)。見たいものは見たい。だけど理論武装をしながら見ないと、周囲の目に耐えられないわけです。だから中学3年生のときに『宇宙戦艦ヤマト』が放送されると、ちょっとホッとしました。これは中学生が見ても恥ずかしくないアニメだぞ、と。

――ちょっと大人っぽい雰囲気があった。
中島 少し話はさかのぼるんですが、小学生の頃、叔母さんの家に遊びに行ったときに貸本屋から借りてきた『ハレンチ学園』を読んでいたら、その叔母さんに「かずきちゃん、ちょっとここに座りなさい」と呼ばれて。そして「あなたは何というマンガを読んでるの!」と怒られたんです。親にも怒られたことがないのに。

――あはは。
中島 その後、中学生になって、さらに高校に進むと演劇部に入って部長をやっていたのですが、土曜日も練習がある。ところが、当時楽しみにしていた『超電磁ロボ コン・バトラーV』が土曜日の18時からの放送だったんです。最終回はなんとしてでも見たかったので、その日は「部長特権」で稽古を早じまいして、意気揚々と家に帰りました(笑)。ところが帰宅したら、先ほど話に出てきた叔母さんが遊びに来ていたわけですよ。

――これは困ったことになったぞ、と。
中島 もうさすがに怒られはしないと思いましたけど、白い目で見られるのは間違いない。でも、稽古を早く終わらせた手前、演劇部の部員たちのためにも、17歳当時の中島少年は歯を食いしばってでも『コン・バトラー』の最終回を見ないわけにはいかないんです(笑)。

――覚悟を決めて(笑)。
中島 で、あの最終回ですよ。「これ、ありなのか」と当惑しているところに叔母さんがひと言、「かずきちゃん、よかったね」と。……なまじ責められるよりつらいよね(笑)。

――その「よかったね」の裏には、いろいろなニュアンスが含まれていますよね(笑)。
中島 高校生だから、さすがにそれくらいはわかりますよ! あとは『グレートマジンガー』でも、グレートマジンガーと暗黒大将軍の決戦の回に限って親父の友達が家に遊びに来て、お茶の間に居座っていたりする。これはさすがに見られない……と思って、自分の部屋でベッドを叩きながら悔しがったりとか。まあ、そんな具合に、当時の田舎の中高生は苦労しながらアニメを見ていたんですよね。

ロボットアニメでもこんなにカッコいい作品ができるんだ

――あはは。そんな高校時代の中島さんが見ていたのが、2本目の『無敵超人ザンボット3(以下、ザンボット)』。富野由悠季監督のTVシリーズですね。
中島 高校3年生のときかな。高校3年でアニメを見ているのもけっこう厳しかったんですけど(笑)、やっぱり第5話(「海が怒りに染まる時」)が印象的でしたね。敵であるガイゾックのメカ・ブーストがやって来るという描写があるんですけど――それまでのアニメだったら、一般人も「メカ・ブースト」と呼んでいただろうし、いったいその名称は誰が浸透させたんだろう?と疑問に思うところなんです。でも、『ザンボット』では街の人々は「怪物が来た」としか言わない。しかも、戦闘で巨大なモノが海に落ちて、その結果、津波が起きる。それによって一般人が被害に遭うわけです。で、主人公・神勝平(じんかっぺい)のライバル的な立ち位置だった香月真吾(こうづきしんご)が「お前らが悪いんだ」と、神ファミリーに反感を抱く。その流れが極めてリアルだったんです。言い換えるなら、巨大ロボットが戦うという、極めて子どもっぽい世界にリアルな文法を持ち込んでいる。その既成概念のひっくり返しに「俺たちが見てもいいアニメがここにある」というか、少なくとも自分自身に対して見続けるための言い訳が立つ作品だ、と(笑)。

――そういう衝撃があった。
中島 まさしく目からウロコでした。ロボットの造形も、ザンボエースという戦闘機がロボットに変身して、その上でさらに変形・合体してザンボット3になる。それがすごく斬新でカッコよくて。『宇宙戦艦ヤマト』のときは戦記物というか、大人のフレーバーでごまかせる部分があったんです。その一方で巨大ロボットアニメには「子供向け」というレッテルが貼られていて――そういうジャンルでも、こんなにカッコいいアニメができるんだ、と。それが親や周囲の目の白い目を耐え忍んできたオタク少年にとって、救いになったんですよね。

――『ザンボット』から直接、影響を受けているところはありますか?
中島 既成概念のひっくり返しみたいなものは追求しているつもりです。そういう意味で『ザンボット』に通じるところがある……と、自分では思っていますね。

――ちなみに好きなキャラクターというと?
中島 ロボットだったら、ザンボット3かな。主人公の勝平には、それほど思い入れがあるわけではないし、当時ですら勝平の声を大山のぶ代さんが演じることに疑問がありました(笑)。僕の中では、大山さんというとドラえもんではなくて、『ハリスの旋風』の石田国松なんですよ。マンガ映画の男の子主人公にはぴったりなんですが、『ザンボット』のリアル路線とは毛色が違う気がして。

――あはは。
中島 なので、好きなキャラクターを聞かれたら、富野由悠季かなと思います(笑)。endmark

KATARIBE Profile

中島かずき

中島かずき

脚本家

なかしまかずき 1959年生まれ、福岡県出身。編集者として働くかたわら、劇団☆新感線の座付作家としても活躍。2004年に『Re:キューティーハニー』で初めてアニメの脚本を手掛ける。最近の主な参加作に『BNA ビー・エヌ・エー』『バック・アロウ』など。

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