Febri TALK 2023.04.03 │ 12:00

岡村天斎 アニメーション監督/演出家

①キャラクターのリアリティに惹かれた
『南の虹のルーシー』

『DARKER THAN BLACK』シリーズや『クロムクロ』など、ユニークな作品を数多く手がけてきた岡村天斎のアニメ遍歴をたどるインタビュー連載。その第1回は、学生時代に夢中になったという「世界名作劇場」の一作をピックアップ。その魅力と影響について、じっくり聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

ただの「いい子」ではないルーシーたちに魅力を感じた

――岡村さんは子供の頃から熱心にアニメを見ていたのでしょうか?
岡村 アニメ自体は好きでよく見ていたのですが、どんなものを見ていたのか、具体的なタイトルははっきりと思い出せないですね。当時はまだそれほど放送されている本数も多くなかったので、片っ端から見ていた感じでした。印象に残っている作品というと、『巨人の星』や『サスケ』でしょうか。

――アニメを意識して見始めたのは、どの作品からになるのでしょう?
岡村 『宇宙戦艦ヤマト』です。ただ、学校ではあまり話題になっていなかったかもしれないですね。あの頃はたしか『宇宙戦艦ヤマト』と『アルプスの少女ハイジ』、あとは『SFドラマ 猿の軍団』が同じ時間帯で放送されていて、クラスで人気があったのは『猿の軍団』だったんじゃないかな。じつは僕も『猿の軍団』を見ようと思っていたんですけど、ある日、テレビをつけっぱなしにしていたら『宇宙戦艦ヤマト』が始まって「なんじゃこりゃ!?」と(笑)。それが中学1年生のときですね。その頃は名作が本当に多くて、出﨑統監督の『ガンバの冒険』があって、高校に上がったくらいで『宝島』や富野由悠季監督の『無敵超人ザンボット3』を見て、『機動戦士ガンダム』が大学受験くらいの時期でした。

――今回、1本目に挙がった『南の虹のルーシー(以下、ルーシー)』ですが、これは大学生のときですか?
岡村 大学2年か3年でしたね。「世界名作劇場」の流れで見始めたんですけど、ストーリーにもハマりました。あと、キャラクターデザインを担当していた関修一さんの絵がすごく好きで、『ペリーヌ物語』あたりからずっと見ていました。当時のスタッフのキャラの解釈も好きでした。

――ストーリーのどんなところに魅力を感じたのでしょうか?
岡村 「世界名作劇場」の他の作品は、わりと主人公のキャラクターが「いい子」が多かったと思うんです。でも、『ルーシー』にはちょっとリアルな感じがあったというか。姉のケイトなんかも、嫌いなものは嫌いと言ってしまうけれども、根っこのところはきっといい子なんだろうな、と思えたんです。『トム・ソーヤーの冒険』のトムもそうですよね。

――なるほど。作品で描かれるリアリティが重要だったわけですね。
岡村 そうですね。大人たちの描き方もリアルで、どの大人も欠点をさらけ出してくる。ルーシーのお父さんはすごく厳格だけど、優しいよい父親なのですが、農園がもらえると聞いてオーストラリアに移住したのにうまくいかず、四苦八苦した挙句に結局、農園は手に入らず酒に手を出したりし始める。ルーシーたちの物語はそれとは関係ないところで進むんですが、そこもまた魅力的でした。子供たちは子供たちで毎回楽しく遊んでいて、お兄ちゃんが学校に行けなくて怒る、みたいな話が展開して。ウチの親父はまったくアニメを見ない人なんですが、『ルーシー』だけはどうも気になるらしくて(笑)。「あれはどうやって終わったんだ?」と聞いてきたことがありました。きっと何か、自分と重なるところがあったんだろうな、と思いますね。

オープニングの止め絵が、どれもすべてカッコいい

――岡村さんが手がけた作品に『ルーシー』の影響はありますか?
岡村 今のところはまったくないですね(笑)。あえて言うなら、僕はかわいい女の子が描きたくてアニメ業界に足を踏み入れたところがあるので、そこには影響しているかもしれません。とはいえ、アニメーターの仕事を始めてみると、キャラクターからどんどん離れてしまって、メカや物を描くほうにシフトしていったんですが……。

――そもそもの動機は「ルーシーのような女の子を描きたい」というところにあったわけですね。
岡村 その望みはしばらくかなわなかったですね。ようやく『YAWARA!』のあたりで「女の子がいっぱい出てきた!」と。

――なるほど(笑)。アニメ業界を目指すようになったのは、いつ頃のことだったんでしょうか?
岡村 それも大学生の頃ですね。大学では建築の勉強をしていたんですが、それが僕の中でしっくりきていなくて落ちこぼれ気味だったんです。そのタイミングで『SF新世紀レンズマン』というアニメ映画が作られていて。CGがたくさん使われていた作品なんですが、そのCGを制作していた会社(JCGL)で大学の友人がアルバイトとして働いていたんです。で、その手伝いとしてイメージボードを描いたりして。結局、そのイメージボードは使われなかったんですが、そこに出入りしていたときにプロデューサーの方にアニメーターになる方法を尋ねたことがあって「それならマッドハウスを紹介してあげるよ」と。

――ひょんなことからアニメ業界に足を踏み入れることになった。
岡村 当時は、そんな風に入ってくる人も多かったんです。いきなりスケッチブックを片手にスタジオを訪ねてきて「入れてください!」っていう人がいたりとか(笑)。JCGLにはビジュアル80という系列会社があって、そこは絵柄的に日本アニメーションに近かったんです。なので、個人的には「そっちのほうがいいなあ」と思っていたんですが……。

――今でも『ルーシー』を見返すことはあるのでしょうか?
岡村 何年か前にDVDを買って見返したんですが、やっぱり面白かったですね。オープニングは止め絵なんですが、どれもすべてカッコいい。そういえば、『トム・ソーヤーの冒険』もオープニングが面白かった記憶があります。『ルーシー』の監督をやられていた斎藤博さんは『巨人の星』にも参加されていたんですよね。『巨人の星』も少し前にDVDを買って見たんですが、荒木伸吾さんが作監の回の第一原画は斎藤さんがほぼ描かれていたらしく、それを知ってあらためて僕の好みの絵柄や演出スタイルの方だったんだな、と思いました。当時、もっとちゃんと追いかけていればよかったなと思いましたね。endmark

KATARIBE Profile

岡村天斎

岡村天斎

アニメーション監督/演出家

おかむらてんさい 1961年生まれ、福島県出身。マッドハウスに入社後、アニメーターとして活躍したのち、オムニバス映画『MEMORIES』の一編「最臭兵器」で初監督。主な監督作に『DARKER THAN BLACK -黒の契約者-』『青の祓魔師』『世界征服~謀略のズヴィズダー~』など。