Febri TALK 2023.04.05 │ 12:00

岡村天斎 アニメーション監督/演出家

②シンプルなのにリアルなレイアウトに驚いた
『妖獣都市』

岡村天斎のアニメ遍歴をたどるインタビュー連載の第2回は、自身もアニメーターとして参加した川尻善昭監督の『妖獣都市』。「とにかく絵を描けばいい」と思っていた岡村がショックを受けたという川尻監督のスタイルとは?

取材・文/宮 昌太朗

スタイリッシュな絵柄でつないだカットに「新しい流れが来た」

――大学在学中にマッドハウスに入社したということですが、当時のマッドハウスの雰囲気はどんな感じだったのでしょうか?
岡村 面白かったですよ。入った当初はお名前を知っている方はほとんどいなかったですが、今振り返ると「すごい」と思うような人がいっぱいいて。目にするのも、どれもすごい絵ばかりだったので、びっくりしていました。

――最初はやはり動画からですか?
岡村 そうですね。ただ、動画チェックの人がすごく厳しくて、なかなかOKがもらえなかったんです。で、ようやくチェックが通ってフィルムになった瞬間、CGかと思うくらい滑らかに動いて驚きました。自分で描いておきながら、なんですが(笑)。今思うと、当時の動画はレベルがすごく高かったんだな、と。そういう現場なので当然、いろいろなアニメーターの方の原画を目にするんですが、川尻善昭さんはやっぱりすごく目立っていて。梅津泰臣さんはまだあまり知られていない感じだったんですけど、他にも大橋学さんや新川信正さん、作画監督だと野田卓雄さんや大塚伸治さん、福島敦子さんもいらっしゃいました。あと、北久保弘之さんもいましたね。

――2本目は、その川尻さんが監督をした『妖獣都市』です。岡村さん自身もアニメーターとして参加していますね。
岡村 動画を2年くらいやって、ちょうど原画になった頃ですね。その前は『迷宮物語』や『カムイの剣』の動画をやっていて、初原画は『時空(とき)の旅人』なので、本当に原画を始めたばかりでアクションものの原画をまだ描いたことがありませんでした。『妖獣都市』はなによりラッシュ試写を見たときのショックがすごかったんです。

――ラッシュ試写というのは、出来上がった素材をいったん撮影して、それをチェックするための試写ですね。
岡村 「すごい作品を作っているぞ」という感じがしました。僕が作業を始める前から少しずつラッシュが上がってきていたんですが、最初に空港のシーンが上がってきて、それがすごくカッコよかったんです。アニメーションはこういうこともできるんだな、と。それこそ「新しい流れが来た」と思いました。

――それまでの作品とは、まったく違う感覚があった。
岡村 その頃までの僕は「描けば描くだけよくなる」と思って原画を描いていたんですが、決してそうではないんだなと。原画自体はワンカット・ワンアクション(※ひとつのカットで、ひとつの動きを描く手法)なんですけど、それをスタイリッシュな絵面でつないでいくんです。光やモヤの使い方も、それまで自分が考えていたのとはまったく違う感じでした。

いかに要素を引き算して、カットを成立させるかを教えられた

――動きで見せるというよりは、レイアウトやカット構成で見せていくスタイルですね。
岡村 そうですね。この作品の前に川尻さんが監督した『迷宮物語』の中の一編「走る男」は描き込みが多い作品で大変だったんですけど、それで反省したのか(笑)、『妖獣都市』は絵柄もシンプルになっていたんです。絵としてはとてもシンプルなんですが、それでもめちゃくちゃリアルに見える。「走る男」のときは車についているステッカーまで描いていたのですが――でも、上がったフィルムを見るとすべて真っ暗で見えなくて(笑)。川尻さんは『妖獣都市』でどうやってシンプルに絵を組み立てていくかをかなり考えられていたみたいで、そういう絵の作り方にも驚かされました。

――なるほど。
岡村 あと、川尻さんはものすごく手が早いんです。監督チェックでもめちゃくちゃ絵を修正しますし、むしろ全部自分で描いたほうが早いんじゃないか、と思うくらいなんですけど(笑)。『妖獣都市』のときは原画も描いていましたし、たしか作画監督もやっていたんじゃないかな。

――『妖獣都市』から学んだことで、今でも活かされていることはありますか?
岡村 カットの作り方――というか、いかに要素を引き算してカットを成立させるか、みたいなところを教えられた気がします。あと『妖獣都市』は、光の使い方が僕の好みだったんですよね。当時、スタッフはひとつの部屋に集まって作業していたんですが、隣の席がスタジオジブリに移られる前の男鹿和雄さんだったんです。その男鹿さんが、横に4フレーム分くらいあるビル街の背景美術をものすごいスピードで描いていく。手を4往復くらいさせたらもう出来ている、みたいな。

――それはまた、すさまじいスピードですね!
岡村 一気に下地を塗って、次にシルエット、その次に窓を描いていってハイライトを足したらもう出来上がり、みたいな感じで。サッとシンプルに描いて、でも綺麗かつ情報量が多く見える。「この描き方はセルにも応用できるな」と勉強させていただきました。すごい人たちは、見ているだけでも学ぶことが多いですね。

――その後も岡村さんは川尻監督とたびたびお仕事をしていますが、影響を受けている部分はありますか?
岡村 川尻さんはレイアウトが抜群にうまいんですが、結局、僕には真似できなかったですね。僕はもっさりした動きしか描けなくて、アクション系の原画があまり回ってこないんですよ。その結果、おじいさんとかおばあさんを描くことが多くなって(笑)。生活感のある作画をたくさんやらせてもらったかなと思います。endmark

KATARIBE Profile

岡村天斎

岡村天斎

アニメーション監督/演出家

おかむらてんさい 1961年生まれ、福島県出身。マッドハウスに入社後、アニメーターとして活躍したのち、オムニバス映画『MEMORIES』の一編「最臭兵器」で初監督。主な監督作に『DARKER THAN BLACK -黒の契約者-』『青の祓魔師』『世界征服~謀略のズヴィズダー~』など。