Febri TALK 2021.12.29 │ 12:00

高村和宏 アニメ監督/アニメーター

②すべてのエンタメのお手本
『天空の城ラピュタ』

『ストライクウィッチーズ』をはじめとする『ワールドウィッチーズ』シリーズの監督として知られるアニメーター・高村和宏が選ぶアニメ3選。2作目は、キャラクターの魅力が凝縮されたあらゆるエンタメ作品の教科書だと言いきる『天空の城ラピュタ』についてのインタビュー。

取材・文/岡本大介

俺の嫁ランキングNo.1 シータの魅力とは?

――1作目の『風の谷のナウシカ』に続き、宮崎駿監督作品ですね。
高村 これも『風の谷のナウシカ』と同じくテレビ放送で偶然見たのが最初です。たしか高校1年生だったと思いますが、当時はまだ作り手の名前を意識していなくて、宮崎さんの名前すら知りませんでした。ただ、これがあまりに面白かったので、見終わったあとでスタッフを調べたんですね。そうしたら宮崎駿さんという方で、しかも『風の谷のナウシカ』や『ルパン三世 カリオストロの城』を作った人だとわかってびっくりしました。

――『ルパン三世 カリオストロの城』も好きだったんですね。
高村 めちゃめちゃ好きです。僕が人生で大好きな作品のほとんどを宮崎さんが作っていたわけですから、そりゃ4回もジブリを受けますよね。まあ、全部落ちましたけど(笑)。

――そんな過去があったんですか。では、あらためて『天空の城ラピュタ』のどこがいちばん好きなポイントですか?
高村 これがですね、やっぱりシータがかわいいからなんです(笑)。「主人公」や「ヒーロー」という観点で見るとどうしてもナウシカには勝てないんですけど、好きの度合いでいうとシータに軍配が上がるんですよね。

――どんなところがナウシカを上回っていますか?
高村 端的に言えば、お嫁さんにするなら断然シータということですかね。仮にナウシカと結婚した場合、何か事件や問題が起こるとすぐに家を飛び出していって、結果的にほとんど家にはいないような気がするんです。それはすごくナウシカらしいんですけど、待つ身としては気が気じゃない(笑)。それに対してシータはきっと良妻賢母なタイプですよね。リアルな生活を想像したときには、やっぱりシータの大勝利なんです。

――シータは料理も上手ですし、家事全般が得意ですからね。
高村 そうなんですよ。ナウシカは尊敬できるし理想なんですけど、僕には恐れ多いといいますか、手に余るといいますか(笑)。

――シータがとくにかわいいシーンといえば、どこですか?
高村 序盤の、パズーの家で目を覚ましたシータが鳩にエサをあげるシーンですね。おびただしい数のハトがシータに群がるんですけど、それがシータの衣装のように見えて、その姿はどれだけ着飾ったドレスよりも美しくて、かわいく感じるんです。あのシーンは神々しくて、いつ見ても胸を打たれます。その他にもシータはかわいいシーンが無数にあるんですよ。地下坑道でパズーと一緒に目玉焼きを食べるシーンとか、ドーラ一家から逃げる汽車で石炭をくべるシーンとか、ドーラに飛行石の光の方向を聞かれた際、その説明が丁寧でわかりやすいところとか、挙げたらキリがないくらいです。

――シータへの愛がすごいですね。
高村 当たり前です。でも、無数にあるシータの名シーンでNo. 1を選べと言われたら、やはりシータ救出の一連のシークエンスでしょうね。「シータ〜!!」「パズー!!」と叫び合いながら、塔から躊躇なく身を投げ出すシータとそれを抱きかかえるパズー。あそこはパズーがキャッチしてくれないとそのまま地面に激突して死んでしまうという状況ですから、相当な信頼関係がなければそんなことはできないんですけど、そこまでの流れで視聴者が納得するだけの関係値がすでに構築されているんですよね。まだ物語の中盤であることを考えると、それが何よりスゴいと思いますし、あそこは宮崎駿作品でも屈指の名場面だと思います。

見ている人に感情移入させる

ことに関して

『天空の城ラピュタ』ほど

優れた作品はない

――実際、その場面はファンの間でも屈指の名シーンとして有名です。
高村 音楽も最高にいいんですよね。アニメーションとBGMが完全にシンクロしていて、当時高校生だった高村少年は鳥肌立ちまくりでした。プロになった今でも、たった一度でもああいうシーンが作れたらアニメーターとして本望だろうなと思いますし、つねにそこを目指したいとも思っています。アニメ業界で生きる者としては、憧れや羨望、嫉妬など、さまざまな感情が複雑に入り混じるようなシーンでもありますね。

――プロの目線から見ると、あのシーンは何がいちばんスゴいと感じますか?
高村 うーん、難しい質問ですね。単純にあの救出シーンを真似したり再現したりしてもあのスゴさって表現できないと思うんです。やはりあそこに至るまでのドラマの積み重ねがあってこそなので、そこですよね。キャラクターの関係性の構築が抜群にうまいなと感じます。見ている人に感情移入させることに関して『天空の城ラピュタ』ほど優れた作品はないような気がします。

――たしかに。キャラクター全員がとにかくイキイキとしているというか、それぞれの役割に徹している印象があります。
高村 そうですね。ムスカは徹底して悪役で、むしろそこに特化しているからこそ魅力的なんですよね。ムスカが多少なりとも視聴者の共感を得てしまうと、パズーとシータは「ムスカを死に追いやった」という業を背負うことになってしまう。だからこそ、ムスカは最後まで悪役に徹する必要があるんです。そういう意味で本作はキャラクター造形や配役のお手本のような作品で、実写やアニメを問わず、あらゆるエンタメ作品の教科書になりえると思っています。そのくらいよくできているんですよ。

――最後に、エンディング後のパズーとシータはどうなったのか、想像することはありますか?
高村 パズーはシータの故郷が見たいと言っていましたから、月並みですけど順当に結婚して幸せな家庭を築いていると思います。いやぁ、パズーが本当にうらやましいです(笑)。endmark

KATARIBE Profile

高村和宏

高村和宏

アニメ監督/アニメーター

たかむらかずひろ 1972年生まれ。福井県出身。スタジオ・ザインなどを経てガイナックスに入社し、現在はフリーとして活躍するアニメーター。作画監督を務めた作品は『カードキャプターさくら』『天元突破グレンラガン』など多数。また、『ストライクウィッチーズ』『ビビッドレッド・オペレーション』『ブレイブウィッチーズ』『ストライクウィッチーズ ROAD to BERLIN』などの作品で監督を務めている。

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