Febri TALK 2021.06.11 │ 12:02

荒川弘 マンガ家

③ガイナックスにハマった
『トップをねらえ!』

インタビューの第3回は「全部持っていかれた」と語る一作。『新世紀エヴァンゲリオン』と出会ってから、過去のガイナックス作品を掘り下げていった過程で出会った『トップをねらえ!』は、どこが響いたのか?

取材・文/岡本大介

学んだのは、もっともらしい嘘は必要なんだなということ(笑)

――1作目は1988年発売ですが、これはリアルタイムで見たんですか?
荒川 違います。『新世紀エヴァンゲリオン』を見た際にガイナックスさんに興味を持って、それから過去作を追いかけていったんです。『王立宇宙軍 オネアミスの翼』も渋くてとても好きなんですけど、『トップをねらえ!』は最初コメディかと思って軽い気持ちで見始めたら、エライ衝撃を受けまして(笑)。

――美少女、ロボ、スポ根と、モチーフはポップですが、ドラマはかなりシリアスですからね。
荒川 そうそう。死ぬキャラクターもいっぱいいるし、なによりウラシマ効果というSF設定がドラマの主軸になっていて、ノリコが宇宙で戦うたびに時間がズレるんですよね。ノリコにとってはちょっとの時間なのに、地球に帰ると同級生で親友だったキミコが結婚して子供産んでいるっていうのがなんとも言えずせつなくて。結局、最終的に地球に帰還したのが1万2000年後ですから、もうとんでもないですよね。そんなだから『2』でノリコたちを迎え入れるラストシーンでは号泣しちゃいました。『1』も『2』もそれぞれ面白いんですけど、私のなかでは2作品が相互に補完していて、セットだとなお素晴らしいです。

――とくに印象深いシーンはありますか?
荒川 『1』の終盤でモノクロになるところが好きです。アニメの武器である動きと色のうち、色を捨てるっていう思いきりの良さにも驚きましたし、さらにはそれが演出として成立しているのもまたスゴいなと。

――とてつもない大きなスケールのシーンなので、逆に情報量を絞ることで映像により集中できるんですよね。
荒川 それもあると思います。マンガに置き換えると、丁寧なペン入れはせずに勢いだけで筆でガッと描いたコマみたいな感じですかね。実際に読者さんから「あのコマはとくに迫力がありました」と褒めていただくことがあるんですが、実際には締め切りに間に合わすための苦肉の策だったり(笑)。

――狙ってやったわけではなかった。
荒川 そう。でも「時間がなかったから30分でえいやっ!と描いた」とは言えないから「えへへ、そうなんです。あえての演出なんです」って答えたり(笑)。

――あはは。また、本作はバスターマシンや宇宙怪獣といったロボット要素も満載ですが、そのあたりはどうでしたか?
荒川 いやあ、よかったです。『新世紀エヴァンゲリオン』もそうですが、人間っぽい造形が好みなので。なかでも『2』のディスヌフなんかは、学ランみたいなコートを羽織っていたり、下駄を履いていたりと番長っぽいデザインでめちゃくちゃ好きです。しかもCGの比率が少なくて、大事なシーンはほぼ手描きで動いているので、手描き世代の私としてはすごく燃えましたね。『天元突破グレンラガン』や『フリクリ』もそうですが、ガイナックスのアクションはどれもカッコよくて好きです。

宇宙って地上と違って

逃げ場がないじゃないですか

その緊張感が好きって

いうのはあります

――もともと宇宙を舞台にしたSF作品が好きなんですか?
荒川 SFならなんでも好きというわけではなく、詳しいわけでもないんですけど、宇宙って地上と違って逃げ場がないじゃないですか。その緊張感が好きっていうのはあります。地球が舞台ならどこまでも逃げることができますけど、宇宙だと艦内から放り出されたらその瞬間にアウトじゃないですか。そういう閉鎖的な空間で行われるドラマ性が好きですね。あと『トップをねらえ!』に関していえば、本編のあとに「科学講座」のミニコーナーが付いているじゃないですか。私、あのエセ科学の話が好きで(笑)。

――ほとんどが嘘なんですけど、なんだかそれっぽいんですよね。
荒川 そうそう! 『2』の「物理的に存在しないマイナス1兆2,000万度」とか、思わず「ほぅほぅ」と感心してから「いやいや違うだろ!」とか。タンホイザー博士っていう架空の科学者がニュートンやアインシュタインと同列に語られていたりするものだから、「へぇ、最近まで生きていた人なのか」って思ったあとに「いや、待て待て」ってツッコんだり(笑)。本編はブラックホール爆弾で銀河ごと吹っ飛ばそうとしたり、地球をまるごと敵の親玉にぶつけようとしたり、やっていることが終始ハチャメチャなんですけど、随所にそういう「民明書房」っぽさが散りばめられているので、不思議とその展開に乗れちゃうんです。嘘だとわかっていても、そうやって運ばれている自分がすごく心地いいんですよね。

――たしかに。独特のドライブ感や高揚感がありますね。
荒川 私がこの作品から学んだのは、もっともらしい嘘は必要なんだなということ(笑)。『鋼の錬金術師』の錬金術なんてまさにそうなんです。冷静に考えるとそんなわけはないんですけど、そこへ一応の理屈を持たせるのが大切だと思います。

――なるほど。こうして3作品について聞くと、アニメーションから学んでいることも多いんですね。
荒川 そうですね。基本的にアニメって、私の感覚的には現実とマンガの中間の表現なんです。だから、現実に見たものをマンガの絵として落とし込むときに、どこかで一度アニメーション化しているような気がします。そういう意味でも、アニメーションは気づきや学びの宝庫なんだなって思っています。endmark

KATARIBE Profile

荒川弘

荒川弘

マンガ家

あらかわひろむ。1973年生まれ、北海道出身。ゲーム雑誌のイラストや4コママンガなどを手がけつつ、読み切り作品『STRAY DOG』が「第9回エニックス21世紀マンガ大賞」で大賞を受賞してマンガ家デビュー。代表作に『鋼の錬金術師』(スクウェア・エニックス)、『銀の匙 Silver Spoon』(小学館)、『百姓貴族』(新書館)、『アルスラーン戦記』(原作:田中芳樹、講談社)などがある。

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