僕が書くセリフは『ビューティフル・ドリーマー』で学んだ
――まず最初に、鈴木さんのアニメ遍歴から教えてください。
鈴木 じつは幼少時代はあまりアニメを見ていないんですよ。私の家は壁一面が本棚という環境だったので、字の読める年頃になると「現代日本文学大系」や「吉川英治全集」などを読むようになっていて、テレビにあまり触れずに育ったんです。とはいえ、まったく見なかったわけではなくて、『謎の円盤UFO』や『宇宙大作戦』(『スター・トレック』)などの海外ドラマは好きでしたし、アニメも『銀河鉄道999』などは見ていた記憶があります。ただ、はっきりと「アニメって面白いな」と意識したのは『うる星やつら』が最初だったと思います。たしか小学校の高学年か中学生くらいの頃ですね。
――『うる星やつら』のどんなところが面白かったですか?
鈴木 もともと原作が好きで読んでいて、それがアニメ化されるということで見始めたんです。ところが、いざ見てみたらオリジナルエピソードも多いし、マンガとは印象がずいぶんと違ったんですよ。ですので、最初は「なんだか自分が求めているものと違うぞ」って怪訝に思いながら見ていたんですけど、原作以上に何が飛び出すかわからないハチャメチャな感じがクセになってきて、気づいたらハマっていたんです。ただでさえ刺激的な原作をさらに過激にしていて、シュールさも増しているし、キャラクターも本当に魅力的でした。まだ家にビデオデッキがなかったので、テレビの前にラジカセを置いて録音して、その音声を繰り返し聞いていましたね。
――かなりのハマりっぷりですね。全218話と非常に長いシリーズですが、とくに前半はチーフディレクターだった押井守さんの色がかなり濃く出ていますよね。
鈴木 そうですね。アニメスタッフの名前を気にするようになったのは、この作品が初めてだと思います。というのも「なんか今日のラムちゃんはかわいくないな」と思っていたら作画監督が違う人だったり、「変わった演出だな」と思って調べたらどうやら「演出家」という職種があるということを知ったり。そうこうしているうちに自然とアニメ雑誌も買うようになっていきました。少ない小遣いをなんとかやりくりしつつ『アニメック』というマニアックな雑誌を購読していたんですけど、細かい演出論だったり評論記事がびっしりと載っていて、「なるほど、アニメってこうやって作られているんだな」と、より深くアニメを知っていくきっかけになりました。
何が飛び出すかわからない
ハチャメチャな感じが
クセになってきて
気づいたらハマっていました
――原作とアニメの印象が違ったからこそ、そこに興味を持ったんですね。押井さんの名前もその流れで知ったのでしょうか?
鈴木 はい。ただ、個人的には、やまざきかずおさんがチーフディレクターをされていた後半の『うる星やつら』のほうが好きなんですよね。押井さんの作るオリジナルエピソードって、当時の僕にはそこまで刺さらなくて、それよりも原作に準拠した形で盛り上げてくれる「やまざき版」のほうが好みだったんです。ただ、劇場版の『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』はすごく好きでした。大学生のときに、仲間と一緒に最初から最後まですべてのセリフを効果音つきで演じたこともあるくらいです(笑)。
――すごいですね。なぜそこまで?
鈴木 宴会芸として、大学の先輩たちが『風の谷のナウシカ』で同じことをやっていたんです。ならば、私たちもということで(笑)。
――すべてのセリフを暗記したということですよね。
鈴木 もちろんです。完コピを目指してずいぶんと練習しましたから、すっかり身体に染み着きました。それもあって、僕が書くセリフのテンポ感やワードセンスだったりというのは、かなりこの作品から影響を受けていると思います。あと、これは押井さんの趣味だと思いますけど、ハリアー戦闘機やレオパルド戦車など、けっこう本格的なミリタリー描写があるじゃないですか。僕はもともとミリタリー好きなので、ああいう描写に惹かれましたし、そこも影響を受けているんじゃないかなと思います。
――鈴木さんは脚本も書きますし、よく考証や設定なども担当していますよね。学生時代からアニメ業界に入ろうと考えていたんですか?
鈴木 いえ。アニメは好きだったんですが、それ以上にゲームが好きで、さらに当時はパソコンにハマっていたので、大学卒業後はアスキーに入社したんです。とはいっても、クリエーター職ではなく、企画営業部というところで働いていました。そこからアニメ業界で仕事をするようになったのは、いろいろな出会いや偶然が重なった結果ですね。
――そうだったんですね。では、『うる星やつら』でとくに好きなキャラクターや印象深いエピソードはありますか?
鈴木 言うまでもなくラムちゃんはかわいくて大好きなんですけど、基本的には「箱推し」です。あの世界でいつものメンバーたちがわちゃわちゃしている、その雰囲気自体が大好きなんです。僕にとっては「自分もあの世界に行ってみたい」と思わせてくれる存在なので、残念ながら特別なキャラクターやエピソードというのは選べないですね。すみません。
KATARIBE Profile
鈴木貴昭
企画/文芸/脚本
すずきたかあき 北海道出身。『LAST EXILE』の脚本・文芸担当として初めてアニメ制作に携わり、以降多くのSF・ファンタジー作品で世界観設定や軍事考証などを務める。代表作は『ストライクウィッチーズ』『ガールズ&パンツァー』『ハイスクール・フリート』など。