Febri TALK 2021.12.20 │ 12:00

斉藤健吾 アニメーター

①アニメーターを目指すきっかけ
『トップをねらえ2!』

初めて監督を手がけるオリジナル短編アニメ『空色ユーティリティ』が放送目前のアニメーター・斉藤健吾。そのアニメ遍歴を聞くインタビュー連載の第1回は、彼の人生にとって大きな転機になったという、隠れた名作について。

取材・文/宮 昌太朗

いまだにラジオの最終回が聞けないくらいハマった

――斉藤さんは子供の頃から日常的にアニメに触れていたのでしょうか?
斉藤 そうですね。小さいときは夕飯時に両親と一緒に『るろうに剣心‐明治剣客浪漫譚‐』を見たり、あとは『デジモンアドベンチャー』も大好きでした。小学校の1年か2年の頃で、当時、僕は学童保育に預けられていたのですが、住んでいた地域では『デジモンアドベンチャー』が夕方の4時頃から放送されていたので「頼むからこの日だけは、学童保育から早く帰らせてくれ」と親に頼んでいました(笑)。それくらいアニメが好きで見ていましたね。

――なるほど(笑)。今回1本目に挙がった『トップをねらえ2!(以下、トップ2)』ですが、これはいつ頃見たのでしょうか?
斉藤 初めて見たのは高校のときです。当時は深夜アニメが増え始めていた時期で、『地獄少女』とか『ニニンがシノブ伝』とか……。あと『交響詩篇エウレカセブン』や『CLANNAD』も、その頃に見ていた記憶があります。バイト代を貯めてハードディスクレコーダーを自分で買って、アニメばっかり見ていましたね。

――『トップ2』も、そういう中の一本だったわけですね。
斉藤 『トップ2』はケーブルテレビでたまたま流れてきた番宣を見て、「面白そうだな」と思ったんです。ただ、話はよくわからなくて「エキゾチックマニューバってなんだろう?」みたいな(笑)。わからないなりに「なんかかっこいいな」で話が進んでいくんですけど、とはいえ、わからないことがそこまでマイナス要素じゃなかったんですよ。「最終話まで見れば何かわかるのかも?」という気持ちで見ていたのもありますし、なにより絵柄がガツンと心に響いたんです。

――ノノとラルクのデザインは、今でも新鮮に感じますね。
斉藤 そうですね。メカのデザインも今までにはない感じで、流線形のフォルムなんですけど、そういうところも面白くて。とくにヴァンセットが好きでしたね。羽根とも手とも言えないあの造形がめっちゃカッコいいな、と。模写したり、オリジナルのキャラクターで似たようなヤツを描いていた記憶があります。

――今の話を聞いていると、前作(『トップをねらえ!』)を見ていない状態で『トップ2』を見ていたわけですよね。
斉藤 何かこれの前の話があるんだな、と思いながら見ていました。だから、最後にスーパーイナズマキックを出す場面は、感動できなかったんですよ。あとで『トップをねらえ!』を見て、「ああ、あのときのアレか!」と。

――『トップ2』から見始めたら、そうなっちゃいますよね(笑)。
斉藤 話しているうちにいろいろな場面を思い出してきたのですが、地球を敵にぶつけようとする場面で、突然現れたノノに対してラルクが「今さら出てきて、邪魔をするな!」みたいな展開になるんですよね。だけど、そのあとラルクは「ずっと友達でいたかっただけなのに!」って本心を叫ぶんです。それまで見ていたアニメでは感じたことがないような、感情の生々しさを感じて強く印象に残っています。そのシーンでは毎回泣いていました。……どうして泣いていたのかは思い出せないんですけど。

『トップ2』の絵柄は

すごく新しい感じがあって

「こういう絵が描きたい」と

気持ちがハマったんです

――あはは。
斉藤 あと『トップ2』はネットラジオも配信されていて(『DIEBUSTER WEB RADIO TOP!LESS』)、ノノ役の福井裕佳梨さんとニコラ役の岩田光央さんがパーソナリティだったんですけど、聞いているうちに漠然と「このふたりに会いたい!」と思ってしまったんです。そこから、最初は声優になろうと思ったんですよ。

――声優ですか!(笑)
斉藤 で、いや、待て待て……!と冷静になって。僕は人見知りなので、声優の道はちょっと厳しいなと思い直して(笑)。ただ、絵を描くことは昔から好きだったので、アニメに関わる仕事ならアニメーターがいいな、と。『トップ2』の絵柄はすごく新しい感じがあって、それが自分の中でうまくハマったんですよね。「こういう絵が描きたい」と。

――まさにアニメーターを目指すきっかけになった作品だったわけですね。
斉藤 冒頭、ノノが電車に乗って上京するシーンがあるのですが、専門学校に入学したときは「俺もノノみたいに、東京に行ってアニメーターになるんだ」みたいな感覚が少しありました(笑)。『トップ2』のネットラジオは本当に好きで、ずっと聞いていたんですけど、じつは最終回だけはいまだに聞いていないんです。というのも、最終回を聞いてしまうと本当に終わってしまう気がして……。それくらいどっぷりハマっていました。

――斉藤さんは後にトリガーに席を置くことになりますが、そこには今石洋之さんをはじめ『トップ2』に参加していたスタッフもたくさんいましたよね。
斉藤 そうですね。専門学校に入って、ようやくガイナックスという存在を知ることになるんですけど、そこで小学生のときに見ていた『新世紀エヴァンゲリオン』がガイナックスの作品だったということも知ったんです。だから「専門学校を出たらガイナックスに入りたい!」と思っていたのですが、書類選考で落ちてしまいました(笑)。

――斉藤さんにとって、ガイナックスは憧れの場所だったわけですね。
斉藤 めちゃくちゃ憧れの場所でした。後に『キルラキル』で今石さんやすしおさんとご一緒することになるんですけど、『キルラキル』の制作が終わったあとで今石さんと話す機会があって。そのときは緊張で身体中から汗が出まくって、メガネが真っ白に曇るほどでした(笑)。それくらい憧れの存在でしたね。endmark

KATARIBE Profile

斉藤健吾

斉藤健吾

アニメーター

さいとうけんご 1988年生まれ。大阪府出身。専門学校を卒業後、アニメーターとして数多くの作品に参加。これまでに参加した主な作品に『アズールレーン びそくぜんしんっ!』『SSSS.DYNAZENON』など。初監督作『空色ユーティリティ』が2021年12月31日にオンエア予定。

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