Febri TALK 2021.12.27 │ 12:00

高村和宏 アニメ監督/アニメーター

①至高のヒロインとの出会い
『風の谷のナウシカ』

『ストライクウィッチーズ』をはじめとする『ワールドウィッチーズ』シリーズの監督として知られる高村和宏が選ぶアニメ3選。1作目は、中学生時代に出会い、現在に至るまで最高のヒロインであり、ヒーローであり続ける『風の谷のナウシカ』についてのインタビュー。

取材・文/岡本大介

強くて優しくて品があってかわいくて……ナウシカは最高です

――高村さんは子供のときからアニメが好きだったのでしょうか?
高村 いえ、それが子供の頃はアニメをあまり見ていなかったんですよね。僕は福井県出身で、テレビのチャンネルがNHKを含めても3つしかなかったんです。だから、そもそもアニメがあまり放送されていなかったですし、個人的にも『スター・ウォーズ』などの特撮SFのほうが好みでした。唯一、記憶に残っているのは『Dr.スランプ アラレちゃん』くらいです。だから僕の場合、幼い頃からアニメーターになろうと思って一直線にこの業界に飛び込んだわけではないんですよ。

――では、学生時代は何になりたかったんですか?
高村 絵は子供の頃から好きだったので、学生時代はずっとマンガ家を目指していました。その道に挫折してアニメーターになった感じです。

――ということは、学生時代はマンガを投稿していたんですね。
高村 高校生のときに3~4回は投稿したと思いますね。SFやファンタジー系の作品を描いていたと思うのですが、まあ箸にも棒にもかからなくて。今にして思えば、当時はキャラクターよりストーリーを重視していて、自分で言うのもなんですけど、かなりつまらなかったと思います(笑)。今はなによりもキャラクターが大事だと思っているのですが、当時はその真逆のような作品を描いていました。

――なるほど。では、1本目に挙げた『風の谷のナウシカ』から。初めて見たのはいつですか?
高村 中学1年生だったと思います。劇場で見たわけではなく、たまたまテレビで放送されていたのを見たのですが、冒頭から一気に作品世界に引きこまれて、めちゃめちゃ面白くて衝撃を受けました。とにかくナウシカがカッコいい! かわいい! これに尽きます。

――やっぱりキャラクター重視なんですね。
高村 そうですね。『風の谷のナウシカ』に関しては多くの人がさまざまな角度から語り尽くしているので、今さらピックアップするのもどうかなと迷ったんですけど、でも僕の中でナウシカは理想のヒーローでありヒロインでもあるので、やっぱり外せないです。

――ナウシカにひと目惚れした感じですか?
高村 はい。とはいえ、容姿に惚れたわけではないんです。そもそも冒頭シーンのナウシカって、マスクを被っていて顔がハッキリと映らないですよね。でも、僕はナウシカがマスクを取る前にすでに心を奪われていました(笑)。所作や動作が機敏で、でも同時に優雅さも感じられるし、声や話し方もキリッとしつつ優しい雰囲気もあって。顔は見えずとも、彼女の立ち居振る舞いからキャラクター性が伝わってくるというか。中学生ながら「女の子のかわいさっていうのは、容姿で決まるわけじゃないんだな」と感じましたし、その考えは今も変わっていません。

この作品の世界観や

ストーリーって

すべてはナウシカを

引き立たせるための

舞台装置なんじゃないか

――たしかにナウシカは魅力的なキャラクターですよね。でも、この作品に関しては、独創的な世界観やメカニック設定、強烈なテーマ性などに惹かれている人が多い印象です。
高村 多くの方はそうかもしれませんね。でも、僕の受け止め方はちょっと違っていて、この作品の世界観やストーリーって、すべてはナウシカというキャラクターを引き立たせるための舞台装置なんじゃないかなと思っていて。宮崎駿監督がどう思われているかはわかりませんが、僕にとってはそんな気がするんです。

――とくにお気に入りのシーンはどこですか?
高村 中盤で、トルメキアのガンシップに襲撃されたナウシカが「テト、はやく!」と言って胸の谷間にテトをしまい込むシーンです。もう最高にかわいいです。

――あそこは一瞬胸元がはだけて、ちょっとセクシーなんですよね。
高村 そうそう。高村少年の心がギュッと鷲づかみにされました(笑)。

――セクシーという意味では、メーヴェで飛行するナウシカをお尻側から映すショットも印象的です。『ストライクウィッチーズ』でも飛行する少女たちのお尻は大きなチャームポイントですから、そこは共通しているように思います。
高村 たしかに。でも、それはナウシカに影響を受けたというわけではなくて、純粋に僕自身のフェチです(笑)。ひょっとしたら作品のフックになるかもという下心もコミコミでした。

――なるほど。ご自身の作品でキャラクターを作る際、ナウシカの存在を意識しますか?
高村 はっきりと意識することはないですけど、自然と似てくるような気はします。あらためて考えると、たとえば『ストライクウィッチーズ』シリーズの主人公である宮藤芳佳(みやふじよしか)は「将来、ナウシカのようになる可能性を持った女の子」という気がします。

――たしかに宮藤は登場時からかなり成長して、だんだんとヒーローっぽくなっていきました。
高村 そうですね。かわいいんだけど、どこかにスーパーヒーロー的な要素を持った女の子が好きなんでしょうね。それで言うと、ラストシーンで王蟲の群れがナウシカを蘇生させるシーンは、大ババ様の「その者青き衣(ころも)をまといて金色(こんじき)の野に降り立つべし」というセリフが脳内にフラッシュバックして「ナウシカが伝説の人だったんだ!」と鳥肌が立ったのをおぼえています。

――ナウシカは紛れもなくスーパーヒーローですよね。
高村 この作品は何度見たかおぼえていないくらい見ましたけど、そのたびにナウシカがかわいいなって思うんですよね。強くて優しくて品があってかわいくて……やっぱり最高ですね。endmark

KATARIBE Profile

高村和宏

高村和宏

アニメ監督/アニメーター

たかむらかずひろ 1972年生まれ。福井県出身。スタジオ・ザインなどを経てガイナックスに入社し、現在はフリーとして活躍するアニメーター。作画監督を務めた作品は『カードキャプターさくら』『天元突破グレンラガン』など多数。また、『ストライクウィッチーズ』『ビビッドレッド・オペレーション』『ブレイブウィッチーズ』『ストライクウィッチーズ ROAD to BERLIN』などの作品で監督を務めている。

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